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2016年12月23日
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カテゴリ:Advent Calendar
こんにちは。楽天技術研究所の森正弥です。


アドベントカレンダーに書いてくださいよ~、と頼まれまして、それも、kawaguti さんに頼まれまして、これは書かねばならんと思いました。ですが、何を書いたものかと頭を悩ましました。今月頭にインドのIIT HyderabadやIIT Bombay に行きまして(写真はIIT Hyderabad の遠景)、インドの学生の方々のレベルの高さやIITのカリキュラムの凄さに触れ衝撃を受け、「もう日本の大学は一切勝てないな」と煽り抜きで感じてしまったのでその話を書こうかとも思ったのですが、なんとなく、技術的なことがムラムラと書きたくなって、ただ、突如としてマニアックなことを書いても、みんなに引かれるだけなので、引かれそうな引かれなさそうなところのラインを狙いながらも、知っている人にも知らない人にも、うむうむ、と思っていただけるような内容について考えまして、やはりここは来年の2017年以降数年を睨んだときに社会そのものを大きく変革することは間違いないAIに連なる内容として、初歩としての機械学習についてちょっと書こうかなと思ったのです。機械学習って例えば楽天のEC(楽天市場)での現場ではどういう風に使われるのか、ということについて、あまり知られていないこともありますし、教科書的な感じにその活用について整理してみます。

(長文になりました。みなさん、すみません。)


■ AI技術としての機械学習の重要性

人工知能(AI)とは、今日、曖昧な使われ方をする言葉ですが、初出は1956年 “The Dartmouth Summer Research Project on Artificial Intelligence (人工知能に関するダートマスの夏期研究会)”いわゆる「ダートマス会議」でジョン・マッカーシーが名付けたの最初だと言われています。概念的なことやその議論の変遷は色々と難しいんですけど、広く通じるような捉え方としては、AIとは「人間の脳が行う知的作業をコンピューターで実現することを目指したソフトウェアやシステムのことであり、具体的には、環境や物体の認識、人の使う自然言語の理解や論理的な推論、経験からの学習を行うプログラム」のことを指します。AI を実現するための基盤となる技術というのは多岐に渡ります。ほぼコンピューターサイエンスの歴史そのものといってもいいので。自然言語処理、パターン認識、画像処理、音声認識、機械学習、ロボティクス、あげればいくらでもあるわけですが、近年のビッグデータの潮流の中、人や企業の多くの活動がデジタル化され、取得可能なデータが増え、活用機会が拡大したことに伴い、それを有効活用するための各種AI技術も注目されています。

AI技術(バラク・オバマ大統領が先日、「専用AI」という言い方をしていましたが、これは非常に適切な言い方ですね。 http://wired.jp/special/2016/barack-obama/ )は医療から交通、電力供給まで生活のあらゆる面に関わる形で本当に幅広く使われています。対して、EC(E-Commerce)ではあまり使われていないだろうというような意見も時々伺うときがあるのですが、実際はECでも様々な利用が見られます。そもそもECでは、人手を介してセールスマンが直に顧客に接してその要望を把握しより付加価値の高いサービスを提供していくということが難しいです。といいますか、そういうミドル・マンを排除することにビジネス上の意義があるわけです。人手を介していないので、顧客への提供価値を高めていくためには、データ活用の知識・技術を用い、顧客の要望を理解してあるいは推測して商品やサービスを提案するレコメンドや、顧客に応じた情報やサービスの提供を実現するパーソナライズ機能を備えていくことは必須事項と言えます。

それだけでなく、商品検索の精度向上のため、自然言語処理による商品データも用いた詳細な解析や、商品の評判情報を分析する評判解析、レビュー・アナリシス、センチメント・アナリシス等が行われます。また、昨今のマルチメディアデータの普及に伴い、画像認識技術を用いた商品画像・動画の検索機能や、音楽認識機能を用いた音楽・映像コンテンツの検索・レコメンド機能、音声認識技術を用いた対話型のUI機能等、多様な活用が広がっています。

