2019/01/05(土)19:03
「アリバイ崩し承ります」大山誠一郎を読んだ
2018年のミステリー賞のトップ1となった大山誠一郎の連作短編集を読んだ。
〇ストーリー
県警捜査一課の新米刑事の〈僕〉は,自宅近くの商店街の美谷時計店で,行き詰っている事件のアリバイを解いてもらう。美谷時計店の若い店主は,若く美しい娘・美谷時乃だった。〈僕〉が依頼をした事件とは?
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題名にまで”アリバイ”と銘打っているだけあって,本格ミステリーの短編集となっている。7つの短編で構成されていて,刑事の〈僕〉が,時計店店主の美谷時乃に事件を説明する,彼女が謎解きをする,というシンプルな展開となっている。
美谷時乃は時計店から一歩も出ていないので,パターンとしては”安楽椅子探偵”モノとなる。他の書評でも言われているように,困っているとは言え,捜査一課の刑事が民間人に事件内容をぺらぺらしゃべるなど,現代的なリアリティをすっ飛ばしたシリーズとなっている。
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リアリティ無視は,ストーリーにも現れている。
正直,第1短編を読み終えた時は倒れそうになった。これはミステリーでも,ロジックだけを追求したパズラーだ。
・・・と思っていたら,フツーの本格ミステリーの短編もある。連作短編集としては,作風が一定していなくて読みづらい。
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各編について簡単に感想を述べる。
「時計屋探偵とストーカーのアリバイ」:研究者の女性に,ストーカーと化した元夫が会いに来る。その直後に彼女は死んでしまった。解剖から元夫にはアリバイが成立したのだが?・・・読み終えて倒れそうになった。リアリティ完全無視のパズラーだったのだね。「時計屋探偵と凶器のアリバイ 」:郵便ポストから拳銃が発見され,その近郊でそれを利用された殺人が起きていた。アリバイに守られた容疑者は?・・・短編1作目に続き,リアリティのない展開。小説というよりクイズだよなあ。
「時計屋探偵と死者のアリバイ 」:〈僕〉が遭遇した交通事故の被害者は,殺人事件を自白してから死んでしまう。・・・2人の会話から謎が解かれる。なるほど!!「時計屋探偵と失われたアリバイ 」:殺害された女性の妹は夢遊病の間に姉を殺めたのか?・・・2重のトリックになっていて読ませる。ある〇〇〇の量をどうしたのかは気になるが,それ以外は見事な切れ味の短編だ。「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ 」:店主・美谷時乃が,亡き祖父から出されたアリバイトリッククイズとは?・・・最初の箱に対する説明が不足していると思ったが,なかなか斬新で爽やかなミステリーだ。「時計屋探偵と山荘のアリバイ 」:雪の山荘で起きた殺人の真相とは?・・・雪の山荘ならではの証拠はあるのだけれど,スカスカな内容で脱力。「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」:ある1日だけダウンロードが可能だった曲があった。それを友人に見せていた男が容疑者となった。・・・ネタとしては新しいが,内容はスカスカ。
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構成が悪くて,脱力ミステリーを読んだような読後感が残ってしまう。