「実験4号 後藤を待ちながら」伊坂幸太郎を読んだ
伊坂幸太郎と山下敦弘のコラボ作品の小説部分を読んだ。○ストーリー温暖化の進む地球から火星へとほとんどの人々が移住してしまった未来で,柴田と角倉の2人は後藤という男の帰りを待つ。2人は火星から一時帰省した女性と出会い,近所の小学校をのぞき,昔のバンドのインタビュー記事のスクラップを見つけて読みふける。そして何回も後藤との日々を思い出す。果たして後藤はどうして去ってしまったのか?3人が再会できる日は来るのだろうか?-------------伊坂幸太郎の作品は人気なので,よっぽど運が良い時を除きリクエストを出さないと図書館では手に取る事が出来ない。だからカウンターの向こうから渡されて初めて,コラボ作品のハズなのに小説部分しか無いことに気付いた。この作品は本来,伊坂幸太郎が短編小説を書き,山下敦弘がDVDで短編映画を撮り,それを1冊の装丁に収めたと言うコラボレーションなのだが,その片割れしか体験することが出来なかった。だがこれは「著作権者の貸与許可が得られなかったため」と書かれており,図書館の手落ちではないらしい。作品の紹介を読むと,小説と映画で登場人物や舞台が一部重なっており,関連があると言うことなので,可能ならば完全な作品として提供してもらいたかった。-------------小説部分に限定した感想になってしまうが,世界観は「終末のフール」によく似ている。こちらの作品では終末は来なかったことになっており,悲壮感は薄く暴力の気配も皆無だ。伊坂幸太郎作品らしいちょっとズレた,でも自己完結した人々が登場する。主人公2人が待つ後藤という男は,伊坂作品に時々登場する大口を叩き,時には卑怯な真似もするクセに,正義感は強く,どこか憎めないというタイプだ。フツーはいくつかの連作短編で,世界観を深めることが出来るのだろうが,この作品で--しかも短い小説部分だけでは--どうしても物足りない。なまじ似たタイプの作品や登場人物があったためだろうか?この作品では,伊坂作品を読むときに味わえるセリフや文章の粋,伏線とプロットの妙,という魅力を感じなかった。-------------この作品が小説と映画のコラボであることは述べたが,そもそもは「実験4号」という曲にインスパイアされているらしい。その曲は歌詞が小説の終わりに,曲は映画の終わりに収録されているらしいので,ある意味,音楽,小説,映画のコラボだとも言える。小説部分では,名前が明かされないあるバンドの発祥,メンバー脱退,活動休止,復活がインタビュー記事の抜粋ということで語られる。インタビューでのバンドメンバーのセリフがあまりにも強気でマンガ的なので,てっきり伊坂幸太郎が書いたのだと思っていたら,実在のバンドの実際のインタビューだったらしい。ってことは,伊坂作品に登場する後藤タイプの人物も,実在していてもおかしくないワケね?うーん,できれば関わりたくないかも・・・