10年近く進行してきたビッグデータというトレンドにより、保有データは大量かつ多様となり、人力で取り扱うことが難しい種類や量になってしまいました。このようなデータ増を背景に、AI技術の中でも特に、前述したレコメンド、自然言語処理、画像処理など各適用領域のどれにも横断的に存在する機械学習の重要性がましているわけです。みなさん、機械学習をやりましょう。

例えばレコメンドでは、顧客の購買情報だけではなく、顧客の属性情報や商品の閲覧履歴などを組み合わせることで、推薦された商品のCVRを高めることができます。これを推し進めて効果を最大限まで高めるために、組み合わせる情報をできるだけ増やしていきたいと考えるのですが、組み合わせるデータの種類が増えていくと、データ間の効果的な組み合わせを行うモデルを人が定めていくことは困難になっていきます。(直接関係ないですが、組合せ爆発の動画は面白いです。 https://youtu.be/Q4gTV4r0zRs )実際のビジネスではなんだかんだ使える時間も予算も限られていますので、その容赦ない制約によって人が業務内で考えることが可能なデータの組み合わせ数の限界に容易に到達します。ゆえに、機械学習手法を効果的に用いて手作業を減らし、扱えるデータ量も増やしてくということは今日のビジネスにおける現場業務の肝となっていくわけです。

■ 教師あり学習

ECへの機械学習の適用は、もう、ものすごーく幅広いわけですが、その手法としてまず知る必要があるのは、「教師あり学習」と「教師なし学習」という代表的な分類です。教師あり学習とは、事前に与えられたサンプルとなるデータをいわば「教師からの例題(教師情報)」とみなして、それを参考にデータの識別や法則性の導出を行う手法になります。

例えば、(いきなり最初から「それ機械学習じゃないだろ」論争を呼びそうなところから始めますが)回帰分析は教師あり学習の最たる典型手法であり、統計手法として広く知られているため、ECではトレンドの予測、例えば、商品の売れ行きの予測等で使われるケースがあります。楽天ではビッグデータを扱う部署が5年ぐらい前からありまして、そこで商品販売量を予測するシステムを構築しており、季節性・イベントを加味した非線形回帰モデルによる予測を行っています。このシステムは、販売量を被説明変数に、日時、月末、連休、販促活動(セールやキャンペーンなどですね)、天気、温度などの情報を説明変数として学習させることで関係性・法則性を導き、各商品の売上を推定します。説明変数に天気が入っているところがポイントなのですが、一般的に大雨が降ったり、大雪が降ったりするとECの売上はあがります。そこは面白いところです。マイナーな商品の販売量も高精度で予測ができ、時々びっくりします。人力での予測ですともちろん精度は荒くなりますし、楽天では2億点近いアイテムを扱っていてロングテールの量が半端なく全てをカバーできることはないわけなので、このようなプラットフォームが必要になります。人手ではないため誤発注による大幅なロスを抑えることもでき、リスクをコントロール可能なレベルにもっていくこともできます。

予測の話に偏ってしまいましたが、他にも教師あり学習では、判別分析である、サポートベクターマシーン(SVM)というバイナリー分類のパターン認識モデルが超有名で、一般的にデータや文書の分類などに広く使われます。ECでも、商品やユーザーの分類に使うこともありますね。また、セキュリティで使われることもあり、例えば、数多あるユーザーアクセスの中から、不正なアクセスを検知するために、過去の不正事例から、IPアドレス、ロケーション、アクセスパターン、検索語のパターン等を素性(機械学習の入力)としてモデルに学習させて判別器を作成する等もあります。SVMを前述の回帰分析に用いたサポートベクターリグレッション(SVR)というのもあります。

判別分析では、集団学習という単純な判別器(弱学習器)を組み合わせて精度を高めていく方法が特に最近人気があるような気がします。例えば、各種Boostingの手法(AdaBoost、XGBoost)やRandomForest等です。例えば、楽天では、過去に商品画像の中で特にきれいな画像を選り分けるためにAdaboostを使って抽出したり、またXGBoostを、商品データの分類・整理の精度向上目的で大規模に適用していたりします。

