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情報開発と利活用

情報開発と利活用

教育訓練開発手法の紹介

教育訓練開発手法の紹介



ITU認定
訓練開発士
藤岡慎弥

M0-0 はじめに



私はサラリーマン時代、海外訓練センターで、コース開発や講師の育成を担当後、ドキュメンテーションの合理化、XML/EDIといろいろ経験させてもらったのですが、もともと、私の専攻はスペイン文学でした。

外国語大学を卒業してから、中南米のビジネスがあるというので自分の学んだスペイン語が役に立つと思われたので海外事業部のある企業に就職しました。しかし、実際、仕事をやらせてもらうと、すぐに自分が習ってきた語学がほとんど役に立たないことに気が付きました。むしろ、工事隊で現地に行って1-2年、現場で苦労してこられた技術者の人のほうが会話も技術用語も使いこなしているのです。自分はとても彼らの足元にも及ばないのに愕然としたことがあります。

その後、へたなりにOJTで通訳や翻訳の仕事をやらされ、恥をかきながら真剣にスペイン語や英語を学び直し、2-3年以上かけて、人並みにスペイン語や英語で苦労することが少なくなった記憶がありますが、ここに教育訓練の一つの問題点を見出すことが出来ます。

つまり、基礎教育を受けただけや、講義を聞いて一部の知識を得ただけでは仕事に使えないということです。先生としては「一通り、教えたから、できるはずだ。」と言いたい気持ちは分かります。しかし、教育目標が学校と企業で異なるのか、学校の教育目標は達成しているのかもしれないが、企業の教育訓練目標はその教育訓練が修了したら、成果として期待される行動目標が身についている必要があります。そうでなければ、教育訓練の目標を達成したとはいえないのではないでしょうか。

そのためには確かに一般的な集合教育では限度があり、それを承知で知識教育のみを行い、後はOJTで現場の訓練ニーズに時間をかけて対応してきたのではないでしょうか。しかし、世はまさにインターネット時代、昔のようにのんびり時間をかけている暇はありません。そのためには原理原則に立ち戻って、再度、教育訓練のあり方を見直してみたい。

昔、ITU主宰の訓練コース開発のセミナーで4週間のワークショップを通じて習得した内容をまだ、記憶が残っている間に、次世代の教育訓練にも役立つものがあれば、参考にしてもらいたいのでこれから、紹介していきたいと思う。


M0-0-1教育訓練目標



ここで紹介したことだけで、教育訓練コースや教材が開発できるようになるとは言いませんが、その道筋だけでも紹介したいと思います。現場で実際に実践できる手法を習得し、実行できるようになるにはやはりそれなりの訓練コースを受けて演習も経験していただく必要があります。

いずれにしても、どれだけ、時間をかけて訓練をしたとしても最後は教育訓練の主体は皆さんにあり、ここであえて学習という言葉を使いますが、与えられたスペースと限られた時間で出来るだけの努力をし、皆さんと一緒に学習をしていき、何か仕事に役立つものが残るようにしたいと思います。

ここに紹介している理論的なものはあくまで訓練の一部であり、ここで概略説明を読んで分かったような気がするからといって、簡単にコースが開発できるようになることはありえません。すなわち、実際には理論的説明の後に、いろいろなハンドアウトや演習問題が用意されており、少なくとも次の項目については4週間の学習を修了すれば、目標行動として実行できるようになります。

(1)各種技法を駆使して教育訓練の対象となる作業の分析ができる。
(2)訓練ニーズの分析と作業補助手段の仕様書の準備ができる。
(3)目標行動の分析と最適訓練モジュールの構成ができる。
(4)レッスンプラン作成とその参考資料が準備できる。
(5)目標行動に準じたテストが作成できる。
(6)テストの結果を分析し、検証結果をフィードバックできる。
(7)訓練のモデルや指導事象の考え方を参考にしながら、訓練戦略をまとめられる。


