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月下美人の語り草

月下美人の語り草

らぐなlock 第19話

混乱の最中、ただ聞こえるのは怒声と悲鳴。何かがぶつかる音と何かを切り裂く音。
この乱戦では敵は目の前だけとは限らない。
常に周囲に注意を払い、向けられた殺意をいかに素早く感じ取り、冷静に対処できるかが生き残るポイントとなってくる。
相当の戦い慣れしている者ならある程度経験でなんとかなるだろうが
特に多対多の戦いに慣れていない新兵にとって、緊張の糸が張りっ放しというのは耐え難いものだ。
それ故、実力の半分も出せずに倒れる結果になった例が数多く存在する。
この戦いでも例外ではないようだ・・・。


アイラ「・・・明らかに押されてるように見えるんだけど。」
牛「・・・そうだね。敵は良い動きしてるよ。統率に乱れがない。」

リュシス・ディストピア連合軍VSヘルヘイム軍。数でいえば圧倒的に連合軍の方が多い。
ただ数のほとんどが新兵で戦力とは言えないのだ。
その為当初は勢いで押していたが徐々に押し返されてしまった、ということだ。
そして連合軍側の第一陣の攻撃部隊は全滅。軍に動揺が走ったのは言うまでもない。

牛「特に敵の陣形は見事だね。右翼と左翼が前に出て中央の軍が街を守っている。ウチの兵たちは街を落とすことしか考えていないから、無闇に中央の軍に突っ込んでいくだろ?そこを左右の軍が先鋒部隊の後ろに廻りこんで中央の軍と挟み撃ち。兵たちは大混乱ってわけさ。」
アイラ「なるほど・・・って冷静に分析してていいの?」
牛「分析は重要だよ。そのおかげで対抗する術を見つけることができたんだからね。」
アイラ「そぅ・・それじゃどうすればいいのかな?司令官殿♪」
牛「一度ウチの部隊の一つを先鋒として中央に向かわせる。敵の右翼と左翼が挟み撃ちに動いたところを即座に部隊を急転回、我が軍本隊と先鋒部隊で挟み撃ちだ。」
アイラ「・・・確かにそれは良い案だけど・・・。下手すると・・・。」
牛「そう。先鋒部隊は全滅の危険がある。しかし右翼と左翼を各個撃破しようとしても難しい。軍を退かれて中央の軍と連携されては厄介だ。3軍と戦うより2軍と戦った方が被害は少なくて済む。」
アイラ「先鋒部隊が作戦の要ってことね・・・。」
牛「そうだ。そこで・・・君にも先鋒部隊に入ってもらいたい。」

牛は強い意思を込めて言った。
先鋒部隊が崩れれば作戦自体が崩れる・・・そのことを知りつつアイラに任せるという。
アイラは迷わず答えた。

アイラ「行くわ。」



ここはヘルヘイム国ヴァルハラの街防衛軍司令部。
ここには3人の武将が顔を揃えていた。
一人は仮面の剣士『zero』

zero「うはwwwなんだ、連合軍っつっても大したことねぇなwww楽勝楽しょぉぉおおおぅぅwwww」

一人は両手に小剣を携えた女剣士『エン』

エン「油断は禁物よ。今ので私たちの作戦はバレたはず・・・。次はもっと慎重になると思うわ。」
zero「エンちゃんは心配性だねぇwww大丈夫だってばwwこの『天災』様がいる限り負けやしないってwwww」

楽観的なzeroと対照的にエンは慎重派のようだ。
いつもながらのテンションに呆れながら、『やれやれ』といった感じで言葉を返すエン。

エン「『天才』じゃなくて『天災』というところがzeroちゃんらしいっていうか、文字のまんまっていうか・・・w」
zero「うはwwwやったねwwエンちゃんに褒められちゃったよwww」
エン「褒めてないって・・・^^;でも須佐之男さん、ホントに戦いに参加して良かったの?今日は奥さんの誕生日だったんでしょ?」

エンは今まで無言でいた最後の一人、色黒の大男『須佐之男』に話を振った。

須佐之男「・・・かまわん。国の大事だ。国が滅んでは誕生日も何もなかろう。」
エン「いや、まぁそうなんだけどね・・・。奥さんがちょっと寂しいだろうなって・・・。」

心配そうなエンの表情に須佐之男は微笑んで口を開いた。

須佐之男「・・・なに、アレはそんな殊勝なタマではない。それに・・国を護りきってからゆっくりと祝ってやるさ。」
エン「・・・うんっ♪その方がきっと奥さんも喜んでくれるねw」
zero「さっすがすさ爺www男気あふれちゃうねwwwwもはや『漢』と書いて『オトコ』と読んじゃうねwwwww」