ところで、RandomForest はあまりドメイン知識がなくても高い精度を出すことができるので結構面白い利用例があります。楽天には70近い多様な事業があり、様々なデータが存在しているのですが、その中で競馬事業という事業があり、地方競馬の馬券購入サービスを提供しています。去年、競馬事業にて若い方々、学生やエンジニアの方々と一緒にハッカソンを行いまして、地方競馬を盛り上げるサービスやアプリを考えましょうということをしました。そこで、あるチームが勝ち馬を予測するモデルを構築しまして、実際に大井競馬場での順位の予想を行い、脅威の的中率を見せました。彼らは全く競馬の知識がなかったのですが、様々な方法を試してRandomForest が一番良さそうだと選び、その場にいた競馬予想のプロの方々もびっくりさせるシステムを作ったわけです。(参考: http://logmi.jp/170135 )ドメイン知識が不要でも成果を生むという話は本稿でもこの後も出るのですが、なかなか真剣に考える必要があるテーマです。

教師あり学習では、サンプルとなる教師情報に対する学習の結果、過剰にサンプルデータに適応してしまい、実データや未知のデータを用いた判別や予測の精度が下がる、いわゆる「過学習(Over Fitting)」なる問題があります。これは本当に根深い問題で、実際にアプローチによってはどうしてもサンプルデータが少なくなるケースや、モデルに組み込んでいないモデルの外の環境の要因を過小評価してしまっていて、外部環境変化に対応できないケース等があって避けがたい。例えば金融商品の値段を予測していくモデルを作ってもサンプルとなるデータが、物体認識での画像データ等とくらべて圧倒的に少ないですし、例えば災害や政治動向などの影響を実際は大きく受けるので、どうしてもバックテストは完璧なのに実際の予測では思うようにいかないみたいなことがあります。そのため、教師あり学習の適用時には、モデルの自由度や複雑さ、また学習結果を点検しつつ、過学習をできるかぎり防いでいく心構えが必要です。

■ 教師なし学習

教師あり学習に対し、教師なし学習とは、事前にサンプルとなるデータがない状態で、実データ自体を解析することで、データに存在する本質的な構造や特徴を抽出する手法です。

「ちょっとこれ、分析しておいて。え、例えばどうやればいいかって? そんなのいいから、とにかくデータ分類しておけばいいんだよ。あとは自分で考えな」こうですか!? わかりません。><

というのはおいておきまして、例えばECにおける代表的な機能であるレコメンデーションでは、推薦を行う顧客や商品を分類するために教師なし学習手法であるデータクラスタリング手法がとても多く使われています。また教師ありと同じくセキュリティでも使われることがあり、ログインアタック検知の際に、どのようなアタックパターンがあるのかを知るためにクラスタリングをしていくことがあります。

さて、そんな教師なし学習の手法ですが代表的なのは、みなさんご存知のk平均法(K-Means)やテキストマイニングの潜在意味インデックス(LSI)、トピックモデル手法(LDA)等です。k平均法(K-Means)とは代表的なクラスタリング手法の一つで、計算を反復的に行ないつつ、データを与えられたクラスタ数k個に分類します。単純なアルゴリズムで誰もが通る道でもありますので、応用もとてつもなく多いわけです。とりあえずユーザーを3タイプに分けようぜ、みたいなときにさくっと便利ですね。だからこそ何の観点で分けるのかという軸が大事になるともいえますが。

潜在的意味インデックス(LSI – Latent Semantic Index)は類似した文書やデータをまとめていって、その共通性(トピック)を見つけていくのに役立つ手法で、トピックモデルと言われますが、その敷衍として、類似した顧客や商品、あるいは類似したレビュー等をまとめていくことに応用ができます。テクニカルに話すと、文書類似度を比較する最初の第一歩であるTF/IDFに次元圧縮を加えて効率を高めたものともいえます。文書やデータ内の違う単語や値でも、近い意味を持つ等の類犠牲を考慮することができ、またそこから多義性の問題をもある程度解消できて、データの意味を考えつつ分類することを可能にさせてくれます。そのため、違う表現だが似たような商品等の類犠牲を反映していく形で、商品検索やレコメンドの拡張等にももってこいではあります。もちろん人手で作った辞書、シソーラスを利用することもできますが、あらゆる言葉を網羅するのは大変なので、時に重宝します。

