その瞳に映るものは・・・ 第22話城外の敵兵が酒姫たちを追って行ったのを確認すると、ラクチェら王城突入部隊は作戦を実行に移した。王家のみが知り得る隠し通路・・・。 これを使えば一気に敵の喉元へと剣を突きつけることができる! しかしあまり大人数で行えば敵に知られてしまい作戦は失敗に終わる。 その為、人数は少数でいなければならない。 必然的に突入部隊には危険が伴い、命の保障はない。 さらに敵の総大将ウェイブは闘神とまで謳われた男・・・。 一筋縄ではいかないことは目に見えていた。 ラクチェ「こっちは私とロゼ・・・。あとはその親衛隊が5人、と・・・。」 通路を駆けつつ改めて仲間の顔を見渡す。 ゴーエンは腕利きの兵と言ってはいたが、おそらく並みの兵士と比べて腕は立つ程度だろう。 5人にはロゼの護衛のみに専念してもらった方がいいかもしれない。 突然先頭を走っていたロゼが立ち止まる。 目の前には小さな扉があった。 ロゼ「ここよ。この先が城内・・・円卓の間に出るわ。。」 ラクチェ「オッケー。。じゃあ行くよ。」 扉を開き、中の部屋の様子を探る。 気配はない。誰もいないのだろう。 ラクチェは部屋の出入り口の扉に近づき聞き耳を立てる。 ラクチェ「・・・話し声がする。。2人・・・3人か・・・。」 僅かに扉を開き様子を見る。 少し離れた場所で立ち話をしているようだ。 距離にして5m強・・・。 ラクチェ「・・・ちょっと難しいけど、一気に行けばなんとかなるか。。ロゼたちはここで待ってて。。」 ロゼ「わかった。・・・気をつけてね。。」 頷き、剣を抜きそぉっと扉を開ける。 まだ気付かれていない。ラクチェは一気に駆け出した! その足音で流石に気付いたか、敵兵は振り向いた・・・が遅いっ!! 一瞬で二人に当身をくらわし昏倒させると、残り一人の首筋に剣を突きつける。 ラクチェ「動かないでね。ちょっとでも動いたら頭と身体がサヨナラになっちゃうから。」 敵兵「わ・・・わかった・・・!」 ラクチェ「物解りが良くて助かるわ♪じゃちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」 敵兵「な、何でも話すッ!だから・・・命だけは・・・!」 ラクチェ「はいはいw話してくれたら助けてあげる♪・・・総大将はどこ?」 敵兵「・・・謁見の間だ。」 ラクチェ「ホントね?もし嘘だったら戻ってきて、アンタみじん切りにして鍋に入れて弱火でコトコト時間と手間暇と愛情を込めて煮込んじゃうよ?」 敵兵「ひぃっ!!?マジっす、これマジなんすっ!!!」 ラクチェ「ならヨシ。んじゃおやすみ。」 剣の柄で首筋に一撃を加え、言葉と同時に敵兵の意識は途絶えた。 剣を収めて扉の向こうで覗き見ているロゼたちを手招きする。 ラクチェ「総大将は謁見の間だってさ。行こっか。」 ロゼ「・・・・・そうね・・・。」 ラクチェ「ん?どうかした?」 ロゼ「いえ・・・ナンでも。。」 どうも先程の脅し文句が聞こえていたらしい。 ロゼも親衛隊5人もちょっぴり恐怖が入り混じった目をしていた・・・。 ロゼの話によれば謁見の間は、円卓の間横の階段を降りて右の通路をまっすぐ。 途中左側にある大きな扉の先にあるという。 階段から少し通路の様子を見てみたが、敵兵が多数確認できた。 となるとここから先はバレないように進むのは不可能。 さらに言えば『気絶させる』などと甘いことを言っていては切り抜けられそうもない。 手加減抜きで突破しなければ、たちまち囲まれることになるだろう。 