その瞳に映るものは・・・ 第21話蒼き太陽の神々国・・・。つい先日まで神の教えを説いてきた王族が城にいた。 しかし現在の玉座には誰の姿もない。 むしろ首都であるブレアデスにすら誰一人として王の血族は残っていなかった。 全て反乱を起こした際に捕らえ、処刑してきたのだ。 ・・・ただ一人、王女であるロゼッタ・レム・マークノイアを残して。 黒衣の男「・・・どうした?浮かない顔をしているじゃないか。」 大剣の騎士「・・・うるさい。放っておけ。」 黒衣の男「ククク・・・よもや反乱を起こしたことに罪悪感を感じている、とでも言うのではないだろうね?」 黒衣の男は笑いを堪え切れないとでもいうように含み笑いを浮かべている。 対して大剣を持つ騎士は、仏頂面で迷っているような表情である。 浅黒い肌に銀の長髪。鎧の隙間から、大剣を振り回すに相応の逞しい体つきも確認できた。 この大剣。『蒼き太陽の神々』を表す紋章がついている。 高位の魔力が込められているのだろう。淡い緑色の光がうっすらと剣を覆っている。 大剣の騎士「・・・・・。」 黒衣の男「おやおや、図星かね?我らが反乱軍のリーダーが・・・お優しいことだ。」 大剣の騎士「・・・反乱を起こしたことは後悔などしていない。しかし貴様と契約したことは俺の間違いだった!」 黒衣の男「ほぅ?これは心外だ。我はお前の望む通りに手を貸し、見事領土を勝ち取ったではないか。」 大剣の騎士「確かに領土が欲しいとは言った。だが・・・ッ!!」 騎士は殺意を込めた視線で男を射抜く。 しかし男は気にした風もなく、変わらず笑みを浮かべたままである。 黒衣の男「ククク・・すでに終わってしまったことを議論しても意味はなかろう?それに・・・。」 男は窓からチラッと外を見て言葉を続ける。 黒衣の男「・・・もう時間はない。」 大剣の騎士「・・・この戦いが終わったら、貴様を斬る。首を洗って待っておけ・・・。」 言い捨てて兵の元へと立ち去る。 男は無言のまま、ただ笑みだけを浮かべて見送っていた。 目の前には敵部隊が配置されている。 確認できるだけでも兵数はこちらのおよそ五倍。 しかしそれでも全兵士数の三分の二といったところだろう。 酒姫「囮としてはもうちょっと引っ張りたかったところだな==;」 少数で残り三分の一を引き受けることになるラクチェが気がかりだったが、まずは自分の役割である。 酒姫は剣をスッと抜き放ち、号令をかける。 酒姫「・・・かかれっ!!」 怒号とともに戦闘が開始した。 酒姫は先陣を切って敵兵を次々と斬り捨てる。 その様子に乗せられたか、味方兵も押しているようだ。 酒姫「・・・訓練は受けているみたいだけど、まだフェンリルの方が手強いね==」 大剣の騎士「ならば俺が相手をしてやろう。」 彼女の前に立ち塞がったのは一人の騎士。 浅黒い肌に銀の長髪。大剣を携えた男だった。 ただならぬ力を感じ酒姫は無言で剣を構え、騎士に斬りかかる。 ギィンッ!! 鋭い剣撃を難なく弾く騎士。 お返しとばかりに大剣を豪快に振り抜く。 酒姫は剣で受け流し、大きく跳び退き距離をとった。 酒姫「・・・やるね。==」 大剣の騎士「お前もな。・・・傭兵か?名をなんと言う?」 酒姫「人に名前を尋ねる時は自分から、って教わらなかった?==」 大剣の騎士「フッ・・・そうだったな。随分昔に教わっていたから忘れていた・・・。」 騎士は大剣を構え直し、彼女の眼を見据えながら名乗った。 大剣の騎士改めウェイブ「ウェイブだ。」 酒姫「ふぅん・・・あなたがウェイブ・フォーレスト。。==」 ウェイブ「・・・見たところ国の者ではないようだが。。俺のことを知っているのか?」 酒姫「国外でも有名だもの。もちろんあなたの通り名もね。。」 ウェイブ「・・・お前は?」 酒姫「酒姫よ。」 ウェイブ「酒姫・・・?エリュシオンの軍師が何故こんなところにいる?」 酒姫「長期休暇をもらって世界一周旅行==b」 ウェイブ「・・・面白い。一度剣を交えてみたいと思っていた。。手合わせ願おうか。」 酒姫「国外にまで鳴り響いた『闘神』の名を持つ者にお誘いを受けるなんて光栄ね。。==」 言うが早いか、二人同時に地を蹴り剣が交錯した。 リエル「ウェイブ・フォーレストにゃあ?」 ゴーエン「そうだ。あの男が陛下を手に掛けるなど考えにくいのだ。」 罠の地点で待機している間、リエルとゴーエンは敵の総大将について話していた。 猫と話す中年の男というの構図もなかなか面白くはあるが笑っている場合ではない。 ゴーエン「奴は混乱を嫌い秩序を重んじていた。国法に反する組織を宥めるのに奔走していたのだが・・・。」 リエル「それがどうして悪の親玉になってるにゃあ?」 ゴーエン「わからん。陛下を手に掛けたところで混乱が増すばかりだというのに・・・。」 真意を掴めず困惑の表情を浮かべる。 ゴーエン「こうなればこの手で捕らえて全て吐き出させてやろうぞ!ウワッハッハッハ!」 リエル「でもおっちゃん、そこまで強くないにゃあ!」 ゴーエン「ングッ・・・!?さ、さて・・・酒姫殿はまだだろうか。。」 