LDA(Latent Dirichlet Allocation)もLSIと同じくトピックモデルと言われる手法の一つで、文書やデータに用いられる語や値がそもそもどういう意味を持っているのかを推定します。次元をトピック単位に圧縮するという観点ではLSIに近いです。が、LSIはそもそも偶然対象としたデータの中に存在しなかった類犠牲のある語について考慮することができません。そこで語の確率分布を意識しながらデータ分類を行うことできるようにした、pLSI (Probabilistic LSI)という拡張があり、更に文書で表現されているトピック、つまりまとめられた文書の共通性をも揺らぎを持って扱うことができるようしたものがLDAです。やばい説明が難しい。説明よりコードを見せた方が早いみたいな話でしょうか。つまり、言葉の多義性について文書内の語でも文書のまとめ方でももっと包含できるようにしたのがLDAということで、ざっくり「LSIの確率的拡張版」というような理解でいいでしょう。完全にイメージの話ですが、LDAを使う人はなんとなくイケてる感じがします。リア充でパーティーピーポーみたいな。言い過ぎですかね。LDAは後ほどまた出てきます。

LSIやLDAはテキストマイニングの代表的手法、自然言語処理の文書分類の技法と紹介されることが普通で、そのため、ECでの用途はあまりないのではないかというイメージをもたれることも多いです。なのですが、レコメンドだけでなく商品データや評判情報の解析でも、多くは自然言語処理の文書分類タスクとみなすことができるため(教師あり学習の判別分析が使われることも当然多いが)、教師なし学習はよく使われます。もうちょっと言ってしまいますと、トピックモデルというと、語、文書、そして文書の共通性「トピック」という関係になるわけですね。語と文書から、共通のトピックをもった文書を分類していく。ここで、語を例えば商品に置き換え、そして語によって形成されている文書を、商品群を買ったり、閲覧したり、検索したりしているユーザーの情報の総体に置き換えると、文書のトピックは、そのユーザー・消費者の持つある種の潜在的「目的」や「嗜好性」「スタイル」、言ってしまうとまだ表現されきっていない「隠れたニーズ」に置き換えることができます。そういうメタファーを働かすと、文書分類はマーケティングにとてつもなく応用できるわけです。(これ以上書くと、寝た子を起こすな、と皆様からお怒りがありそうなのではありますが。)

そもそもですね、教師なし、というのはサンプルデータを必要とする技法ではない、ということになるわけですが、ビジネスにおける問題解決のための態度としての意味は、ビジネス上の暗黙の前提や先入観から離れることができる、ということです。例えば、どのEC、どの小売ビジネスでも、顧客をリピート率や購入額でグレード付をするロイヤリティプログラムを導入していて、それに基づいて様々な施策を使い分けていると思います。ですが、教師なしで、ピュアに施策に対する有効性が最大化するような形でグループ分けをしてみると、ロイヤリティプログラムのグレード分けとは全く関係のないセグメンテーションの軸が抽出され、実は、特定のジャンルにおいてはグレード別の施策って本質的に意味がないんじゃない?なんてことが判明したりすることもあるのです。教師なしは、そういう意味で、適切にビジネス知識・ドメイン知識との距離を保ちながらも、時に大胆に活用していけば従来のマーケティングの常識を覆していくポテンシャルがそもそもにあって、トピックモデルの応用等はとてもエキサイティングな領域だろうと言えます。特にここ10年はインターネットの発展、モバイルの普及、ソーシャルサービスの進展によって消費者の技術環境は大きく変化し、その購買行動も劇的に変容してしまいました。それゆえに今までのビジネス上の暗黙の前提が実はもう崩れていることも多く、ビジネス知識・ドメイン知識をあえて無視することは極めて大事な試みです。(これ以上書くと、簀巻にされて浮きそうなので、ここで止めてみます。)

