りぶらりだいあり

2015/12/23(水)10:04

『ふしぎの海のナディア』を観た

ばくばく冒険小説(423)

『エヴァンゲリオン』の庵野秀明が監督をした冒険活劇アニメシリーズを観た。 ○ストーリー 発明家の少年ジャンは,パリ万国博覧会で開催される飛行機コンテストに参加する。だがジャンはそこで,褐色の肌の美少女・ナディアと,彼女が持つ宝石・ブルーウォーターを狙う盗賊・グランディス一味に出会う。ナディアと再会したジャンは,グランディスから彼女を逃がすために,海へと出るものの,そこで遭難し,やがて謎の船・ノーチラス号に乗り込むことになる。この船は超古代の技術で建造された万能潜水艦で,ジャンとナディアは,古代文明のチカラで世界を支配しようとするネオ・アトランティスと戦うことになる。 --------------- この作品は1990年から1年間NHKで放映されたらしい。その頃は社会人になったばかりで,世の中はバブルで浮かれていたが,エンジニアリング会社に入社したばかりの僕には,あまりその恩恵は及ばなかった。あまりテレビを観る時間もなかったので,この作品も観たことはなかった。 それでも19世紀を舞台にした冒険活劇作品,その後はあの庵野秀明の作品ということで,ひじょうに評価は高かったので,いつか観たいとは思っていた。 近所のTSU○A○Aが,どうしたわけか「80年代アニメーション」というコーナーを作っていて,そこにこの作品が並んでいた。調べてみると80年代じゃないんだけれど,今から振り返れば同じ時代だ。 --------------- この作品はジュール・ヴェルヌの『海底2万里』『神秘の島』をベースに,『宇宙戦艦ヤマト』風のSF活劇を加えて作成した物語だ。ヴェルヌは没後100年を超えているから,著作権の問題が無いのだと思う。『ヤマト』に似ているのはオマージュだからOKなのか? ヴェルヌ原作ではアジアの植民地出身だったはずのネモ船長は,古代王朝アトランティス出身となっており,万能潜水艦ノーチラス号は,最後には宇宙にも出て行ってしまう。時代設定は19世紀のままなのに,いろいろと過剰サービスしている。このあたりのノリはまさに80年代,バブル時代の産物だろう。 超古代の進んだ技術がある一方で,それを19世紀の人間なりにきちんと視聴者に解説するジャンとグランディス一味がいるおかげで,過去を舞台にしたSFという不思議なバランスの物語は成立している。結果的に,僕らがヴェルヌのSF作品を読むときに感じる郷愁と驚きが,きちんと再現出来ている。 このバランスを保っているだけでも,この作品の脚本・監督がストーリーテリングを分かっていることが伝わる。 --------------- 庵野秀明の作家性については以前に語ったことはあるが,罪を感じている第1世代,若者を育てる第2世代,戦いの中で成長する第3世代の若者,という図式は今回も同じだ。ただし今回の第1世代であるネモ船長は,どうしてナディアとすぐに和解しないのかは,僕には理解できなかった。 それ以外にも,地中の大空洞,古代文明の遺産,神が創造した最初の人間である巨人・アダム,超弩級戦艦エクセリヲンなど,『エヴァンゲリオン』につながるエッセンスは豊富にあった。 ヴェルヌSFをアレンジしたコメディアニメかと思っていたら,ディープな古代文明SFになってしまったので,驚いた人も多いに違いない。 --------------- とは言え,80年代アニメだから,ということでは説明のつかない物語の展開も多い。まずはヒロイン・ナディアの性格に問題がある。ひじょうに真っ直ぐで,動物とも意思の疎通が出来るという才能があるのだけれど,それゆえに菜食主義,平和主義だ。 個人的にそれを貫くのは構わないが,事あるごとに肉食や相手への攻撃を感情的に批判する。何度も危機におちいり,助けてもらっている人物に,「なんで他人を殺すのか」と詰め寄るシーン以降は,ナディアに好意を一切感じなくなった。 ティーンネイジャーの真っ直ぐさ,自分しか見えていない部分がうまく表現できていると思うが,同世代の少年ジャンは,いろいろ理解して,努力しているのに,このわがままっぷりにはついていけなかった。 個性的ということでは間違いないが,主人公にしては突飛に過ぎる性格設定だと思う。 --------------- 後半の南の島とアフリカへの漂流編は,とにかくドタバタ活劇で,いくら80年代でもよくゆるされたと呆れるチープな展開が続く。 ネットで調べると,製作状況から生まれた苦肉の策らしいが,毎週放映するって日本人らしい勤勉すぎる縛りだと思う。それでこんな珍妙なパートが生まれて,名作にキズを付けているのは明らかなマイナスだろう。まあ,今となっては興味深い部分もあるけれど。 ラストのラストで,冒険活劇に戻り,また見事な物語のまとめをしているので,それ以前の長い長いまわり道もなんとかゆるせる状況だ。 この終わり方があったから,庵野秀明がメジャーになったから,名作アニメとして評価されているけれど,本当にバランスがギリギリの作品だ。80年代(1990年だけど)のいい加減さって,あなどれないな。 ・・・って,誉めてないか。

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