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月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第14話

エリュシオン軍は北門の部隊が退却したことで、南門からも一旦兵を退いた。
陽も落ちかけ空が紅く染まった頃、戦闘も一時収まりをみせた。
しかしまたいつ攻めてくるかも解らぬ状況の為、城壁には交代制の見張りをおき部隊はしばしの休息に入った。
兵たちを休ませている間、各部隊の指揮を執る武将は王宮の作戦司令室に顔を揃えていた。
今後の作戦を練る為である。

カノア「・・・ですから、このような布陣で望めば敵がいかに攻めてこようと防げるはずです。」
レイナート「しかし防いでばかりでは勝利はない!ここはやはり打って出るべきでは・・・」
ラゼム「レイナート。下手に打って出ては敵の策に嵌まるだけだ。ここは慎重に事を起こさねばならん。」
エロルド「そうだな。まだ軍師の姿が見えない・・・。何が待ち構えているか解らないからな。」

軍師・・・酒姫の姿は未だ確認されていない。
姿を見せないことで逆に動揺を狙っているのか、それとも今も策を進行中なのか。
一同は後手後手に回ってしまっている状況を歯がゆく感じていた。

エロルド「ラクチェ、何か良い案はないか?」
ラクチェ「・・・・・・・。」

ラクチェは何の反応も見せない。
考え事をしているように宙をじっと見つめている。
エロルドは怪訝な顔で再び名前を呼んだ。

エロルド「ラクチェ?どうした・・・?」
ラクチェ「・・・・・ぇ・・あ、なに?」
レイナート「『なに?』じゃねぇ!会議中だってのに、なに呆けてやがる!!」
ラクチェ「あ・・・ご、ゴメン。。」
カノア「大丈夫ですか?顔色が優れないようですけれど・・・。」
ラクチェ「だ、大丈夫!えぇっと・・・なんだっけ?」
エロルド「・・・酒姫殿の動向が読めないと思い切ったこともできん。何か良い案はないかと思ってな。」
ラクチェ「酒姫さん・・・か。」

ラクチェは酒姫を思い浮かべて思案した。
(あの人なら効率の良い方法を選ぶはず。だから兵を悪戯に消費するようなことはしない。)
今の方法のまま攻めつづけても被害はお互いに大きくなるだけだ。
(どこか弱点を突いてくるはずだ。この城の弱点を・・・。)
フェンリルの王宮とそれを取り巻くブエルの街の見取り図を見ながらひたすら考える。

ラクチェ「この城に外に通じる抜け道みたいなのってない?」
フェンリル王「あるにはあるが、わしら王家の者にしか伝わっておらん。知られることはないと思うぞ。」
ラクチェ「そっかぁ・・・。あの人ならどこか手薄なとこを狙うと思うんだけど。。」
エロルド「外から城まで直接繋がるところといえば・・・水路か?しかしとても人が通れるところではないぞ?」
ラクチェ「・・・どうやっても通れない?」
カノア「水中に侵入防止の鉄格子が幾重にもあります。水の中ではいくら剣技が熟達していても鉄を斬ることは難しいでしょう。」
ラクチェ「・・・でも他にはないんだよね?」
エロルド「まぁな。だから悩んでいるんだが・・・・・っ!?」

いきなり街の方が騒がしくなった。
廊下をドタドタと走る音が近づいてきたかと思うと、扉がガラッと開き兵士が現れた。

兵士「伝令っ!敵の攻撃が始まりました!」
エロルド「わかった、陣形を崩すなと全軍に伝えろ!」
兵士「ハッ!!」

来た時と同じく、ドタドタと騒がしく走っていった。

エロルド「聞いての通りだ。一旦酒姫殿のことは置いておいて、現状をなんとかしよう!」
カノア「各自、持ち場に戻って下さい!」

一同は指示通り、各守備位置へと向かう。
当初と同じように、ラクチェとリエル、レイナートは北門。
エロルドは南門。カノアとラゼムは王宮だ。
陽は落ちきり空は闇の帳が覆っている。
城門近くを見ればすでに火の手が上がっていた。
急がねば手遅れになるかもしれない。
しかしラクチェは酒姫のことが気にかかっていた。
(少し正直すぎる攻め方に思える。。やっぱり陽動して別のところから・・・?)
走りつつもその考えが拭えない。
(賭けてみるか・・・。)
急に方向転換し王宮の方へ戻るラクチェ。
レイナートはそれに気付き、声をかけた。

レイナート「おいっ!どこ行くんだ!?」
ラクチェ「ゴメン!北門はお願いするわ!」
リエル「わちしも行くにゃあ!」
レイナート「あ、おい、お前まで!?・・・なんだってんだよ、チクショー!!」