M0-1 TDGとの出会い



なぜ、元語学屋が技術訓練コース開発に関係があるのかと言う疑問をもたれるかたもおられるといけないので念のため、下記に説明します。
入社して2-3年は確かにスペイン語や英語の通訳やコーデイネータの仕事しか出来なかった。今にして思えば、インタープリターではなく、インタラプターであったのではないかと反省しています。

通訳や翻訳をやりながら分かったのとは、本当に内容を伝えて理解してもらおうと思ったら、テキストの準備などのコース開発の段階から関与していって、自分自身もある程度、講師の言うことが理解できなければ、通訳された研修生のほうも分かるはずがないということでした。

逆に言葉は単なる手段であって、内容の分かっている技術者が実物を利用して説明できれば、舌足らずで多少文法的におかしな英語であっても、下手な通訳が入るよりましなのではないかと確信した。

要は何を教えたいのか、どのようにどこまでも身につけてもらいたいのかなのです。それをまとめたコースウエアを確立しておき、講師のコーチの下に本人に主体的に学習してもらえる環境のほうが重要ではないかと思った。

また、今日、いわゆる教育訓練と言うと、将来いるかもしれない、いずれ必要になるかもしれないという余計な知識を教えすぎの印象もあります。場合によってはそんなに訓練をやらなくとも読めば分かる操作マニアルや保守の作業手順書があれば、実際の業務を自分で行え、必要に応じ、アドバイスしてあげれば、いろいろな知識や技能も自然と身に付き、業務効率も上がるのではないかということです。

そう思っていたところ、ITUのプロジェクトで訓練コース開発のためのワークショップに参加する機会を得た。そこでTDGという訓練開発のための手順書があることを知った。また、マニアルはTOIという手順どおりに作業指示が書いてあるマニアルがあれば、それを読んだだけで作業が出来るようになっていなければならないと書いてあり、そのTOIを理解するためや、危険対応で反射的に処理をしないといけないことは訓練で体に叩き込む必要があるという。それを知って、わが意を得たりと思った。

それまではいろいろな海外の教育訓練にかかわり、例えば、当時、担当したことのあるシンガポールの通信省のTLX端末、TLX/MSG交換プロジェクトで要求された訓練仕様内容がまさにこのTDG準拠の訓練開発の要求をされていたのですが、当初、その真意が理解できず、悪戦苦闘していた。あるいはインドのTATAへのPBX製造技術移転プロジェクトでも同様であった。しかし、TDGのワークショップに参加してからは、そのフォーマットを使って、訓練ニーズの分析結果をまとめ、レッスンプランをまとめたり、目標行動に基づいた訓練成果もチェックできるようになった。一度、レッスンプランや教材が開発されるとどの技術者が講師を担当してもある程度一定の教育訓練品質も維持できるようになった。

M0-1-1 TDG実践事例



続いて、中南米ではパナマのデジタル伝送のプロジェクトで応札したときも、訓練の見積もりは、ITU主宰のメーカーと各国主管庁の話し合いの結果まとめた訓練開発のための勧告書に準拠した訓練計画を立案、見積もるようにと言う条件が入札仕様書にも書かれており、実際落札した案件の訓練は、訓練開始前にシンガポールと同様にTDGのフォーマットをそのまま利用したレッスンプランをまとめ承認をもらいました。計画立案は当方でとりまとめ、実際にはコロンビアやガテマラの現地講師にそのレッスンプランに基づき訓練の準備もしてもらいました。客先の承認ももらったレッスンプランで実施することにより、誰が担当してもあるいは講師を分担してもらっても、それほどだぶりや訓練品質の低下も見られず、首尾よく修了できたことは言うまでもありません。