■ 半教師あり学習

半熟みたいな響きがあります。半教師あり学習です。

楽天では多様な店舗の各商品の解説文やデータから、マスターとなる汎用カタログを構築するというテーマも文書分類の問題として捉え、各種自然言語処理手法の適用を進めています。しかし、取り扱っている商品は2億アイテム。食品から飲料品、衣服、電化製品、デジタルコンテンツ、スポーツ用品、自動車、家とか甲冑(!)とか仏壇とか船とかヘリコプターとかに至るまで多彩でして、ここで教師あり学習の適用を考えた場合、商品の全種類に対応した教師情報を与えることは困難です。そもそも甲冑のサンプルデータってなんですかね。過学習しまくりな気がします。そこで教師あり学習だけを用いず、ブートストラップ法的なリサンプリングを繰り返すアプローチを採用したりしています。(参考文献がないんですけど、このスライドのページに言及があります。 http://www.slideshare.net/rakutentech/ecommerce-15078624/31

半教師あり学習とは例えば、少数のサンプルデータ(教師情報)を用いてまずは学習を行ない、その後、ある程度の実データを分類して、その結果のうち確度の高いものをサンプルデータと捉え直して再度学習をします。それを繰り返すことで、教師情報を多く与えることが困難でも、教師あり学習で期待できるような効果を得ることができる。半教師あり学習は、楽天のような大量かつ多様な商品データに対しては有効に作用する面があるアプローチであり、なかなか技巧的な手法です。

■ 構造学習

文書分類問題として捉えるという話を前述しましたが、他にも文書分類問題としてではなく、違う自然言語処理の問題として捉えることで、様々な手法が適用できます。例えばマスターとなるカタログデータ構築のための商品解説文からの属性値抽出を、系列ラベリング問題と捉え、それに有効なテクニックを活用することで、商品データの解析を高度化しています。系列ラベリングというのは、入力としてデータの列を与えて、出力として個々のデータにラベルを付与するというものですが、具体例を挙げると、文章をインプットとして与えて、文章の各単語がそれぞれ何の品詞かを推定し、品詞ラベルを付与したアウトプットを得る、というような問題があります。個々の単語ごとにバラバラに品詞を推定するよりも、文章にあるそれぞれの語の品詞を、文章全体の構成を意識しながら一緒に考えていき、一括出力した方がいいケースがあるわけです。そういうときに使うのが構造学習です。

楽天では構造学習手法の一つである構造化SVMや、条件付き確率場(CRF)を用いています。構造学習は教師ありが基本ですが、教師なし・半教師の手法もあります。更にCRFでは、データを推定して分類するだけでなく、あるラベルに分類されるかどうかの確率値も算出し、より高度な推定を可能にします。それもあってか、CRFは形態素解析や固有表現抽出によく使われますね。実際の楽天での使用例としては、商品解説文やレビュー文から商品の属性やその値、レビューにおける評価観点やその評価(良いのか悪いのか)を抽出するために、LDAにCRFを組み合わせて適用したりしています。(参考 http://www.aclweb.org/anthology/I13-1190

■ オンライン学習

機械学習の勉強をしていたりすると、時々オンライン学習なる言葉に出会うことがあります。これは決して人がオンラインで(インターネットサービス等で)勉強するという意味ではないところが曲者です。

例えばSVM等の教師あり学習では、与えられた全てのサンプルデータをまずは学習、訓練します。しかし、サンプルデータの量によっては、または、アプリケーションによっては全てのデータについて一度に学習を行うのがあまり適していない時があります。はじめの方で書きましたように全てのビジネスは時間的制約があるわけですし、またコンピューターの処理能力・メモリの容量など、扱えるデータ量の制約というシステム的な問題もあります。そもそも、サンプルデータが常に逐次やってくるみたいなケースもあります。そのようなケースにおいては、データが与えられるごとにパラメーターを最適化し直して学習すると便利で、そのような手法をオンライン学習と呼びます。逐次学習と呼び替えるとおさまりがいい感じです。代表的な手法としては、パーセプトロン、CW、AROW、SCW 等があります。日本語の文献は比較的少ないのですが、前述したRandomForestをオンライン学習でできるようにした Streaming RandomForest なる手法もあります。(今、現在、社内某プロジェクトで試験中。)

