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月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第5話

「・・・・・じーさん、ボケてんの?」

目の前の自信たっぷりな老人に、ラクチェはため息交じりに言った。


エロルドに連れられて王城に入ったラクチェは感動の連続だった。
今まで物語やゲームでしか見たことのない騎士や司祭、魔導師たちが目の前で普通に歩いているのだ。
ファンタジー好きなら心が躍っても仕方のない状況である。
目移りしながらもエロルドの背中を見失うまいと追いかけている。
そんな様子を見ながらエロルドは苦笑しながらラクチェに問いかけた。

エロルド「フフッ・・・そんなに面白いかい?」
ラクチェ「うんっ!だって物語でしか知らない光景を今見てるんだもんwすっごく楽しい♪」
エロルド「・・・・・本当に異世界から来たんだね。」

ラクチェの反応を目の当たりにして、いろいろ納得しているらしい。
エロルドのそんな様子もまったく気にせず、彼女は自分の世界に浸っている。
(この調子なら魔法だって見れるはず・・・♪もしかしたら私も使えたりして・・・w)

ラクチェ「むふ。むふふふふふ・・・。」
エロルド「・・・・・・・こっちだよ。」

含み笑いをするラクチェに気味が悪そうな視線を向けつつ先へと案内する。
王城を歩いている内に、実はエロルドは身分が高い者だということがわかってきた。
出会う人全てが挨拶をしてくるし、その度に『エロルド様』と呼んでいるのだ。

ラクチェ「貴方って・・・ただの門番じゃなかったのね・・・。」
エロルド「まぁ、いろいろ訳ありなのさ。」

ラクチェは『どんな訳なの?』と訊こうとしたが別の声によって遮られた。

老人「おぉ!帰ってきたか、エロルド!」

ふと歩いている廊下の先を見ると、元気そうな老人がエロルドに手を振っている。
年齢は70になるかならないか。
歳の割にはガッシリとした身体をしており、ご近所に居そうな『まだまだ若い者には負けんゾイ!』的な老人の雰囲気をかもしだしている。
よく見れば身に着けているものは細かな装飾が施されていたり良い材質のものを使っていたりしているので、実は身分の高い人物なのかもしれない。

エロルド「父上。只今戻りました。」
ラクチェ「ち・・ちちうえ・・・?」
老人「ないすたいみんぐぢゃ♪お前にちと相談があってな・・・。」

と、そこまで言ってラクチェの存在に気づく老人。
エロルドとラクチェの顔を交互に見て、『やれやれ・・・』といった感じで口を開いた。

老人「・・・エロルド、前から言っとるじゃろ?女を連れ込む時はわしに見つからんようにせいと・・・。」
ラクチェ「ンなッ・・・!?」
エロルド「彼女とはそんな関係ではありませんよ、父上。」

うろたえるラクチェとは対照的に落ち着いて言い返すエロルド。
自分の父親というだけあって日頃から慣れているのだろう。

老人「なんじゃ、まだ手をつけておらんのか?じゃったらわしが先に・・・ぐほォッ!」
ラクチェ「あ、ごめんなさい。つい。」

胸に触ろうとした老人にボディブローを一発・・・。
老人は足がカクカクいっているがなんとか耐え抜いている。
自業自得なのだが、年寄りにこれはキツイのではないだろうか・・・。

老人「・・・ゲフ・・。冗談のわからぬ娘っこぢゃ・・・。」
エロルド「父上、こちらも少しお願いがあるのです。」

エロルドはやはり慣れているのか『いつものこと』とでもいうように流して早速本題に入った。


今までの話を一通り話す中、老人はずっと難しい表情をしていた。
話を聞き終えても老人は口を開かずジッとしている。
沈黙が続くのに耐え切れず、ラクチェは口を開いた。

ラクチェ「信じられないとは思いますが、本当なんです!だから王様に会わせて下さい!お願いします!!」
老人「・・・・・その必要はない。」
ラクチェ「確かにこんな得体の知れない奴を会わせたくないというのはわかります。ですが・・・どうか、お願いします!!」
老人「いや、じゃからその必要はないんだってば。」

軽い雰囲気で返してくる老人に『へ・・・?』と顔を上げると、老人は胸を張って答えた。

老人「だってわしが王様なんじゃもん♪」
ラクチェ「・・・・・じーさん、ボケてんの?」

・・・とまぁここで冒頭のセリフになるのだが。
まったく信用しないラクチェにエロルドが口を開いた。

エロルド「本当なんだよ。ここにおられるのはフェンリル国王、レグス・ラ・フェンリル様その人だ。」
ラクチェ「はぁ!?こんなエロじじぃが国王なわけ!?てかその息子って・・・アンタもしかして王子様!?」

頷くエロルドと老人。
老人にいたっては真顔でピースまでしている始末。
(あ・・頭痛くなってきた・・・。)
こめかみを押さえて俯くラクチェ。気持ちはわかる。

老人改め国王「世の中とは常識では計り切れんものじゃよ。うんうん。」
ラクチェ「自分で言うなっての・・・!」
エロルド「それで・・・父上。お答えをいただきたいのですが。」
国王「おー、そうじゃ。それじゃったな。」

本題を思い出し、国王も表情を引き締めた。
ラクチェもゴクリと唾を飲み込む。

国王「・・・実はわしの相談もその件でな。お前にいろいろ聞きたかったのじゃ。」
ラクチェ「・・・・・え?」
エロルド「・・・どういうことです?」
国王「うむ・・・。実はその娘以外にもおるのじゃ。『異世界から来た』という者がな。」
ラクチェ、エロルド「「・・・なッ!?」」

驚愕する二人。まさか他にも同じような境遇の者が居ようとは・・・。

ラクチェ「ど、どこにいるの!?その人は・・・!?」
国王「まぁ待つのじゃ。ここで立ち話でする話でもなかろう。」
エロルド「・・・そうですね。場所を変えましょうか。」
ラクチェ「・・・わかったわ。」

今すぐ聞きたいのはやまやまだが、確かにここでは話せることと話せないことがあるだろう。
先を行く二人の後を追い、思案に耽る。
(私以外にも・・・。一体誰が・・・?)
ラクチェは逸る気持ちを抑え、無限にも思える長い廊下を歩いていった。


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