道草みのむし三十路のみしがん―ひとり言編

2004/11/23(火)14:31

シミュレーションゲーム・The HEX gameとシミュレーションゲームの前提理解についての一考

泣きの涙のアカデミック(26)

スペイン語のクラスを終え、ランチを食べてからセミナーに参加する。開発のクラスのクラスメートでPh.D.学生のPが仕切ったセミナーで、元はうちの大学の教授で、その後お隣の大学へ移られて今はEmeritusになられているDuke教授を迎え、教授が立案してきたシミュレーションゲームを学ぶプログラムだ。 今日学んだシミュレーションゲームは、Duke教授がオランダのGeurts教授と一緒に出版した『Policy game for strategic management-Pathways into the unknown』というほんの中で紹介されているThe HEX game. そもそもは1975年にUNESCOで発展途上国の行政が資源配分を学ぶために考案されたもので、組織内のグループ間コミュニケーションや異階層間でのコミュニケーションの発展と障害をシミュレートするもの。 参加者は20人弱だっただろうか。3分の一が教授達、3分の一は博士学生、3分の一は修士学生という顔ぶれで、所属学部も開発のクラス同様多彩でマルチナショナル。少人数だし意識は高いし、大変贅沢なセミナー環境。少人数なので、全員でひとつの国ということになり、階層は国レベル、地方レベル、ローカルレベルの3つ。地方もまた3つ設定され、各地域が都市・農業を持つほかに、地域ごとに森林、漁業、鉱山など異なるアイテムも含む。担当はそれぞれ、国1人、各地方にリーダー1人、各地方の各セクターに1人ずつという配分である。私なら、リージョン3の都市セクター担当で、チームにはサバンナと漁業と農業担当者、そして統括のリーダーがいる、という具合。そして、それぞれ与えられる状況、例えば台風のため農業生産量が減ったとか、病気が流行って人口が減ったとか、思わぬ寄付が入ったり、移民が押し寄せたり、に従って増減するリソースを、国レベルと交渉したり、銀行と交渉したりしながらローカル・セクターごとに配分していくというゲームである。 興味のある方は、私の稚拙な説明よりもDuke教授の本を読まれることをお奨めしますが、いやぁ、非常に興味深いシミュレーションだった。全部で3回ゲームをしたのだが、間で教授の解説とガイドを聞きつつ、1回目、2回目、3回目とゲームを重ねるうちに、グループ内やグループ間、上下階層のコミュニケーション、コーポレーション、コラボレーションが見る見るうちに増加していくのは鮮やかだった。 組織或いは機関において、内部コミュニケーション、対外コミュニケーションが増えればより能率的生産的になるのだが、残念ながら実社会では、その事実はあまり理解されているとは言えない。民間企業の場合は、それでも利益を挙げるという共有された目標設定があるためまだマシなのだが、公的機関や第3セクター又は開発プロジェクトのように、いろんな組織、国、専門分野からの寄り合い所帯になる場合は、組織内・機関内コミュニケーションがスムーズにいくとはとても望めない。理想を言えばキリがないが、せめてそれぞれの構成員、構成セクターが内外コミュニケーションの大切さを知っていてくれるだけでも随分マシになるはずであり、その点でこういったシミュレーションがトレーニングカリキュラムや教育研修などにどんどん取り入れられてほしいものだとつくづく思った。 シミュレーションゲームの様々な要素はもちろん色々と単純化されているし、ミクロ経済のみのアプローチだし、それぞれのプレーヤーが基本的に協力姿勢で他に接するなどなど、現実には起こりえない理想的要素も含んでいるのだけど、Duke教授にとっても今日の参加者の多くにとっても“現実はそんなに簡単でない”なんてことは言うまでもない大前提。このシミュレーションゲームの目的は現実の複雑さを経験することではない。 ・・・なんだけれど、その前提が呑み込めない人もいたりする。農業経済学部から参加していた人が同じチームだったのだが、彼は彼自身の専門分野に基づく環境への配慮と社会の構造に対して思いと懸念があって、それはとても大切だし実際彼の考えは大変正しかった。だが、こういったシミュレーションゲームの構成要素の中に、あるサブジェクトが要素として組み込まれていない場合、ゲームの過程でそれを主張してもゲームの進行が停滞するだけでなく、議論がシミュレーションのコンセプトから外れる。彼の見解は、ゲームの進行とは別に、Another thoughtとか、Further concernとして述べればそれはそれで意味があるとは思うし、他のメンバーもそれぞれの専門分野に照らして同じようなFurther concernがあるだろうから、おもしろい話にもなるのだろうが、ゲームの中でそこに固執するとゲーム自体が壊れる。 実際、現実をすべてシミュレーションゲームで象ることは不可能である。もしそれができるとしたら、もうそれはシミュレーションではなく具体的な現存ベースのプロジェクトだ。シミュレーションゲームは所詮シミュレーションである、という前提同様、ゲームコンセプト外の要素を持ち込んでも機能しない、ということも理解されるべき前提ではなかろうか。 ゲームの設定が自分の理想とする要素や配慮を含んでいなかったとしても、そのシミュレーションの中に身をおき、普段とは違う思考で踊ってみることで新たに発見する視点やアイディア、今まで気づかなかったカウンターサイドの考えや思考に出会うものだ。それが様々な案件や問題の多面性に対する理解と解決策のバリエーションにつながるのではないか、とも思う。 さて、Duke教授はこのThe HEXの他にもいろいろなシミュレーションゲームを持っていて、依頼先のニーズに合わせて異なったゲームを考案したり、カスタマイズするのだそうだ。ガーナ政府とか、オランダの厚生省とか、民間では、元アンダーセン、現アクセンチュアとか、日本では原子力業界とか、依頼先のひとつ。日本でも訳本が出ている。セミナーが終わってからDuke教授としばしお話させていただいたが、私の修論のトピックとつながるネタがバンバン出てきて非常に意義深かった。

続きを読む

総合記事ランキング

もっと見る