らぐなlock 第13話アイラは全神経を集中し一点だけを見据えている。彼女に与えられた使命は『誰よりも先に獲物を捕獲する』・・・ただそれだけ。 確かに周りを見渡せば歴戦の猛者がずらりと揃っている。 さすがの彼女も緊張を隠しきれないが、負けるつもりなどさらさらない。 速さであれば誰にも、この場にいるどの強者にも負けない自信がある。 全ての力を結集し、風のように駆けて獲物をその手に掴み取る・・・。 ただそれだけを考え開戦の時を待った・・・。 『始めッ!!』 突如言い渡される開始の声。 その声に弾かれるようにアイラは駆けた。 出だしはまずまずだ。 視界の隅に出遅れた者が他の猛者に踏み潰されているのを捉えたが、彼女の知ったことではない。 アイラはひたすら目標に向かって駆けた。 あと10m・・・7m・・・5m・・・・・。 そしてついに射程距離まで届いた! アイラ「いけるッ・・!!」 アイラは確信した。 そして一気に跳び、手を伸ばして獲物を手に・・・。 アイラ「・・・!!」 一瞬目の前を黒い影が横切った。 その後アイラの目の前には獲物の姿はなかった。 『獲物は一体どこに・・・?』と探す間もなくアイラはまともに壁に激突し、意識を失った・・・。 アイラ「あいたたた・・・・。」 涙目になりつつ頭をさするアイラ。 だから言ったであろうが。無茶はするでないと。 アイラ「だってぇ~・・あんな値段で売ってるのなんてめったにないじゃないのぉ~・・・。」 ここは市場のとある骨董品店。 普通は多数の商品を展示し、それぞれに相応の値段を提示しているものなのだが、ここでは違う。 店長がかなり変わり者で一品一品順番に紹介し、その場で破格の値段をつけ売っているのだ。 それだけならいいのだが、売り方がおもしろい。 100m離れた場所に商品を置き『用意、スタート』で一斉に走り出し、手に入れたものに商品の購入権を与えるというものなのだ。 しかも結構掘り出し物が多く巷で人気の店だったりする。 そこに今回『鉄の剣』が7万Goldで出品されたのである。定価からいえば約10分の1だ。 これに参加しない手はないということでアイラも参加したわけだが・・・結果は見ての通りである。 ちなみに参加者のほとんどは冒険者や国の兵士だったのだが、GETしたのは一般の主婦だった。 アイラ「てか主婦が何に鉄の剣を使うのよぉ~~・・・。」 『ほ~っほっほっほっほっ♪』と高笑いする主婦の様子を思い出し、ガックリと膝から崩れ落ちるアイラ。 しかし主婦とはあんなにも強靭なものなのか。普通に戦場でも生きていけるぞ。 あまりにもショックで引退を決めた冒険者の表情が忘れられない・・・。 欲しい物を安く手に入れようとするには相応の覚悟が必要だということだな。 というか既に鉄の剣を買えるくらいの金は持っているだろう。普通に買ってはどうだ? アイラ「・・・そうね。・・・そうしようかな・・・。」 肩を落としながら武器屋に向けて歩き出すアイラ。 と、前方から見覚えのある者が歩いてきている。 アイラ「あら、Jupiterちゃんじゃない。こんにちわwお買い物?」 Jupiter「こんにちわおねーさん♪うん、パン屋のオバちゃんのところにねww」 Jupiterはニコニコしながら答えた。 パン屋・・というと以前倒壊してしまった(させてしまった?)店のことだろうか。 あれから数日だが、もう営業は始まっているようだ。これもpockiの手際の良さによるものだろう。 彼女の表情から察するに、本当にパン屋の中年女性のことがお気に入りらしい。 アイラも微笑ましい様子に顔をほころばせた。 Jupiter「あ、そうだおねーさん。防具の開発でおねーさんの提案した名前が採用されてたよwおめでとう♪」 アイラ「・・・え?ほんとに?やったね♪」 アイラが提案した名前・・・?私はふと思い返してみる・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ナニィッッ!!?Σ( ̄□ ̄;) まさか!?そんなバカなッ!! 提案したのは確か『誘惑のガーター』と『黒い勝負下着』だったはずだぞ!? きっと何かの間違いだ!この娘の冗談に決まってるッ!! 確認しに行くぞアイラ!さぁ行くぞ!すぐ行くぞ!! アイラ「あ~もぅ、うるさいわねぇ。分かったわよ。・・・ありがとねJupiterちゃん♪私も見てくるわw」 Jupiter「うんwあ、それと私のことはジュピでいいよ♪」 アイラ「OK、ジュピちゃんwまたね♪」 Jupiterと別れ会議室まで来たアイラ。黒板を見ると確かに新しい書き込みがあった。 内容は『防具の名前決定!ご協力感謝致しますw』 うむ。その名前は・・・!? 私は逸る気持ちを抑え続きを見た。 『防具の名前は・・・【神狼の闘衣】ですwアイラさんおめでとうございます♪』 ・・・・・は? アイラは満足そうに頷いている。 ・・・・・なにこれ?お前いつの間にこんな提案したの? アイラ「この前アンタがトイレに行った時。」 言って口笛を吹きながら去っていく・・・。 私はその場に取り残されしばらく呆然と佇んでいた。 私が宿に戻るとアイラはベッドに腰掛けながら、新品の鉄の剣をにこやかに磨いていた。 私って・・・ナレーター失格だよね・・・orz |