第4話

 『第4話』 作:-Samsara-さん





「さて、二度目のご対面だ」
言葉にすることで決心し、血まみれの倉庫へと足を踏み入れた。

―――こりゃあひでぇな。

この倉庫は、普段あまり使用されていないようだ。
煩雑に積まれたコンテナや木箱やらに、埃が堆積している。
広さもそれほど無いし、窓もないからなのだろうか。どこか陰湿な感じがする。
その中央に、老人マエルは倒れていた。
確かに、血はそれほど周囲に飛び散ってはいない。
いないのだが、ボロ雑巾のように血の海に横たわるマエルの姿は、俺に鳥肌をたたせるだけの威力を十分なほど持っていた。

「一般市民に見せるわけには行かないよな」

油が切れているのか、滑りが悪い扉がキィキィと音を立てて閉まる。
扉を閉めると、中は暗闇だった。
外から開けられないように、鍵をかける。
そして開けるための鍵は、俺が持っている。

「血が見えなくなった分、マシかな・・・」

そうとでも思わなければ、とてもじゃないがやっていけない。
が、密室化したことにより血の臭いが一層濃くなり、俺は吐き気を催した。

(こんな時に吐いてる場合じゃない。俺だって冒険者なんだ)

何度目になるのか、自分に発破をかけて一歩ずつマエルへと近づく。




手が震える。足が震える。
心臓の音がうるさい。耳鳴りがする。
血が見える。臭いが濃くなる。




どれほどの時間が経ったのだろうか。
実際は数分なのだろうが、俺には数時間に感じる。
それほどまでに、心は得体の知れない恐怖に浸食されていた。
ようやくマエルの元へたどり着いた俺は、屈んで様子を見る。

「動かないよな・・・」

胸に大降りの短剣が突き刺さっているのだ。
普通に考えて、生きているはずがない。
それでも一応、呼吸と脈をとる。
指を湿らせ、口元へと近づける。

「・・・呼吸―――してる!」

脈も診たが間違いない。マエルはまだ生きている!
なんとか急所は外れて刺さっていたようだ。
だが胸はほとんど上下していないし、脈もかなり小さい。
このままだと―――。

「おい、大丈夫か!?」

マエル!マエル!
何度も耳元で叫び続けた。

いずれ俺の呼びかけに応えるように、マエルは片腕を微かに持ち上げた。

今なら助かる、確かポーションは買い込んであったはず!
先ほどローリンから購入したヒールポーションを、ありったけ取り出した。
そう、俺は狩りに行くはずだったんだ。準備は怠っていない。




―――まず、どうしたらいい。
俺は、落ち着くために、深呼吸をした。血の臭いが大量に入ってくるが、かまっていられない。

―――基本から思い出せ。
思い出せ。冒険者になるために学んだ事を。

―――ポーションは傷口に直接使用すると効果が高い。
俺は、ずらりと用意したポーションを横目で見た。

―――ならば、まずは傷口のスティレットを抜き取る。
俺は、大振りな短剣を抜き取るべく、両手で柄を握った。








「ここで相談があるのですが」











ドクン!








ひときわ大きく、俺の胸が鳴った。

―――誰だ!?
ここは密室で
俺以外は誰もいなくて
扉は動くとキィキィなって
でも何の音も聞こえなくて
そう、扉には鍵が
鍵は俺が
でも誰かの声が


俺はもう完全にパニックだった。

唯一俺の頭が判断出来たことは
今の声は、ついさっき聞いた声によく似ていたという事だった。



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