東野圭吾の「幻夜」と「白夜行」の比較
東野圭吾の大長編「幻夜」を読み終えた。今回,この作品と「白夜行」の比較をしたいと思う。僕にしてはネタバレをしているので,両方の作品を未読の方はパスをお願いする。----------この作品と比較されることの多い「白夜行」は3年前に読んだ。その頃は東野圭吾を系統的に読むつもりは無かったのだが,中山七里の「嗤う淑女」を読んだことで,似たような悪女のピカレスクロマンがあることを聞き付け,この作品にも手を出した。東野圭吾を読み進めている現在としては,「こんな逆の理由で大傑作を手に取り,東野圭吾ファン,ごめんなさい」という気分だ。----------「白夜行」を読んだ際に,「幻夜」という姉妹編があることは知った。だが,前者が文庫版で900ページ,後者も700ページと知り,”もうお腹一杯”状態だったのでパスをしてそのままとなっていた。東野圭吾を読破することと決意して,とうとう「幻夜」も読み終えた。割と事前情報を入れない主義の僕なので,これが「白夜行」の姉妹編で,同じテーマを描いたパラレルな別作品だと思ったまま読んでいた。ラストが近づくと,どうやらこの2つの作品にはリンクがあり,続編としても読むことが出来るという仕掛けが分かってくる。この是非については,東野圭吾があいまいにしているので,僕としてはそのまま読者が自分の解釈をする,ということで良いと思う。作品を読んだ限りでは,決定的なことは何も描かれていなかった。----------それより気になったのは,2つの作品の相似形と差異だ。男女が関西で出会って,東京へと移り住み,女が社会的に成功を収め成り上がる。だがその裏では,男が彼女のために障害を排除し,ライバルを傷付け,非合法な手段で彼女を支え続けていた・・・という部分は姉妹編と言われるように完全に相似形だ。----------だが「白夜行」の男女は幼馴染で,2人とも貧しく品性の低い親の家で,虐待を受けており,互いをかばい合い,助け合って生きていくという姿が,ピカレスクロマンとして成立をさせていた。それに比べて「幻夜」の男女は,阪神淡路大震災の際に出会い,身寄りを喪った2人が,ある事件から逃げるように東京へと出ていくのだが,ここにあるトリックがあったことが後々分かってきて,ひじょうにイヤな展開となる。「白夜行」の女性・西本雪穂は美しく,さらに冷静で賢い。一方の男性・桐原亮司も売春のあっせんする一方でソフト開発をするなど,なかなか多才だ。2人の関係は雪穂と亮司で五分五分ではなくても,せいぜい六分四分だろう。それが「幻夜」では,女性・新海冬美は大人しそうだがどんどん美しくなり,男たちを手玉に取る。男性・水原雅也は機械加工,金属仕上げの技術は素晴らしいが,それ以外は何もしない人物だ。2人の関係は,七分三分と大きく冬美が支配的で,それだけでなく・・・という設定だ。----------「白夜行」では2人の幼馴染が世界に対して挑んだ戦いの記録と解釈が出来る。「幻夜」ではミステリー要素はより楽しめると思うが,肝心の主人公たちの行動原理が冷え切っていて,中盤以降読んでいるのがツラくなってしまう。海外旅行から帰ってきた冬美が夫と交わす会話などは,もう正気とは思えない。中山七里の「嗤う淑女」に対しては,非現実的で上手く行き過ぎるという批判を述べたが,「白夜行」はともかく「幻夜」に関しては同じような匂いを感じてしまった。ミステリー要素以外はあらゆる部分で「白夜行」の方がレベルが上だと思う。----------さらなる続編で3部作を構成という構想もあるらしいが,またまたレベルを下げるだけならば,止めておいた方がいいと思う。