2012/03/31(土)06:57
「必殺仕事人2007~シリーズ再開を願って」
通勤電車の中吊り広告で「必殺仕事人2007」が放送されることを知り、その場でスケジュール表に加えました。
「必殺」シリーズは、本放送から再放送まで、いつも見ていました。映画版が公開されれば、必ず行きました。レンタルビデオ屋で、そこにあるテレビ版、テレビのスペシャル版、そして映画版と見尽くして、また順繰りにみています。
「必殺仕事人2007」は、15年ぶりの新作ということです。録画するのを絶対に忘れてはなりません。
「必殺」は、とてもわかりやすい。力のある悪い奴が極悪非道を尽くし、罪のない人たちを虐げます。弱い者いじめのこいつらは、殺されても当然。
悪人どもをやっつける仕事人たちは、普段はスーパーに並んだ木綿豆腐のように平凡な人間なのですが、裏へ回ると凄い技をもつ集団。人知れず、静かに殺しを行うところがスリリングだ。自分たちの正体に気づかれないよう、警戒しながらひっそりと生きているところが健気です。
虚構性たっぷりが嬉しい「必殺」に欠かせないのが音楽。悲しい場面、憤りを感じる場面、出撃、殺しの場面など、お馴染みの曲がかかります。お話のゴールが、“晴らせぬ恨みを晴らす”と明確です。セリフがなかったとしても、場面を見て、音楽を聞いているだけで展開がわかります。
「必殺」のエースといえば、藤田まこと演じる中村主水。今回は、同心の窓際席からついに奉行所の書庫番という閑職に追いやられます。代わりに主水の席に座ったのは、定町回り同心として着任した渡辺小五郎(東山紀之)。
小五郎は、出世に興味がありません。渡辺家の婿養子で、家には義母と妻がいて、「婿殿」と呼ばれています。これは、中村主水と同じ境遇。藤田まことから東山紀之へ、エース座が引き継がれた様子です。
藤田まことは、もともと「てなもんや三度笠(1962~1968)」の主役“あんかけの時次郎(侠客「沓掛時次郎」のパロディ)”でコメディアンとして売り出しました。「俺がこんなに強いのも、当たり前田のクラッカー」「耳の穴から手ぇつっこんで、奥歯ガタガタいわしたるぞぉ」などのギャグを連発。顔が長いことから、何かというと「馬づら」を話題にされて笑いをとっていました。
中村主水が表の顔として見せる「昼行灯」は、“あんかけの時次郎”からのずっこけイメージがあります。しかし、裏の「仕事人」となれば、がらりと凄味のある演技を見せる。その二面性が、「必殺」の醍醐味です。
東山紀之は、典型的な二枚目。味のある藤田まことは違うキャラクターです。中村主水の設定をそのまま引き継ぐのは無理があります。似たような人物を出して違和感をかんじさせないようにしながらも、少し変化をもたせて「必殺」の世代交代をスムーズに行おうという意図なのでしょうか。
「必殺」では、中村主水以外のキャラクターも、とってもおもしろい。これまでは、飾り職人の秀、鍛冶屋の政、三味線屋勇次など。市井の職人でありながら、その職業的な技を生かした殺しのテクニックが鮮やかです。
今回は、経師屋の涼次(松岡昌宏)がよかったです。グルメというのか、「食い意地が張っている」と言われるほど、自分で作った料理を食べるのが大好き。松岡の大仰な演技も、キャラクターを際立たせていました。けれど殺し技は、ちょっとよくわからなかった。「絵師」ということで、絵筆に何か液体を染みこませ、武器にしていました。その液体を人体に付着させると相手は死にます。この液体が、強烈な酸なのか、毒薬なのかが不明。なんで人が死ぬのかがわかれば、殺しがもっと“すっきり”します。
「必殺」は、ありえない話だけど、ストーリーがはっきりしているから、見て“すっきり”します。
すっきり度をより高めるためには、悪い奴は徹底的に悪く描いてほしい。悪ければ悪いほど、やっつけられたときに気持ちがいい。
今回は、悪役の佐野史郎、石橋蓮司は悪かった。けれど、地上げを請け負う喜助(長江英和)や加賀谷の番頭団時朗は、悪の一味ではあっても、残念ながらあまり悪どいところが見られませんでした。仕事人の活躍、殺しのテクニックを見せるためには、殺される悪党側の人数もそれ相応に用意しなければなりません。彼らはその員数合わせでした。
特に、安徳組頭の喜助については、仕事人側が中村主水という大物なので、完璧に役不足です。ジャイアント馬場が、完全に格下のベン・ジャスティスあたりとタイトルマッチを行うようなもの。勝ってあたりまえです。
むごい話なんですが、悪人の犠牲となる人たちが虐げられれば虐げられるほど、仕事人たちの活躍に期待は高まり、悪人が殺されたとき、見ている者の溜飲は下がります。
今回は、小料理屋女将薫が夫の敵討ちに行き、返り討ちにあったことで、クライマックスの仕事へと向かいます。残された薫の息子が、仕事を依頼するとき、およそ子供が話さないような内容を語ります。この場面では、説明させるより「母上の敵討ちをして」と短い言葉で拙く表現した方が、同情をかうと思いますが。
最後に、言葉について。時代劇の登場人物に「秀」「薫」などという現代風の名前は付けないでほしい。あの時代は、そういう自己をアピールする名前より、「亀吉」「鶴の介」など、縁起のいいものなどへのあやかり型なのです。
また、劇中奉行所にて「○○が××したのと情報が入った」とのセリフがありました。“情報”という言葉は、漢字なので一見昔からあるように思えるかもしれません。しかし、informationを訳して、日本語として作った言葉なので、江戸時代にはあるはずがない。
時代劇を借りて、ひとつの物語を作っているという側面は確かにあります。また、意図的にミスマッチのものを見せる面白さはあります。ひいては、言葉や服装については、厳密でなくても、雰囲気がでればいいというのが最近の風潮かもしれません。でも、ささいな言葉がひっかかって、物語に入っていけないということもありますので。
「必殺仕事人2007」は、スペシャル1本では終わらないでほしい。話の中に、仕事人のエピソードを小出しにして、必殺シリーズ再開へつなげるものを匂わせていました。期待がふくらみます。「必殺仕事人2007」のビデオを加えて、繰り返し旧作を見ながら、待っています。
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