りぶらりだいあり

2017/01/12(木)21:57

「シャンタラム(上)」グレゴリー・D・ロバーツを読んだ

ばくばく冒険小説(423)

インドを舞台にした”現代の千夜一夜物語”と呼ばれる小説の上巻を読んだ。 ○ストーリー インドに来たオーストラリアの男性・リンジーは,ムンバイ市のガイドのプラバカルと親友になる。そこに逗留してヒンディー語やマラーティー語を学んだ彼は,プラバカルの故郷の村に招待され,3ヶ月ほどを過ごし,シャンタラムという新しい名前をもらう。だがムンバイに戻る途中,全財産を失った彼はスラム街で暮らさざるを得なくなる。偶然からスラムの救急医として生きることになった彼は,ムンバイの底辺で暮らしつつ,徐々に暗黒社会の顔役と知り合いになる。そうした日々は過ぎ行き・・・ ----------- 友人に薦められて,この作品を読み始めた。通常では考えられないレベルでの暴力が描かれている,ということだったが,この上巻を読んでいる限りでは,そんなことはなかった。 むしろスラムのモグリの医者になったとことで物語を閉じてしまえば,きれいに終わる感動物語になりそうだった。 少しずつ物語の中に,不穏な空気が漂っていることからして,どうやらこの後の中巻以降に,暗黒社会との関りが増えすぎた主人公は,投獄され暴力にさらされるらしい。 汚辱に満ちたムンバイのスラムよりも,さらにひどい環境が世の中にあるということが単純に驚きではある。 ----------- それほど思い入れもなく読み始めたのだが,上巻だけで文庫版で700ページというボリュームには驚いた。語られているのは,ひじょうに物語として豊饒な世界で,どこまでがリアルでどこからがファンタジーなのか分からない。そして驚異的な記憶力が発揮され,主人公が体験した光,色,音,匂い,そのすべてが克明に再現されている。 ただでさえインパクトの強いインドの世界が,迫真の筆力でこちらに迫ってくる。 上巻は友人が言っていたような暴力の嵐は存在しなかったが,それが無くとも十分に筆の圧力は感じられた。 ----------- もちろんこれは反面,思わせぶりなばかりで,主人公のどうということのない旅行記を読まされる,ということでもある。出会いはすべて運命に導かれた親友,恋人,師匠というのも大げさだし,基本は主人公が体験した世界だけのことだ。 それでもその体験を貴重に思い,そこから学ぼうとしている主人公の姿には,やはり心を打たれる部分はある。上巻では十分に幸せな状況にいた彼なので,このままの生活を続けさせてやってもらいたいと思いつつ,ここまでこの豊饒で冗漫な物語に付き合ったのだから,劇的な事件に巻き込まれてもらいたい,というアンビバレントな気持なってしまう。 たぶん皆,こうした気持ちになったと思う。まあこのまま読み進むしかないよね。

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