痛いところを突かれ、わざとらしく話を変えるオッサンなのだった。 ヴゥンッ!!! 大きく振り抜かれる大剣をギリギリで避ける酒姫。 だが剣圧によって巻き起こる風に煽られ、一瞬体勢が崩れる。 ウェイブ「フン・・・ッ!!」 酒姫「くっ・・・!?」 振り抜けたはずの大剣が舞い戻り酒姫に襲い掛かる。 間一髪で大剣を掻い潜り、転がりつつウェイブと距離をとる。 力強く、迅い。それでいて隙がない。 『闘神』の二つ名は伊達ではないということか。 乱した呼吸を整えつつ、周囲の様子を見る。 兵士たちはしばらく善戦していたが数の差というのは大きい。 徐々に押し返され、味方兵も倒れ始める。 酒姫(・・・そろそろ頃合か。。) 酒姫「撤退だッ!!!」 号令をかけ味方兵を退却させる。 それを見て敵軍は追撃を開始する。 ウェイブ「・・・逃げるか。」 酒姫「このまま戦っても勝てそうにないからね。あなたがいなければ話は別だけど==」 ウェイブ「この人数差で勝つつもりだったのか?呆れた奴だ。。」 酒姫「勝敗は人数差じゃ決まらないからね==b この程度の兵力じゃ私は止められないよ。」 ウェイブ「・・・フッ、挑発のつもりか。。では好きにするがいい。手合わせはまたの機会としよう。」 言って大剣を鞘に収め、城へと戻っていく。 酒姫はそれを見送りつつ複雑な表情を浮かべる。 酒姫「罠を見破られた・・・?強い上に頭も切れる・・・厄介な相手だな。。==;」 軽くため息をつき、兵士たちの後を追っていった。 視線の先に多数の人影が見え隠れする。 リエルはそれを見つけ、各部隊に罠発動の準備に取り掛からせた。 ゴーエンは人影を黙って見過ごすと、続いて100人を超える敵兵が怒声を上げつつ追撃してきた。 敵兵の陣形は追撃の際に崩れ、縦に長く伸びてしまっている。 敵兵の半分が通り抜けた時、ゴーエンは合図を出した。 その瞬間、陣の真ん中付近にいる敵兵の動きが止まった・・・。 いや・・・よく見れば足が地面に埋もれており、必死にもがいている。 続いて伏兵により多数の矢が敵兵に射掛けられる! 為す術もなく次々に倒れる兵士たち。 敵兵「な、なんだ・・・!?」 敵兵「くそっ!伏兵か・・・!?」 敵兵「あそこだっ!!怯むな、かかれっ!!!」 罠から逃れた後続の兵は伏兵の存在に気付き、一斉に向かっていった。 それを見たゴーエンたちは剣を抜き、咆哮を上げて敵兵に突っ込んでいく。 兵数の差はおよそ20。少々不利ではあるが許容範囲ではある。 ゴーエン「舐めるでない、この若造共がぁぁあああッッッ!!!」 襲い来る敵兵を次々と力任せに弾き飛ばす。 言ってはなんだが・・・その戦い方は騎士というよりも蛮族に近かったりする。 それはそれで相手にとっては恐怖を与えることになったらしく、敵兵の表情に躊躇いが表れ始めた。 敵兵「ちょっ・・・!なんだよこのオッサン・・・!?」 敵兵「騎士みたいな格好してるけど、実はどっかの蛮族とかじゃねーの!?」 敵兵「くっそー!騙しやがったなぁっ!?」 ゴーエン「貴様らぁぁあああ!!!よりによって私を蛮族呼ばわりするかぁぁあああッッ!!!」 より一層ゴーエンの暴れっぷりは激しく。 敵兵「やべっ!キレちゃった・・・!(汗」 敵兵「こりゃ手がつけられん。。前方の兵を呼べっ!!」 敵兵「・・・お、おい。。あれは・・・。」 敵兵たちが陣の前方に目を向けると、一人の女性が立っていた。 そしてその足元には多数の兵が倒れ伏している。 女性は笑顔でこちらに手を振っている。・・・酒姫であった。 罠が発動すると同時に反転し、後続と分断された前方の兵士を襲撃。 あっさりと全滅させた、というところだろう。 流石にこの状況では勝ち目はないと判断したか、次々と投降を始めた。 ゴーエン「よぉーし。貴様ら全員正座してそこに直れぇぇい!!」 投降した敵兵を並ばせ、説教を始めるゴーエン。 今までの鬱憤を晴らすかのようにクドクドとお得意の精神攻撃を延々と浴びせ掛けていた。 ・・・だから気が付かなかった。 自分が弓で狙われていることを。 狙いは心臓。この軌跡なら間違いなく正確に貫くことだろう。 あとは指さえ矢から離せば必然的に胸へと吸い込まれていく。 さぁ、指を離す時だ。いざ・・・。 ドンッッッ!!! 何かの衝撃が走り、男の意識はそこで途絶えた・・・。 リエル「まったく世話が焼けるにゃあ~・・・。」 意識なく倒れている男の背中に乗り、汗を拭う仕草をするリエル。 ゴーエンを狙う男の存在に気付き、雷撃で阻止したのである。 矢は放たれたが雷撃の衝撃で狙いは大きく外れた。 そのお陰でゴーエンは今もなお気持ち良さそうに高説を垂れている。 酒姫「まぁあのオッサンらしいけどね==」 リエル「それは言えてるにゃあw」 酒姫「・・・こっちは片付いた。。あとはラクチェさんの方だね。。」 ただの兵士だけなら遅れをとるとは思えないが、ウェイブは王城に戻ったはず・・・。 それに暗躍している者の存在も拭い切れない。 リエル「わちしたちも行くにゃあ!」 酒姫「だね==b」 酒姫とリエルは王城へと走り出した。 |