制止の声を無視して走っていくラクチェと後を追うリエル。
自分まで持ち場を離れるわけにはいかず、腹立たしげに門に向かうレイナートだった。


河から直接水を引く水路。
それは王宮のすぐ近くの井戸にも通じている。
南北の門での戦闘の音が響く中、暗闇に紛れて動く人影があった。
人影は全部で3つ。
二、三の言葉を発したかと思えば、口を閉ざし人目を忍んで走る。
王宮の入り口まであと十数mというところまで来て、人影は立ち止まった。
ここが目的の場所・・・というわけではない。
目の前に見覚えのある人物が待ち受けていたからだ。
しばしお互い黙って対峙する。
雲に隠れていた月が姿を現して人影を照らしだした。
一人は逞しい肉体をした巨漢。
武器は持っておらず、己の肉体で戦うような格闘家。
一人は小柄な少年。
まだ幼い顔立ちを残しているが、強い意思を感じさせる眼をしている。
一人は紅い髪の女性。
剣を携え、月の光を浴びてさらに妖艶さを増している。
・・・言わずと知れた酒姫であった。

酒姫「・・・まさかここが読まれるとは思わなかったよ==」
ラクチェ「あなたならやりかねないと思いましてね。」

二人の会話に怪訝な表情を見せる格闘家と少年。

格闘家「知り合いか?」
酒姫「まぁ、ね。ここは私に任せて行っていいよ==b」
少年「・・・よいのか?」

ちらりとラクチェの方を見て訊ねる少年。
ラクチェは特に止める様子もない。

酒姫「えぇ。後で行きます。タウル、頼んだよ==」
格闘家改めタウル「あいよ。さぁ、行きますぜ。」
少年「うむ・・・。酒姫、無事に戻るのだぞ。」
酒姫「はい。・・・ご無事で。」

ニコリと微笑んで二人を見送る。
二人の姿が見えなくなってから酒姫は口を開いた。

酒姫「悪いね、見逃してもらっちゃって==w」
ラクチェ「別に構いませんよwそれよりどうやってここまで来たのかが気になりますけどね。」
酒姫「あぁ・・・鉄格子かい?あれならさっきの筋肉バカに曲げさせた==b」

その返答に呆れつつも感心するラクチェ。
確かに水中では動きが制限され、剣で斬ることは難しい。
しかし曲げるだけなら水の抵抗は受けない。
とはいえ、相当な力がなければ不可能だろうが・・・。

酒姫「・・・戦場にいるってことは、もう戦う意思を固めたんだね。」
ラクチェ「・・・もう、後戻りはできないんです。」
酒姫「目つき、変わったね・・・。ふふ・・いい勝負ができそう。。」

長剣を音もなく抜き、半身に構える。
ラクチェも同じように構えたが、ややラクチェの方が前傾している。
お互いの視線が絡みあう。
ピン・・・と糸が張ったように周囲の雰囲気が張り詰めていく。

虫の鳴き声が止んだ・・・。

ギギィィンッッ!!!

一瞬闇が火花に照らされる。
速すぎて目に追うのも困難だが、今の瞬間だけで2連撃を放っている。
いずれも酒姫の剣撃。
しかしそれを受け流すラクチェも大したものだ。
酒姫の剣を押さえ、そのまま刀身を滑らせて首を狙う。
間一髪で仰け反り剣をかわす。
そのままの勢いで後方に一回転し、着地と同時に前に出て渾身の一撃を放つ!
ラクチェもそれを読んでいたか、大きく横に跳び攻撃をかわした。
しかしそれでも酒姫は止まらず、後を追って剣を突き出す。
ラクチェは転がりながら起き上がり、剣をすくい上げて酒姫の剣を払う。
さらに手首を返して水平に斬りつけた!
これは避けられる間合いではない!

酒姫「・・・ッ!?」
ラクチェ「(・・・いけるっ!!)」

剣が酒姫の腹部に届く・・・かに思えた、その瞬間酒姫の姿が視界から消えた!
それと同時にラクチェの腹部に衝撃が走る!

ラクチェ「・・・カハッ・・!?」

一瞬意識が途絶えるがなんとか持ち直す。
右側に気配を感じ、剣を振る。
酒姫は大きく跳び剣を避けた。

酒姫「大したもんだね。完璧に膝が入ったのに動けるなんて・・・。」
ラクチェ「ケホッ・・・ケホ・・・ッ・・・。」
酒姫「流石は伝説の英雄に名前を連ねるだけはある・・・ってとこかな?==b」
ラクチェ「・・・自分だって本当ならそのくらいの実力はあるでしょう。。」
酒姫「興味ないんでね==」

恨めしげに見返すラクチェに澄ました顔で言う酒姫。
伝説の英雄・・・ゲーム内のキャラで総合ステータスが最も優れている者10人をそう呼ぶ。
しかしこれらは全て自己申告制であり、申告しなければどんなにステータスが優れていてもランクインすることはない。
よって英雄に数えられているラクチェよりも強い者など、世界にはゴロゴロいるのだ。
対する酒姫もそのゴロゴロの一人である。

酒姫「さて・・・どうする?続ける?==」
ラクチェ「・・・私もこのまま終わるつもりはありません。」
酒姫「上等・・・。それじゃ、第二ラウンドといこうか・・・。」

再び剣を構え、睨みあう二人。
が、その時・・・。

どっごおおおぉぉぉおおおんんん!!!!!

いきなり王宮の外壁が弾け、爆発音が鳴り響いた。


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