その後、ホンジュラスのD70電子交換プロジェクトで訓練開始前に要求された内容もやはりTDGのフォーマットで其のまま用意したほうが手っ取り早いと思われるような内容でした。たまたまそのプロジェクトの国内訓練開始前に検査官として来日した3人のうち、一人がITUの訓練開発のためのワークショップに参加したことがあるということもあった。聞くところによると、前回納入したD10交換機の運用保守訓練は自分達でも訓練の一部だが、TDGに基づき開発しているとのことであった。

したがって、間に合わなかったプロジェクトもありますが、とりあえず、後追い的ではあっても、さっそく、TDGの手法を取り入れて、訓練の準備や実施をするように訓練講師の育成から、教材開発まで担当したこともあります。しかし、いろんな分野にまたがる訓練の場合、どうしても訓練を直接、設計担当者に依頼することもあり、なれていない技術者に訓練を任せるとどうしても言葉の行き違いもあり、上手く行かないことも何度かありました。

であれば、なおさら、講師の質や経験に依存しない訓練を開発する必要があり、詳細レッスンプランや補助教材や教育訓練の負荷を軽減するための、TOIのマニアルを開発する必要性を認識するようになりました。そうすれば、教育訓練品質のばらつきもなくすことが出来るはずです。

M0-1-2 TDG実践事例(続き)



また、沖電気としてはEPABXの技術移転プロジェクトでインドのTATA財閥の数社に製造技術移転をすることになったが、この時の事例も紹介したい。

技術移転のため、コース開発担当として工場に乗り込んだ私は、最初から、講師の育成や教材の準備でTDGを実践すべく、張り切っていたのですが、そんなに簡単なことではありませんでした。

工場は当時もQC活動が盛んでISO9000の認定取得などにも熱心でいろいろなドキュメントが用意されていたのだが、良く調べてみると、設計製造に関するノウハウをまとめて其のまま適用できるものは以外に少なく、マニアルや品質標準などはあっても改訂が行われておらず、陳腐化して、せっかく、QCサークル活動の成果があってもそれを作業標準化して各種マニアルがまとまっているという状態ではないことが分かった。

実際は終身雇用制の弊害か、大事なことはかなり担当者の頭の中にあり、OJTによる以心伝心で技術伝達が行われているものもあることが判明。

一方、インドへの技術移転の訓練に当たってはやはり、TDGに準拠したレッスンプランの提出を要求され、TDGにも述べられている作業補助手段としてのドキュメントが完備していれば、自分達で読めば分かるので、できるだけ、訓練は質疑応答を中心にOJTで効率的にやって欲しいという要求もあった。

そこで、工場の関係者にTDGの訓練開発の手順を説明し、各種ファーマットの利用法を説明して、協力を仰いだところ、曲がりなりにも客先の要求を満足する訓練計画立案ができ、提出結果、訓練開始前に事前に承認を取ることができた。

その副産物としてどんなドキュメントの整備が必要かの見直しもでき、実際の訓練が始まってから、ぎりぎり間に合ったものもあるがとにかく、立ち往生することもなく、順調に訓練プロジェクトを終了することができた。

また、講義と実習、その後のOJTを意識したレッスンプランを関係者自ら作成してもらったおかげで、技術移転にはそれなりの準備が必要であることを再認識してもらったようで、その後の同様のプロジェクトではその経験が非常に役立ったことは言うまでもない。

結局、その後、先進国の英国からの技術者の訓練でもTDGを活用させてもらって、キーテレフォンのOEM技術移転訓練でもレッスンプランの作成やTOI操作保守手順書の準備などでその経験は役に立った。そのときのことで今でも印象に残っているのは、イギリスの下町出身の技術者の英語のなまりがひどく、ちんぷんかんぷんであったことと、来日した技術たちが日本式の無駄な講義はやめてくれ、実機を与えてくれれば、できるだけ、自分達でいろいろなフィーチャーを直接確認しながら学習するから、邪魔をしないでくれといわれたことがあった。つまり、Q&A方式でTOIの作業手順があれば、余計な講義はいらないということであった。


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