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シンポジウム高浜記録(基調報告)

1 基調報告/山路 栄一(三重県職員)私のパーソナル・マニフェスト(脱「お役所仕事」提案)
~自治体職員有志の会の設立の経緯をたどりながら~1 はじめに

 本日は、自治体職員有志の会主催のシンポジウムに地元東海地区はもとより北海道や沖縄といった遠方からも、また、自治体関係者のみならず、広く自治体経営に関心をお持ちの一般のみなさんにもお集まりいただき、ありがとうございます。また、ご多用のところ基調講演をお引き受けいただきました後教授、パネルディスカッションにご出席を頂きました関西学院大学の石原教授、穂坂、森、白井、後藤の各首長の皆様、そして開催にご尽力を賜った地元高浜市の森市長をはじめ、職員の方、関係者のみなさまに改めてこの場をお借りして御礼申し上げます。
 本日のプログラムのメインである名古屋大学の後先生の基調講演、3つの自治体、高知県、札幌市、福岡市の先進事例の報告、さらには石原先生と4市長、2人の職員によるパネルディスカッションに入る前に自治体職員有志の会の紹介を兼ねて、これまでの会の取り組みと今後の会の活動について私の想いも含めてお伝えしたいと思います。

 本日、高浜市で開催する自治体職員有志の会主催のシンポジウムの参加者が当初予定していた150人を大きく超えて200人近くになりました。
 もちろん動員などは一切なく、自治体職員、地方議会議員の方など自治体関係者や自治体の課題に関心をもっていただいている方が開催主旨に共鳴して自主的に申し込んでいただいた結果です。
 かつて地方発の発信といえば補助金の恩恵に預かった豪華な箱物などのハードが中心でしたが、今ではニセコ町の自治基本条例や三重県の政策評価システム、岩手県、高知県、三鷹市などの行政経営品質向上活動、さらには高浜市や志木市などが取り組んでみえる市民、NPOとの協働、パートナー制度などソフトの政策で自治体が中央省庁をリードしています。
 このシンポジウムではさらに進んで組織としての自治体だけではなく、個人としての職員も自治体の枠を超えて連携すればここまでできるという志や気概といったものを広く示す機会にしたいと念願しています。
 これまで自治体職員のことがマスコミなどで取り上げられるのは、残念ながら汚職や官僚主義的な仕事のスタイルに関することなどマイナス面のことが多かったのですが、今こそ、自治体職員のワークスタイルをルールドライブ型からミッションドラブ型に転換することで「お役所仕事」からの脱却を宣言したいと夢に描いています。
 ここ高浜でのシンポジウムは必ずや「脱・お役所仕事」の第一歩の場になるはずです。

 「自治体職員有志の会」のそもそものはじまりは、昨年の1月に改革派の6県知事(高知県:橋本、宮城県:浅野、鳥取県:片山、岩手県:増田、和歌山県:木村、三重県:北川(当時)を集めて四日市市で開催された「シンポジウム三重」でした。その際、神戸都市問題研究所の大島さんと再会して、同研究所で開催される金井壽宏神戸大学大学院経営学研究科教授のキャリア・デザインの講演に誘われました。
 金井先生の講演には、神戸市職員の方と私のほかにも他の自治体の方もみえていたのですが、せっかくの機会だから、神戸市職員の経営品質等のプロジェクト・チームを母体にキャリア・デザインや自治体改革について議論するメーリング・リストを発足させようということになりました。
 その後、主に口コミで会員が増え、顔を知らない人も多くなったので1回オフ会を開こうということになったのですが、せっかく開くのなら先進的自治体経営をされている首長さんが求める職員像も聴きたいということになました。職員でも組織が大きくなると、自分の自治体でもなかなか首長の話を聞く機会が少ないので、常設型の住民投票条例や自治体業務のアウトソーシングで有名な高浜市の森市長に講師をお願いしたのがオフ会・講演会の始まりです。

 さて、先の参議院選挙では定着した感もあって、以前ほど脚光浴びませんでしたが、最近の選挙ではこれまでウィッシュリスト(おねだりリスト)としての役割しか果たしていなかった公約に代わってマニフェスト(政権公約)が注目を集めています。
  その本家の英国の例を持ち出すまでもなく、本来マニフェストは政党が作成するべきものですが、その有効性が北川前三重県知事らによって説かれて以来、増田岩手県知事、松沢神奈川県知事、西川福井県知事などの地方自治体の首長によっても統一地方選の際にマニフェスト(ローカル・マニフェスト)が作成されています。
  組織の長期の目標であるビジョンへの貢献と自分自身のキャリア・デザインのためにも組織に属する個人もパーソナル・ビジョンを作成するべきであるという持論を持つ私は、この際個人もマニフェスト(パーソナル・マニフェスト)を作成してはどうかと思い、今回のお話のタイトルに使わせていただいた次第です。

