祖母の葬儀で、とても慌ただしかったのですっかり忘れていた事を思い出しました。
たしか夜中の2時頃だったと思います。
葬儀社の車で亡くなった祖母が自分の家に帰っていった後、わたしもクルマを運転して
祖母宅へ向かっていたのですが、祖母宅へ通じる道路はアパートとか一戸建ての家々が
立ち並ぶ住宅街を通って行った先にあるのです。
なので、音一つしない雪のしんしんと降りしきる住宅通りをブオオオ~って走っていたら
わたしのクルマのライトに照らされた何かがザザザっっ!って大きく動き回ったのです。
『え??何?』って驚いてクルマを停めて見たら、わたしの目の前に大きな角を
にょっきりと生やした牡鹿が突然飛び出してきたのです。
よく見ると、その後に続いて8頭くらいのカモシカが群れを作って
わたしのクルマの前を、わらわらと走り抜けて行きました。
他のカモシカには角は生えてませんでした。
先頭を歩く大きなカモシカだけが、ひときわ目立つ立派な角をわたしに向けて
じっと、クルマの前から動こうとしないのです。
そして、他のシカが全部道路を渡るまで、わたしのクルマをじっと見つめたまま動かないのですよ。
わたしは、怖くなったのでクラクションを2回鳴らしました。
すると、その角を持った大きなカモシカは、よじるように身を震わせて
脱兎のごとく雪の降り積もった白い道路を勢いよく去っていきました。
そのすぐ後を、仲間のカモシカ達がカッカッカッと追いかけて行きました。
わたしは、カモシカの群れが見えなくなるまで道路にエンジンを掛けたまま
ぽかんと停まっていたのですが、ここはフツーの住宅街なンですよ。
山の中じゃなくて、アパートもある住宅通りなんですよ。
そして、雪がずっと降り続いているので、辺り一面真っ白な真夜中の世界がもやもやと広がっているンですよ。
そんなフツーの住宅が建ち並んでいて、雪が積もって白くてもやもやした暗闇の世界から
カモシカの集団がにゅうーーーって飛び出してきて、雪の降る中を走り回り消えていったンですよ。
その時のもっさりと雪に覆われた家々の白い風景と、走り去って行く黒い獣の群れとの
墨絵のような絶妙な色合いのコントラスト。
ああ。この時のあの幻想的。ファンタジーな世界観。
それをきちんと伝えられない未熟な自分がああ、悔しい。
ほんとうにえもいわれぬ不思議で怖くてでも穏やかで。
あのときの不思議な感覚はいったい何だったンだろう・・・
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