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カテゴリ:ばくばく冒険小説
”現代の千夜一夜物語”と呼ばれる大長編小説の中巻を読んだ。
○ストーリー オーストラリア人のリンジーは,ムンバイ市のスラムの無免許医師として暮らし,たまに観光客相手に麻薬の売人を紹介し生活費を稼いでいた。そのスラムでコレラが発生し,彼は何日もほぼ不眠不休で治療にあたる。それを終え,憧れの女性・カーラと会っていたリンジーは,呼び出され,逮捕され,投獄される。暴力と汚辱にまみれた毎日で,死を覚悟したリンジーはなんとか救い出されるが,カーラはムンバイ市から消えていた。リンジーは救ってくれたカーベルの元で体力回復に努め,そのままこの人物の様々な仕事を手伝うことになる。徐々にスラムの人々との関りが薄れていた彼にしらされたのは,親友だと思っていた2人の人物の死だった。孤独と後悔にさいなまれたリンジーは,ヘロインに溺れてしまう。そして・・・ ----------- 上巻でも十分驚きの展開だったが,中巻の運命の流転はそれを大きく超えていた。 インドに流れてきた不良外国人の刺激的な日々の物語だった上巻と比べ,この巻では収監され,その後本格的に犯罪組織の一員となる主人公を描く。 持ち金も正規のパスポートも無く,スラムの無免許医師だったのが上巻の最後だ。それと比べれば,中巻の後半の主人公は,きちんとしたアパートに住み,偽造パスポートで海外旅行も繰り返している。犯罪組織の一員でありながら,表向きは国際ビジネスマンとして動き,大金を手にしている。 いよいよ物語が大きく動き出した,ということを感じた。 ----------- 中巻も文庫版で600ページ超えのボリュームだ。 物語は主人公リンジーの視点で,様々な事件との遭遇が描かれる。横糸となるそうした大きな出来事とは別に,カーラという女性へとの恋愛,そしてムンバイの犯罪組織の元締めの1人・カーデルとの信頼関係が縦糸としてあり,大きな絨毯のように物語が編み込まれていく。 さらにカーラとカーデルは,それぞれ主人公に語ろうとしない秘密があり,それが大きく物語を先へと引っ張る原動力となっている。本当によく考えられて構成されていると思う。(たぶん) ----------- 中巻になり,事前に聞いていた強烈な暴力描写が発揮されていた。刑務所に入れられたリンジーを襲う迫害は一切の容赦がなく,また先の救いの要素が見えない状況だった。冒険小説,ホラー小説を読みなれている僕でもストーリーを追うのがつらくなる内容だった。 もちろん刺激的な暴力描写だけであれば,一定の才能があれば執筆可能だ。いわゆるB級作品で,いくらでも肉体損壊の場面は見ることが出来る。そうした作品と異なり,この作品を読んでいて精神につらく迫って来るのは,被害者のリンジー,加害者の看守,それを見ているだけの囚人たち,それぞれの気持ちを描写しているからだろう。 そこにあるのは狂気ではない。それぞれが自分の立場や身体を守るために,理性的に主人公を死ぬほどの暴力を加え,あるいはそれを見て見ぬふりをしているのだ。これには精神が削られた。 ----------- 一度は幸せを感じるようになった主人公だが,中盤以降は,不良外国人のたまり場のレオポルドからも,一度すべてを失って転がり込んだスラムからも,疎外感を感じるようになってしまう。 この辺りは複雑な事情や,心の動きがあるのだが,作者はひじょうに丁寧にその流れを描いている。 とは言え,あまりにも思わせぶりな表現や,偶然が重なり過ぎる展開も待っており,やや強引さも感じるようになってしまった。その極みは,終盤で始まったカーデルたちとの旅だ。 カーデルが抱えてた秘密が明かされた状態とは言え,ここに加わるのは通常の精神では無理だ。下巻もこうした流れだとかなり厳しいかも知れない。 ----------- 西側文明からドロップアウトしたけれど,インドでそれなりに幸せに暮らしていたのが上巻。ひどい体験をいくつもして,アップダウンがあり,最終的には犯罪組織にどっぷりとつかってしまっているのが中巻。 果たして下巻はどんな激流に読者をさらしてくれるのだろう? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.02.25 22:49:10
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