2 自治体職員有志の会設立にかける想いときっかけ

 (1) 設立にかける想い
 自治体の首長の任期の一期は4年間です。多選批判は一律には当てはまらないにしても永久にその座にあることはできませんから、改革を成し遂げるなどして優れた、評価の高い自治体経営者でもいつかは交替するときがきます。
 それに対して職員は通常、中途採用を除き、40年あまりその自治体で働くのが普通です。
 都道府県、市町村を問わず、多くの自治体で改革派の首長が登場し、話題を呼び、成果を挙げ、注目を集めていますが、問題は首長が交替したときその方向がどうなるかです。
 自治体の首長は企業経営者と違い、単に組織(都道府県や市町村)のトップという立場だけではなく、いわばその地域の経営者という役割があります。公の地域の経営者を決めるのですから選挙という民主的な手法で選出されます。よって、現首長による後継指名というのもおかしいし、なじまない手法であると思います。
 三重県の北川前知事が二期八年で引退を表明したとき、外部から興味本位で「三重県の改革の方向はどうなるのか、後退するのではないか」とよく聞かれました。かつて県内を走る国道23号になぞらえて「ルート23の県」といわれ、ほとんどの指標で47都道府県の真ん中くらいが定位置であった三重県を一躍、全国に知られる改革先進県にした北川前知事の引退後のことが注目されたのです。
 私は、それに対して自治体の首長は職員が自分たちの組織のトップを選ぶのではないし、また自分の一票以外は影響力を行使できないのだから、そんなことをあれこれ考えてしょうがない。職員は職員として自らのベストを尽くすだけだと思いました。そして思うだけではだめなので、行動に移すため、首長だけではなく職員のレベルでも自治体の枠を超えて連携しようと「自治体職員有志の会」を、志を同じくする仲間と昨年6月に立ち上げました。
 今の野呂知事も基本的にはその路線の継承を表明しています。要は、キャッチフレーズなり、やり方が変わっても基本となる理念、ビジョンがぶれないかどうかが重要だと思います。山への登頂ルートは一つではないということです。
 「生活者起点の県政」(北川前知事当時)が「県民が主役の県政」(野呂知事)になっても目指すところは変わらないはずです。目標は、県民満足志向の県政ですが、そこへの到達ルートは様々あり、その時の首長がどういった手法を選択するかではないかと思っています。
 そしてその実務を担い成果を挙げるのは、首長が替わっても継続して働く我々職員の役目なのではないでしょうか。 

(2) きっかけ 
 中日新聞や朝日新聞、共同通信の配信を受けた地方紙に報道されるのに「神戸キャリアデザイングループ」では違和感がありましたのであまり深く考えず、名前を現在の「自治体職員有志の会」に変えました。
 新聞で報道されたこと効果もあり、問合わせや入会希望が全国の自治体職員から相次ぎ、8月21日現在240人の会員がいます。
 これまで全国各地で自治体の枠を超えて勉強会、研究会をしていた職員や主旨に共感した地方議会の議員の方が参加してくれたりしたためです。オフ会もこれまで5回開催し、会のホームページ http://sites.google.com/site/cdkikaku/ のアクセスも増えています。(新聞で予想外に大きく取り上げられ、私の名前も出たことにより、予想もしない波紋(庁内で政治家になるのか、とか北川前知事の個人秘書にでもなるのかとうわさされました)を呼んだのは私の不徳の致すところであり、脇の甘さが出ましたが、庁内では知事、副知事、総合企画局長、総務局長といった方を回り、あくまでも個人の取り組みであって政治性を持つものではないことを説明して保身をはかりました。
公務員の世界では、このようなことを行うと、まだまだマイナス評価になるのだなと感じました。

3 自治体職員有志の会設立のこれまでの活動

(1) メーリング・リストによる意見交換
 ウェブ上でメーリングリストグループを形成し、メンバー間で意見交換・情報交換を行い、相互研鑚を行っています。話題としては政策評価、ISO、キャリアデザインなどです。
(2) ホームページによる情報提供、提言活動
 当会のホームページを立ち上げ、当会の意見交換の内容や地方自治や公務員のキャリア・デザインに関する提言等を行っています。
(3) 自治体首長を招いての講演会及びオフ会の開催
 ウェブ上の意見交換に加えて、自治体改革に積極的に取り組まれている自治体首長をメインゲストにお迎えし、改革に向けた取り組みや課題等をお聞きするとともに、議論の場にお入りいただき、活発な意見交換を行うための講演会及びオフ会を概ね二ヶ月に1回、開催しています。