楽天では、今まで見た例からも自然言語処理における機械学習の重要性を色々鑑みまして、RakutenMAという学習器つきの形態素解析器を開発し、OSSとして公開しました。(参考 https://github.com/rakuten-nlp/rakutenma )形態素解析部分は、文字単位の系列ラベリングモデルを用い、学習の部分はオンライン学習であるSCW( Exact Soft Confidence-Weight Learning )を利用しています。SCWはCW(Confidence-Weight)という、学習データそれぞれの出現頻度による違いを考慮したアルゴリズムを更にノイズに強くしたもので、ソフトマージンの最適化をしている・損失上限の証明がなされている等かなりメリットの多い技術です。Javascript で手軽に動きますのでぜひご活用ください。

■ 強化学習

AI技術の中でロボットの開発に関係のある強化学習も、ECでの適用は進んでいます。強化学習とは、教師あり学習とは異なり、教師情報は存在しないのですが、その代わりに学習した後から報酬というフィードバック情報を得ることで、更なる学習の手がかりとする手法です。強化学習では不確実性のある環境を想定しており、報酬は、その性質として教師情報と異なりノイズや渡されるタイミングの遅延があるものだと考えます。そのため、利用者の反応を取り込みつつ、システムやサービスを徐々に最適化させていく場合に適しています。

レコメンドや商品検索でも顧客の反応、つまりどれにクリックしたのかとか、すぐにクリックしたのかとか、を取り入れて推薦や検索の結果を改善していくのに強化学習が使われます。他には広告のパーソナライズやABテストの中で、多腕バンディットアルゴリズムが用いられることがあります。多腕バンディットアルゴリズムとは、限られたリソースの中で、報酬(ここでは利用者の好反応)がどれぐらい得られるか過去に経験した手段の「活用(exploitation)」と、報酬を更に得られるかもしれない未知の手段の「探索(exploration)」という二種類の行動を使い分けることで、報酬を最大化する手法です。つまり、決まった試行回数の中で、やったことがあるのでわかっていることと、やってみてないのでやってみて確認したいことを組み合わせながら、最も良い選択を追求します。代表的なものとして、epsilon-greedy、UCB、Thompson sampling 等があります。

例えば、広告のクリエイティブを2案(A案・B案)作り、それぞれ50%のユーザーに表示するABテストを考えてみます。KPIはインプレッションに対するクリックの割合と単純に考えます。この際、A案・B案どちらのクリック数もそこそこ同じ感じであればいいのですが、もしB案のクリック数が絶望的に少なかったら、ABテスト期間中とはいえ、本番サービスなわけですから、B案を50%のユーザーに表示させている分はまるまる機会損失になっているとも考えられます。そこで、多腕バンディットアルゴリズムを用い、B案のパフォーマンスが悪いと思ったら、B案の表示割合を減らして、A案の表示割合を増やしていく等して、KPIを極大化し、損失もなるべく減らしていくという手がありえます。2案だったら人手でもできますが、例えばこれがクリエイティブを60案作るとか、ユーザーのセグメントに合わせてもっと多様に作るとかになったら、人手ではそれぞれのインプレッションを調整して全体としてKPIを高めていく等は到底不可能であり、強化学習の手法を適用して自動化していくメリットがあります。

強化学習は人手よりは機会損失を減らせる、とはいえ、経験の活用と更なる報酬の探求の間にはトレードオフの関係が成立するために常にどうやれば、どこまでやれば逸失利益を最小化できるのかという課題があります。そのために何を選択するかは過去のデータ及び不完全な推定に基づかざるを得ません。多腕バンディットアルゴリズムの一つであるUCBアルゴリズムは、損失上限量の範囲内でこの課題に答えを出すことができ、広く使われていますが、経験的にはThompson Samplingの方が高性能であることも知られており、楽天ではThompson Sampling を活用しています。(参考 http://blog.marketing.rakuten.com/2014/04/tech-talk-testing-with-bandits

