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カテゴリ:のどかな日々
話題は デビッド・R 加藤周一 小出楢重 坂本繁二郎 井上靖 東電 2号プール見学 細野など 詩の話もした 子供が3人電車に乗ってきて ソレを見て 今が一番幸福な時と思うような詩 井上靖の・・・ というので帰って検索して その詩を探した ある旅立ち 花束が投げこまれたように、夕闇のたてこめた車内は急 に明るくなった。紀伊の南端の小さい漁村の駅から、三 人の姉弟が乗りこんできた。姉は二十ぐらい、妹は十五、 六、末の弟は中学一年生か。三人は七個の荷物をリレー 式に手渡して、網棚に載せ終ると、走り出した汽車の窓 を開け、三つの顔をつき出して、母ちゃん、母ちゃん、 と声を上げて手を振った。富裕そうな白壁の家を背後に 抱いた堤の上に、母であろう、夕闇の中に白い人影が立 って、手を挙げて、それに応えていた。 やがて三人は窓を閉め、席に坐ると、顔を見合せて、く っくっと笑い、さて、姉は屈託なさそうに岩波文庫を取 り出し、妹はただ憂い深い美しい面を伏せ、弟は林檎(り んご)を出してズボンでこすった。 二十年後、この花のような姉弟たちはどんな日を迎えて いるだろうか。突如、私は不吉な予感に怯(おび)えた。 そして、真実、私は祈った。曾(かつ)て肉親にも捧げた ことのない敬虔さで、この明るい姉弟たちの倖(しあわ) せを祈った。今宵、この一束の花たちにとって、もはや 不幸に向う以外、いかなる旅立ちも考えられなかったか らだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.01.29 21:43:09
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