体感!JUNKムービー

2008/07/06(日)06:48

「マーキュリーマン(2006)~観客を泣かせるヒーローになれ!」

ヒーロー映画(72)

 2008年夏休み映画、(ごく私的な)お楽しみベスト10。その第2位にランクインしたのが「マーキュリーマン」です。  もとよりスーパーヒーローものははずせません。その上タイ製なのです。だから、堂々第2位なのです。  タイといえば、「マッハ!(2003)」「7人のマッハ!!!!!!!(2004)」「トム・ヤン・クン!(2005)」「ロケットマン!(2006)」などのアクション映画がすばらしい。どの映画も、掟破り、型破りなところがじつに!マークつきの気分爽快さを味わえます。  掟破りなのは、すでに何かの映画で見たことのあるアクション場面の焼き直しがけっこうあること。けれども、元ネタのアクションよりもいっそうデンジャラスなスタントにしてしまうなど予想外、常識を覆す展開が、型破りです。爆走しているトラックの屋根から飛び降りて、後続のトラックにひかれそうになるなんていう危ないシーンを平気で釣瓶打ちします。  多分、スタントをする人たちは、ギャラや安全よりも達成感の方を優先するのでしょう。監督の「カット」の後に、「オレはジャッキー・チェンを超えたぜ」などと、叫ぶのが聞こえてきそうです。例え松葉杖をついたり、車椅子に乗ったりしたとしても、危険なスタントをフィルムに焼き付けた充実感が支えてくれるのではないでしょうか。  観客を楽しませる映画をつくるためなら手足の一本や二本折れたって構わない、内臓破裂も、頭蓋骨骨折さえも厭わない、タイのアクション映画はそんなふうに命知らずなのです。  だから、ストーリーとかなんとかじゃなくて、とても見応えがあります。  さて、マーキュリーマンはというと、これまた見たことのある場面がありました。  まずマーキュリーマン自体が、そのスタイル、能力、動きから見て、タイ版スパイダーマンであることは、すぐにわかっちゃいました。  スパイダーマンもマーキュリーマンも、ぴったりした全身タイツとマスク姿です。赤と黒(濃紺?)の色違いで、模様のデザインも違いますが、マーキュリーマンは、父親が異国で生ませたスパイダーマンの腹違いの弟のようです。  スパイダーマンの武器は、手首から噴射する強力なクモの糸。それをコンクリートの塊などに粘着させ、持ち上げたり敵にぶつけたりします。マーキュリーマンは、金属を自在に操れる能力をもっています。手から磁力を発して、綱で引っ張るみたいにして大型バスを3台も動かしてしまうのです。能力は異なっても、ヴィジュアル的によく似ています。そして、ビルからビルへ、柔軟に飛び回る姿は、やっぱり異母兄スパイダーマンと同じ動きです。  超能力を身に付け、コスチュームができあがると、マーキュリーマンは、銀行強盗や酒酔い暴走運転を捕まえて街の平和を守ります。その様子が、新聞でヒーロー登場!と騒がれる。これもスパイダーマンと同じですね。アメリカのスーパーヒーローものには、スーパーマンにしろ、ロボコップにしろ、こういった街の犯罪を取り締まるシーンが必ずあります。  日本のヒーローは、あまりそういう日常的に事件にはかかわりません。犯罪の発生件数の違いでしょうか。    タイのアクション映画が、先行するアクションシーンを取り入れるように、マーキュリーマンも、スパイダーマンだけでなく、他のアメリカ・スーパーヒーローの映画の活躍ぶりを引用しています。“ファンタスティック・フォー”風味だったり、“X-メン”タッチだったりと。タイの映画人は、ヒット映画に対するリスペクトの念が強いのに違いありません。  スパイダーマンには、ビルから落下しながら闘うような、とってもダイナミックなシーンがありました。それらの場面はCGでできていました。マーキュリーマンも、ビルを飛び回るシーンなどでCGを使ってあります。  ですが、さすがにムエタイ(タイ式ボクシング)とデンジャラス・アクションのお国柄です。弟マーキュリーマンが兄スパイダーマンと異なるのは、正当格闘技を身に付けているところ。悪人との闘いでは、タイ映画お得意のムエタイ式肉弾格闘アクションが繰り広げられます。  正義のヒーローに対して、悪党テロリスト達も様々な武器と格闘技で挑みます。  かつてジミー・ウォングは、「片腕ドラゴン(1971)」で世界中の怪しげな格闘家と闘いました(ムエタイの選手もいました!)。そうした格闘技大戦争は、虚構の世界の醍醐味です。マーキュリーマンでは、スーパーヒーローとテロリストたちの鍛えられた格闘“リアル”アクションを見ることができます。  見どころは多いのですが、大変残念な点があります。スーパーヒーロー映画としてみたときには、これではいけないと思うのです。  クライマックスで、テロリストがアメリカの軍艦に向けてミサイルを放ちます。アメリカの軍艦は、子供の日特別イベントが開かれて大賑わい。普段は見ることのできない軍艦に乗って、子供達は大はしゃぎ。艦長さんや水兵さんに難しい質問をして、困らせたりしています。中には、スパイダーマンのコスチュームを身にまとった子もいたりして。  いたいけで生意気な子供達であふれかえっている軍艦に、ミサイルが撃ち込まれようとしているのです。まさに、危機一髪の状態。このピンチを救えるのか、マーキュリーマン。しかし、マーキュリーマンは、テロリスト軍団との格闘バトルの真っ只中。迫るミサイル、さあ、どうするマーキュリーマン。  結局、ミサイルを迎撃したのは、実戦経験のない砲手でした。彼は、人々を救い、拍手喝采、ヒーローとなります。  こんなところで普通の人間をヒーローにしている場合ではありません。ミサイルを破壊し、子供達を救うのは、スーパーヒーロー、マーキュリーマンでなくてはいけないのです。  スパイダーマンは、暴走する高架電車を、周りのビルにクモの糸を連射し、体が裂けんばかりになりながらも、渾身の力を振りしぼって止めました。乗客は、スパイダーマンに、惜しみない感謝を捧げました。バットマンもスーパーマンも、命がけで大惨事、大事件を防いで、人々を救ってきました。彼らは、スーパーヒーローにしかできない役目を果たしたのです。そして、助かった人々はスーパーヒーローを讃え、観客は感涙にむせび泣くわけです。  タイ映画は、このスーパーヒーローのツボを押さえなければなりません。人々が、スーパーヒーローのことを熱く感じる部分にこそリスペクトを払わなければいけないのです。スタイルやアクションだけでなく、スーパーヒーローによって刺激されるエモーションについて、さらに研究してください。  アメリカのスーパーヒーロー映画では、第一作目はスーパーヒーローの誕生秘話を描くことに重点が置かれていました。そのため、今ひとつスーパーヒーローの活躍を描き切れませんでした。「マーキュリーマン」は、そこも見習ったのかも知れません。ということは「マーキュリーマン2」には、おおいに期待していいのでしょう。  スパイダーマンに似ていたっていいのです。スパイダーマンにはできないド派手な活躍をすれば。次回作を楽しみに待っています。 人気blogランキングに参加中。クリックしてね。ご協力、よろしくお願いします。

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