小さな不動産会社のBOSS日記

2005/08/31(水)01:14

懺悔と感謝

足跡(8)

学生時代によく利用していた食堂。 そこは、当時住まいの近くにあった警察内食堂でした。 市役所等の公的施設内には、指名業者が入った一般にも利用しやすい食堂や床屋があります。 何しろ、安くてボリュームたっぷりでしたから、当時私達貧乏学生の多くがそこを利用していました。 他にも幾つかの、行き着けの一般食堂がありましたが、その警察内食堂の良さはつけが利くところでした。 店内にぶらさがった「通い帳」の様なものに、自主的に食べたものと料金を記帳して帰ります。 そして一月に一度、食い溜まった代金を支払うのです。 もちろんニコニコ現金払いもOKでした。 むしろつけをする人の方が少なかったか・・・。 しかし、実に有難い、貧乏学生に優しい食堂でした。 その食堂は腹を空かした連中がワイワイ楽しくできる場でもありました。 時にこんな滑稽こともありました。 その日テーブルに座った私の前の学生に、私が隣の友人と話している隙に、私の注文した焼肉定食の皿の焼肉を失敬されたり・・ 話している友人からふと顔を前に戻すと、丁度前の学生が、私の皿の焼肉を、箸でかっさらって自分の口に持っていくところでした。 大事な焼肉3枚くらいでした。 目の前の学生と私は、顔は知っていても、ろくに話などしたこともありませんでしたから、この大胆さに全く呆れました。 この野郎!と思いましたが、今度はいつかこちらが奴のを4枚程隙をみて失敬してやろうと思いました。(^^) はなから風情もなにやらおかしかった彼ですが、その後は親しい友人となりました。 ところで、店主と別に、身内の人かパートさんかの女の人が2人程のこの警察内食堂。 私の大好きな焼肉定食は180円也の学生の味方の代金でした。 随分と利用させてもらった店ですが、ある月末、溜まったつけの代金が払えないときがありました。 炭焼き小屋の様な、ただ板を打ち付けた、内から外が見えるほどの入り口の戸は、 開閉時にその戸と下の土面が当たって、ガラガラと音を立てていました。 そんな風呂なし四畳半の部屋代金7000円の家賃の支払いも遅れたりしていた時分です。 (ところで現在、当社の管理物件の滞納家賃は0%でありますから優秀) そしていつだったか、支払いの滞った食堂代金を、つい払えないまま月日は経っていきました。 そしてその内、特段の催促もないことについ甘え、支払いのタイミングを逸したまま気まずくなり、更にその食堂への足は遠のいていきました。 その後の月日が経ったある夏、帰省中の私の元に一枚の暑中見舞いが届きました。 それはなんと、その食堂の女性従業員からのものでした。 葉書には、 ・・その後お元気にされていますか・・云々と丁寧に書かれていました。 さりげなく、どうしたのか私の身の上を問うてきたのでしょう。 しかし、滞納していた通い帳のつけの代金のことには一切触れてありませんでした。 私は、負い目と申し訳なさとが混在した複雑な気持ちのまま、 その後も、相変わらずの貧乏生活との狭間で、ついにその食堂に足を向けることなく、 やがて卒業してしまいました。 私の卒業後しばらくして、その食堂経営も変ったようですが、私が食べた、つけの3000円何がしの代金を、結局私は踏み倒したままになってしまいました。 もう何十年も経って時効ではありますが、本当に苦しかったあの頃。 私は今でも、時々あの時の夏に届いた食堂からの一枚の暑中見舞いに一瞬胸がキュンとなりながら、 今日こうして私があるのは、あの時代に触れ合った多くの方々によるものだと心より感謝しつつ、今でもこうして時折振り返ることによって懺悔と感謝をしているのであります。 そして、あの実に美味しく贅沢であった180円焼肉定食の味を、いつまでも忘れることはないのです。

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