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輝く翼・纏いし風

輝く翼・纏いし風

(纏いし運命と交差する心 優しき風)

~第3話「芽生え始めた心」~

あれから2時間の時が流れた。
雷は起き上がった
周りを見て記憶が繋がったのか少し安心したような表情になったが
急いで立ち上がり少しフラフラしながらも部屋のドアを開けて出た。
そのまま廊下を哀憐が居る部屋に向かって歩いて行きドアを2・3回ノックして開けた。
部屋に入って雷は哀憐を見たとき少し驚いた表情で見た
哀憐はベッドから起き上がり外を見ていたその表情はとても悲しそうな表情で、雷は咄嗟に見てはいけないと思ったが
哀憐が気付いて微笑みかけてきた。
その微笑みは見る者をハッとさせるくらいに美しくて、とても脆く儚く感じる笑みだった。雷は少し戸惑ったが口を開いた。

「もう……大丈夫なのか?」

雷の様子を感じ取った哀憐は少し目を伏せて答えた。

「まだ……動けないですけど……平気です」

哀憐は少し暗めだったその声が雷に少し罪悪感を感じさせた。
雷は哀憐に近付いて近くにあった椅子に座って哀憐の目を見た
雷は今回始めて哀憐の事をしっかりと見た。
強い意志を宿した瞳 きちんと整った目鼻立ち とても瑞々しそうな唇 とても綺麗で指を通してもスルスルと指の間を抜けていきそうな髪
色白で、体付きはとても華奢で抱き締めたらバラバラになってしまいそうな感じで見た目自体が真っ白な少女である。
雷はそんな哀憐の容姿に思わず見惚れてしまった。
そして雷はこんな風に見惚れた事がある人が居ない事に今気付いて少しむず痒い気持ちになった。
そんな雷の心情を知らずに哀憐は雷の顔を見ていた
雷は心の奥底に暖かな物を感じたが少し考えて哀憐に言った。

「ありがとう……君のお陰で、みんなが助かったよ」

雷の言葉に哀憐は首を振って言った。

「違います。私のせいで関係ない方まで巻き込んでしまったんです……ごめんなさい」

哀憐の言葉に雷は少し驚いたが考えて言った。

「あまり自分のせいにしない方が良いよ……それにあの時君が居なかったらみんな死んでいたのだから誤る必要はないよ」

雷が言った事が胸を締め付けてきて申し訳ない気分になっている哀憐は言った。

「私が何の注意もしないで、私の物を貴方に渡したから……私の気配と間違って来たのだと思います」

哀憐の言葉を聞いても雷は別に怒ったような表情ではなく微笑んで言った。

「そうなんだ……でも、良かったんじゃないか? 君だけが狙われる訳じゃないから……
それにこれくらいの事は慣れてるから大丈夫だよ」

「……どうして? どうして微笑んでいられるんですか? 自分も命の危険にさらされているのに……」

「さあね……人が人を助けるのは当然の事だし……それに俺の命が危険にさらされていても
俺はこの生き方を枉げる事は出来ないし、したくもない」

「どうして……どうしてそんなに強いんですか……私に振り回される事になるんですよ……そんなの嫌じゃないんですか……」

「俺は強くないよ……ただの一般人にしか過ぎない。けどね……俺は自分の意思で君を助けてそして
この運命(さだめ)も受け入れたんだ。今更嫌だと言っても無駄だしそれに俺はそんな運命とやらに立ち向かうだけだから」

「でも……でも……私が貴方の前にあらわっ!?」

哀憐は驚いた。雷が思いもがけない事をしたせいで動けなかった。
それはいきなり雷が倒れて来たからである。
雷が倒れた所はベッドの端っこに頭が乗る程度の所だった。

「私より疲れていたのですね……それなのに私の為に無理をしていたのですね」

哀憐は雷の顔に触れていた。何故優しくしてくれるのかは、分からないけれど不思議と惹かれていく感覚に哀憐は目を閉じた。

「不思議です。この暖かい感覚がとても心地よく感じる事が……貴方の優しさが痛かったのに今はとても嬉しい……
こんな感じ今まで一度もなかったのに、ありがとう」

哀憐は雷の顔を撫でていた。
その言葉を綾歌はドアの外から聞いていて少し微笑んで部屋の前から離れて
雷達が居る部屋に行こうとしていた結羽華を引き摺って台所に行った。
哀憐は雷の顔を見ていた。飽きる事なく見ていた。
哀憐はそっと雷に渡したペンダント(?)を取り出して少し何かを描こうとしてやめて元に戻した。