そんな時、前線より伝令が飛び込んできた。

伝令「敵部隊、動きました!中央の軍にまっすぐ向かっております!」
zero「うはwwwまたかよwwぶっ飛ばしてやるゼェェエエエッッwww」
エン「また同じ手を?一体何を考えているの・・・?」
須佐之男「・・・何か裏があるやもしれん。十分注意しろ。」
エン「・・わかってる。須佐之男さんも街の守備をよろしくね。」

そういって司令部を出て行く二人。
残された須佐之男はその様子を見ながら胸騒ぎを感じていた・・・。



先鋒部隊が敵中央軍にむかって前進していく。
作戦の要は先鋒部隊・・・とはいえ本隊の力をあまり割くわけにはいかない。
やはりここは賭けだが『主力ではないが弱くもない』といったレベルの人員ばかりが選ばれることとなった。
そしてその中にアイラの姿はあった。
不安はもちろんある。しかし敵を打ち破るにはこれしか方法はないのだ。
覚悟を決め、アイラは左右の軍の動きに集中する。
左右の軍は先程と同じように先鋒部隊の横を通り過ぎる。
そして動きを変化させ後ろへと廻りこむ。
その瞬間を狙って先鋒部隊が方向転換、廻りこんだ敵軍に突撃する!

アイラ「一泡吹かせてあげるわよッッ!!」
先鋒部隊「うおおおおおおおッッ!!!!!」

アイラの号令に部隊が応じ怒号が戦場に響き渡る!
気圧されたのか敵軍が一瞬動きを緩めた。
その隙を見逃すほどアイラたちは甘くはなかった。
速度を速め、一気に攻撃を仕掛ける!

アイラ「はぁぁぁあああああッッ!!」

目の前にいる者、手当たり次第薙ぎ倒す。
隙をついたとはいえ、敵の動揺はそう長くは続かない。
狙うは指揮官。速攻で敵陣を突き破りそこまで突き進む。

アイラ「・・・ッッ!!?」

しかし敵兵の盾に遮られ一瞬動きを止めてしまう。
そしていち早く動揺から脱した敵兵の剣がアイラを襲う!
ヒュンッ!!
間一髪剣を掻い潜り難を逃れた。髪の毛が数本宙に舞う。
すかさずカウンターの蹴りを放ち敵兵を吹き飛ばす!
息をつき足を止めている暇はない。引き続き敵陣に向かって走り出す。
その瞬間・・・!

「ひゃっはぁぁああwwwもらったゼェェェエエエッッwwwww」
アイラ「・・・なにッッ!?」

後方から剣が振り下ろされる!
アイラはとっさに横に跳んだ。
ドガァッッ!!
音がした方を見ると、今しがたアイラのいた場所にクレーターのような陥没した穴ができている。
あれが身体に当たったらと思うとアイラはゾッとした。

仮面の剣士「ちちぃッッwww外しちまったかぁぁwww」

全然悔しそうに見えない。むしろ戦いが長引いたことを喜んでいるようだ。
仮面の剣士・・・。とにかくテンションが高い男・・・。この男が注意すべき3人のうち1人か・・・。

アイラ「・・・貴方がzeroね・・・。」
zero「うはwwwさっすが天災様!!敵陣にまで有名なんだねwwサインは後にしちゃってwwwww」

アイラは噂のハイテンションを目の当たりにして少し呆れたが、先ほどの一撃を思い出して気を引き締める。
うかつに近づけば強烈な一撃で粉砕されるだろう。だが間合いに入らなければ攻撃できない。
アイラは意を決して攻撃に移った。
低姿勢からの足払い!
しかしzeroはそれを読んでいたのか、軽く後方に下がりかわした後に剣を素早く突いてくる!

アイラ「くぅッ・・!!」

剣が脇腹を少しかすめ、なんとか避ける。
しかしzeroの攻撃は終わらない。続けざまに突き出した剣をそのまま横に払う!
ギンッ!!
首に当たる寸前、ナイフで何とか受けるアイラ。
鉄の剣とナイフでの鍔迫り合いが始まった・・・が、力でアイラが勝てるはずがない。
みるみるうちにアイラが押さえ込まれてしまう。

zero「ひゃはwww終わりだぁぁぁあああッッ!!」
アイラ「ぅあッッ!?」

アイラはナイフごと弾き飛ばされ倒れた。
さらに追い打ちをかけるようにzeroの剣が彼女を襲う!!

アイラ「・・・ッ!!」

倒れた状態ではもはや避けようがない。アイラは覚悟を決め眼を閉じた。

ザシュッッ!!!

戦場に鮮血が舞った・・・。


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