4 自治体職員有志の会のこれまでの成果と今後の展開

 では、成果は何かと聞かれると一番困りますが、職員の立場でのボトムアップには限界がありますが、自治体職員同士が担当業務でない、自治体の課題、改革、経営について議論し、それを広める場を持てたことが一番の成果だとも考えています。
 全国の志ある自治体職員を勇気づけ、枠を超えて連帯の輪を広げたということで、一定の成果をあげたとは思うのですが、発足してから1年が過ぎ、今日記念のシンポジウムを開催している中で、改めてこの会の目的、目標を考え、今後の新たな展開(民間企業経営者やNPO活動家との意見交換、志や情報発信を目的とした会としての書籍の出版)に想いをはせているところです。
 また今後は、ただ首長のお話を聞くだけでは成果につながらないので会として考えた政策などを実施できるフィールドをもってみえる首長に提案していくことや将来的には会のNPO法人化も考えています。 
 ただ、この会はあくまでフラットな集まりなので私の想いがそのまま会の活動につながるわけではありません。

5 「自治体プロ職員」にかける想いと呼びかけ

 みなさんが一般的に「プロ」という言葉を聞いて、真っ先に思い浮かべる職業としては、スポーツ選手、芸術家などでしょうか。
 しかし、組織に属する企業の社員や国の職員、自治体の職員もそれぞれ企業の発展、国の成長、地域の活性化という仕事に携わる以上は一流のプロでなければならないというのが、私の信念です。
 つまり、担当している仕事に関してはオンリー・ワンの能力を持ち、置き換えのできない人材、余人をもって代えがたい存在つまり、他の誰によっても取って換わることができない人材にならなければ自分がその仕事を担当している価値がないと言えます。
 私は、「力及ばず敗れることは辞さないが、力尽くさず挫けることは拒否したい」と思い、自治体職員としてプロをめざす中で「考えて正しいと思ったことは勇気をもって発言し、実行すること」を自らのポリシーにしています。
 その信念に基づき、志をもって、惰性にながされないように、現場や細部にこだわりを持ち、仕事をしている中で生意気ですが、自らリスクをとって「カナリア職員」となり、「高位平準化」を目指して「結合改善」し、自治体職員の世界で「北京の蝶々」を飛ばしたいと思います。
 言うだけではNATO(No Action Talking Only)になってしまいますので、私が仕事以外で個人的にやっていることをご紹介します。まず、新聞、書籍やインターネットなどのオープン情報で共感する首長や経営者と連絡をとって意見交換するようにしています。また、2年前の5月からメールマガジンを庁内外に発行しています。今では私のコミュニケーションツールになっており、やめるにやめられない状況です。そして昨年の4月に個人のホームページも立ち上げ、毎日更新しています。

最後に

 「お役所仕事」という言葉を死語にすることが私の夢であり、期限も財源も明示されていなくて志だけなのでその意味では要件を満たしていませんが、これが本日主張したい私のマニフェスト「脱お役所仕事宣言」です。4つあるのでお聞きください。

(私たち、志ある自治体職員は)住民、企業や地域にとって必要で価値あることを迅速に実行することで「お役所仕事」という言葉を死語にするように努めます。
(私たち、志ある自治体職員は)規則に縛られた「ルールドライブ型」の仕事から、行政の本来の使命を達成する「ミッションドライブ型」の仕事のスタイルに転換します。
(私たち、志ある自治体職員は)住民や企業がここで住みたい、活動したいと思うような地域づくりに貢献するために、自らのキャリアをデザインし、その達成に務めます。
(私たち、志ある自治体職員は)住民やNPO、企業等と協働して地域の内発的発展と地域格の向上をはかり、その高位平準化に務めることで日本の明るい未来を切り開いていきます。
 森市長にもこれをお見せしたとき言われたのですが、どれも極めて当たり前ことですが、それができていなかったということだと思います。ここにこれまでのそういったスタイルから脱却することを宣言しましょう!
 よく自治体や公務員がマスコミで話題になることは汚職など懲戒のことやその旧態依然とした仕事ぶりでした。それでは、我々は何のために自治体職員になったのかわかりませんし、地域の明るい未来も描けません。 白井市長がおっしゃるように退職したときに市役所などを誇りを持てる職場にしたいと思います。
ぜひ、地域経営に携わり、地域の内発的発展を使命とするプロとして顔の見えるこだわりをもった仕事をしていきましょう。
夏休みの土曜日という貴重な時間に、呼びかけに応じて全国から集まっていただいた200名近くのみなさまに心から感謝申し上げます。 この後の発表、パネルディスカッション、懇親会での交流をお楽しみ下さい。


「2 基調講演」に続く


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