「私だけが傷付くのが嫌だったんですか? それとも私の事を心配してですか?」

返ってこない答えを聞いてるのは分かっていたが、訪ねてみた。

「決まってる……傷付くのなら一人だけで傷付かないで欲しいしそれに君の表情や雰囲気を感じると心配になるから」

「!! 起きていたんですか!?」

雷は起き上がろうとしたが力が入らないのでそのまま答えた。

「いや、君が質問している時に起きたんだよ……まあ驚かせたのは悪いと思うけど」

雷がそのままの態勢で言うので哀憐は少し戸惑ったが言った。

「質問に答えてくれてありがとうございます。でも……雷様は私の名前を一度も呼んでくれてませんね」

「そう言えばそうだな……名前で呼んで欲しいのか? それと様付けはやめてくれ」

「出来たら呼んで欲しいです。……様付けやめて欲しいと言われても私には無理です。」

「……しかたないな……じゃあ哀憐さんで良いかな?」

雷が名前を呼ぶと哀憐は少しくすぐったいのか微笑んだ。

「はい、私の名前覚えていてくださったんですね。」

「一度言われた事は大体覚えてるよ それに……」

「それに?」

「現在一緒に住んでるんだから名前を覚えておかないと大変だからな」

「確かにそうですね。私がそうなってしまう原因を作ってしまったので申し訳ないのですけど」

「気にしなくて良い、俺が勝手にやった事だし」

哀憐が暗い表情に戻り掛けた時に雷が言った言葉に哀憐は少しドキッとしてしまった。

「私の事を心配してくださるのは良いのですけど……ご自分の体も大事にしてくださいね」

「分かってると言いたい所だけど……哀憐さんの助言は一応受け取っておくよ」

「でも……無理をしてまで私の所に来る雷様は凄いですね」

「どこがだ? 壁伝いに歩けば来れなくもないだろう」

「私にはとても無理ですから……私も雷様のように強ければ良いのですけど……見ての通り弱いですから……」

「そうかな? 俺のはただの強がりみたいなものだよ。哀憐さんは俺の事を強いと言うけど……俺は哀憐さんの方が強いと思うよ」

「どうしてですか? 私は弱いですよ……一人で何も出来ませんから」

「自分を弱いと認めてる所が強いと思うんだよ……誰だって一人で出来ない事があるから協力し合うんだろ。」

「私は一人では長い間戦い続ける事が出来ませんから。雷様なら戦い続ける事が出来るのではないですか? 
私が着いた頃には危なかったですけど私が辿り着く前に殺されてませんでしたから」

「俺も長い間戦い続ける事は出来ないけど、それにあの時は運が良かっただけで、避け続けて石で攻撃を防ぐ事しか出来なかったから」

「でも凄い事ですよ……私の場合多分雷様が居なかったら死んでましたから」

「俺は何もしてないだろう……あれは君の力だから」

「確かにあの力は私でしたが、あれだけの力を引き出す鍵となったのは雷様ですよ」

「俺? 俺は言われた事をそのまま実行したに過ぎないけど」

「それがとても良かったんです。雷様の思いがなければ防ぎ切れませんでしたから」

「そうなんだ……まあ話はここまでにしようか?」

「待ってください!」

「? 何か話でもあるのか?」

「また雷様が遠い所で襲われたら困ります。だから私も近くに居させてください」

「……つまり危ない状態になってもすぐに守れる位置に居ろと言う事か?」

「はい」

「無理だな。学校もあるし」

「でも、また襲われて対応できなくなった時危なくなりますよ……私はそれが一番心配なんです」

「……う~ん……近くに居る事自体は出来なくはないな……綾歌さん居るんだろ? 入ってきなよ」

「えっ?」

ドアが開いて綾歌が入ってきた。

「気付いていたのに気付いていない不利をしてるなんてね。雷は結構楽しい子ね」

「冗談を言うのはやめろって」

「近くに居る事は確かに可能ね」

「本当ですか?」

「綾歌叔母さんは嘘を言わないからな」

「私が学校に転入届を出せば良いだけですから。簡単ですよ」

綾歌の言葉に哀憐は言った。

「そう言う手続きは大変ではないのですか?」

綾歌の変わりに雷が答えた。

「俺が行ってる学校は、綾歌叔母さんがオーナーだから大丈夫だけど」

「凄いですね」

「入るのなら来週からかしら?」

「それくらいなら、明日か明後日の内にこの辺りの事や学校までの道を教える暇が出来るな」

「そう……それで良いかしら?」

綾歌が哀憐を見て言うと哀憐は答えた。

「はい。でも、大変じゃないですか?」

「大丈夫よ。一番の問題は名字ね」

「名字? 精霊界での通り名は『聖流の障壁を司りし者』と呼ばれてました」

「聖流の障壁……珍しい通り名ね、母から私に与えられた精霊界で通じる名は『智を受け継ぐ者』です」

「智を受け継ぐ者……随分前に精霊界からなぞの消失をした者が持っていた3つの名の1つですね」

「そうね。星野 哀憐で良いかしら?」

「はい?」

「名前よ、星野 哀憐で良いかしら?」

「はい、私がこの世界で使う名前ですよね?」

「そうなるわね。良いのね?」

「はい、大丈夫です」

哀憐と綾歌の会話が終わるまでの間雷はベッドに倒れたままの態勢で少しウトウトしていた。
しかし綾歌が部屋から出て行くと哀憐が雷の顔に触れてきた。

「あれ? 少し寝てたのか……綾歌叔母さんと話がついたんだね」

「はい、雷様は寝ていたんですね」

「正確にはウトウトしてただけだけどね」

「でも、雷様って寝てるときの顔ってちょっと大人と言う感じの表情ですね」

「そうか……そう言えば人前で寝た事はなかったんだけどな……」

「そうなのですか?」

「ああ……まさかな、そこまで俺は疲れてたのか……いまだに体がまったく動かないし」

「それは仕方ないですよ。一度も練習していない事をしたのですから疲労がピークを迎えても仕方がないですよ」

「確かにそうかもしれないけど……このまま寝るのも悪いから部屋に戻らないとな。」

「動けないのにどうやって戻るんですか? 全身が鉛の様に重くて、指先すらも動かせないのに」

「!? 何で分かるんだ? 何も言ってないのに」

「私達に繋がった物を覚えてますか?」

「……運命の糸とか言う奴か?」

「はい、それをかいすればお互いの心を感じる事が出来るんですよ それに慣れてくれば話も出来ますよ」

「へぇ…………」

「雷様? くすっ……寝むってしまわれたのですね。安らかな眠りを、雷様……」

哀憐は雷に自分が羽織っている羽衣をかけて布団や羽衣に隠すようにして雷の手を握った。。
そんな行いをした自分に少し驚きつつ眠りに着いた。

これは二人の運命にとって些細な事だが深く影響する出来事であった。
この日を境に自分を取り巻く世界が音を立てて変わり始めた事をまだ二人は知らない


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