■ 深層学習

お待たせしました。いわゆるDeep Learning、深層学習です。

これまた「それ深層学習じゃないだろ」というところからスタートしますが、Googleが開発した2層のニューラルネットからなるWord2Vec はかなり革命的でした。文章を入力すると、出力としてベクトルのセット、つまり文章にある単語の特徴量ベクトル(feature vector)を得ます。それをグループ化したり、ベクトル合成することで、類似性を判定したり、意味の推論を行ったりすることができます。数値形式なのでパラレルにも処理できるスケーラビリティも大きな魅力です。Word2Vecの適用できる分野は文章の解析だけでなく、ありとあらゆるデータに及び、楽天ではEC向けに拡張したCategory2Vecを開発、OSSとして公開しています。(参考 https://github.com/rakuten-nlp/category2vec )ECの様々なデータを学習させて応用を探っていますが、レコメンド、商品やユーザーの解析や分類、また欠損情報の推定(これは詳しくは書けないのですが、ビジネスのコンテキストでは、素晴らしいといいますか、マーケットを破壊する恐ろしい可能性があります)等、広範囲に応用できる可能性が見えています。Word2Vecは、直接は深層学習ではないわけですが、Deep Neural Network でも使える数値形式であるというところから意識しておいた方がいい技術でしょう。

さて深層学習とは、人の脳の構造をソフトウェア的に仮置きしたニューラルネットワークという手法を多層化し、高度化を図ったものです。代表的なものとしては、CNN、RNN、発展版のLSTM等があります。ニューラルネットワーク自体は教師あり学習や教師なし学習のどちらにも使われますが、深層学習は多層化されたニューラルネットワークという特徴を活かし、具象から抽象まで幅広い概念を獲得する形でデータを学習します。様々なやり方が存在しており、(AutoEncorder等で)教師なしとしてプレトレーニングして過学習を防ぐ手立てをしながら、教師ありとしてファインチューニングする等のやり方もあれば、CNNでかつプレトレーニングは一切不要というようなアプローチもあります。

プレトレーニングという言葉を出しましたが、キーとなるのは、素性をどうするかという問題です。素性とは機械学習の入力に使う変数であり、学習したい対象の特徴を表す特徴量です。例えば、文字認識・画像認識では、広く用いられるSIFT特徴量(輝度変化の勾配方向)、SURF特徴量等もあわせて素性として入れると精度が高まることがわかっています。この場合、インプットとしての特徴量を事前にデータの前処理として作る必要がでてくるわけです。データを前処理して精度があがる手立てを仕込んでおくという広い意味で理解すると、これは機械学習以前に、様々なデータ活用の手法として長らく(50年以上)コンピューターの歴史の中で常識だったわけです

ですが、深層学習の一部はその多層構造の中で特徴量を自動的に獲得することを可能にしています。これにより、画像認識や物体認識分野での著しい精度向上を実現し、人の持つ複雑な脳の処理により迫ってきたとされています。

2012年でのILSVRC2012(大規模画像認識チャレンジ)におけるプレトレーニングなしでのCNNの圧勝という華々しいニュースによって広く注目されるようになった深層学習ですが、それもあって一般的に深層学習は画像認識分野での適用事例が多いわけです。楽天でも代表的アルゴリズムであるCNNやRNNをフランスのグループ会社 PriceMinisterのC2CアプリケーションであるQuickSell に実装。ユーザーが売りたい商品の画像を自動で認識し、その商品のジャンルを推定することでユーザーが売るための作業を大幅に軽減する機能を提供しています。(参考 http://rakuten.today/blog/image-recognition-making-e-commerce-easier.html ) また同様の技術を日本でも今年、C2Cアプリ「ラクマ」の「もしコレ!」機能としてリリースしています。(参考 http://corp.rakuten.co.jp/news/update/2016/0829_01.html )「もしコレ!」の画像識別精度は、個人的にも驚いていまして、充電ケーブルとイヤフォン、のような従来の手法では区別することが困難だったものも、適切に分類することができます。(参考 Rakuma Magazine https://goo.gl/RV51xI



また、同じく画像認識での適用例として、高速にじゃんけんの手を判別して絶対に負けないじゃんけんAI が搭載されたデジタルサイネージサービスというのを試作しました。写真がそれになります。これも、代表的なCNNをベースにしています。思ったよりも反響がすごく、テレビ東京の「トレンドたまご」に出演したり、TBSの池上彰さんの特番に出演したりしております。(参考 http://rakuten.today/blog/cassis-rakutens-unbeatable-rock-paper-scissors-ai.html

以上のように楽天内の事例としても画像への適用が多いのですが、詳しくは現段階では書けませんが、マーケティングでの活用も着々と進めています。今後はそちらのご報告もできればと思っております。

■ 研究者の皆様へのデータ提供

最後に、データについての話を。ビッグデータという潮流や、多様なロングテールの発展によって、データの増加・多様化が進んでいます。それがECにおけるAI 技術活用を後押ししているのも確かなのですが、それでもデータの種類が多すぎてしまい、一企業では所有データを到底活用しきれていないのが実情です。

データ活用には各種観点での分析やモデル構築を行うことが重要で、その為には広く知見を集める必要があると考えています。アカデミアで様々な大学や研究機関、学会から研究目的で提供されているデータセットや、または政府や地方自治体から公共サービスの拡充やビジネスでの利用も想定され公開されている公共データの様に、所謂オープンデータの概念は企業においても有用でありますね。もちろんユーザの個人情報やプライバシーに重々に配慮し、データの著作権・肖像権等の諸権利をクリアした公開可能なデータを、研究目的として大学や研究者に提供する。そうして広く研究者に自社のデータを活用してもらうことで、アカデミックへの貢献もさることながら、企業単独では持てないような着想に触れ、実施できないような分析手法を知り、その結果共有を受けることで更なるデータ活用、AI技術適用、その先のイノベーション創出を推し進めることができるようになります。

楽天は研究目的で研究者の皆様が利用できるように自社のデータを提供しています。(参考 http://www.nii.ac.jp/dsc/idr/rakuten/rakuten.html ) 特にビジネスに直接結びつくEC関連の商品データ(約1億5600万)・レビューデータ(約6千400万)を筆頭に、ホテル・旅館の施設データ・レビューデータ、ゴルフ場の施設データ・レビューデータ、料理レシピのデータ・画像データ、楽天Vikiのビデオ属性情報・ユーザ行動評価情報、等を提供しています。アノテーション付きデータも公開しており、筑波大学よりご提供いただいた楽天トラベルのレビューデータに対して,文単位で評価極性情報を付与したコーパス、画像に関しては画像認識の研究にも寄与できる、商品画像のカテゴリラベル付きアノテーションデータ、文字領域アノテーションデータも提供しております。

これら研究目的での公開データは既に70以上の大学・研究機関の研究室にて活用頂いておりまして、加えて去年は、楽天技術研究所シンガポールにて、世界中から研究者・データサイエンティストを集めて、データ解析コンテストを開催しており(参考 http://global.rakuten.com/corp/news/rnn/20151221_01.html )、今年はフランスで同様のコンペティションを開催しています。(イベントサイト https://challengedata.ens.fr/en/challenge/26/prediction_of_products_reviews_interests.html )今現在、私は日本データベース学会の理事を拝命し、産学連携のお手伝いをしているのですが、日本データベース学会と一緒に来年は、研究目的でのデータ提供を拡大していくことを睨みながら、データコンペティションを開催していくことを企画中です。

■ おわりに

長文になりました。読んでいただきまして大変ありがとうございます。書き始めたら、あれも書こうか、これも書こうかとなりまして、それでも詳しい方には、「何であれが書いてないんだ」というようなことになっているとは思いますが、ざっと、AIに連なる内容としての機械学習について、ECでの活用を中心に整理させていただきました。ありがとうございました。次機会がありましたら、楽天におけるAR/VR の歴史について書きたいと思います。あまりこれまた知られていませんが、楽天は様々なAR/VRアプリを開発しているのです。そんな多様でディープな楽天の技術のご愛顧を、今後もよろしくお願いいたします。





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Last updated  2016年12月23日 10時00分03秒
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