ラクチェ「強行突破しかないね。・・・覚悟はいい?」 ロゼも5人も頷き返す。 ラクチェも頷き剣を抜いた。 そしてエリュシオンとの戦いの記憶を思い起こす。 『自分の失態で大切なものが失われる』・・・あの忌まわしい記憶を。 今、再び人を斬る覚悟を呼び覚ます。自らの手を血に塗れさせる覚悟を・・・。 大きく深呼吸をする。 ラクチェ「いくよッ!!!」 一陣の風が吹き抜け、一瞬で3人が倒れる。 倒れる間際に見たのは黒髪と一筋の光。。 おそらく彼らも何が起こったのか解ってはいまい。 しかし周りの兵はそれ程鈍くない。 咄嗟に敵だということに気付いたようだ。 敵兵「し、侵入者だッ!!殺せぇッ!!!」 敵兵「ロゼッタ王女もいるぞ!捕らえろッ!!」 全兵力の大部分は囮部隊を追っているとはいえ、それでもかなりの兵が城内に残っているようだ。 7人を包囲し一気に潰しに掛かる。・・・が、すぐに包囲は打ち砕かれた。 ラクチェによる剣撃で次々と敵兵は屍へと姿を変えていく・・・。 やがて敵兵の顔に恐怖が浮かび、向かっていく者は少なくなっていった。 チャンスとばかりに7人は包囲を突破し、謁見の間へと伸びる通路を駆けていく。 ロゼ「・・・これなら行けそうね!」 ラクチェ「そうね・・・ッ!?ロゼ、危ないッ!!」 ロゼ「え・・ッ!?」 兵「姫ッ!!」 ドガッ!!! 親衛隊の一人がロゼを庇い吹き飛んだ。 通路の横からなにやら大きな人型のモノが飛び掛ってきたのだ。 よく見れば頭部が牛、身体は逞しい人間・・・ミノタウロスというやつのようだ。 人の倍ほどもある体長に、それに見合う巨大な戦斧。 とても親衛隊で敵う相手ではなさそうだ。 ラクチェ「それでいて見逃してくれそうもない、か。・・・ロゼをお願い。」 兵「ハッ・・・。」 残った親衛隊の兵にロゼの護衛を頼む。 ラクチェは吹き飛ばされた兵の傍に駆け寄っているロゼを横目に、ミノタウロスと対峙する。 血走った目で彼女を睨みつけている。 (あまり時間はかけられないわね・・・。) 剣を握り直し、低い姿勢から駆け出す! 懐に入り袈裟斬りを喰らわした・・・が。。 ラクチェ「くッ・・・!?なんて堅さだ・・・。」 剣を通して伝わる感触は、まるでゴムマリを棒で叩いているようだった。 それでも痛みはあったのか、憎しみのこもった視線でラクチェを捉え戦斧を叩き下ろした! 横に跳び、避けざまにミノタウロスの肘を剣で斬りつける。 しかし裂傷は与えたようだが、切断までには至らなかった。 どうやら人と違い桁外れの耐久力を持っているようだ。 ラクチェ「・・・でもダメージは与えてる。。連続攻撃でいけば・・・。」 兵「ぐぁぁッ!!」 ラクチェ「・・・ッ!?」 親衛隊の悲鳴に振り向いてみれば、ロゼの周りに敵兵が追いつき交戦中であった。 既に立っているのはロゼと親衛隊の2人だけ・・・。 壁を背にしているが、2人だけではロゼは守りきれない! ラクチェも応援に行きたいがミノタウロスがそうはさせてくれない。 そんな中敵兵の一人が親衛隊の間を抜け、ロゼに向けて剣を突き出す! 『刺される!』ラクチェはそう思った。 ・・・その時、ロゼが不可思議な動きを見せた。 そして、その一瞬の後。ラクチェは目を疑った。 いや、その場にいた者全てが困惑しただろう。 攻撃したはずの敵兵が・・・ロゼに関節をとられ組み伏せられていたのである。 今の技は・・・突き脇固め? 刃物で突かれる際に腕を決めて組み伏せる、合気の技の一つだ。 それに組み伏せた後に聞こえたあの音は・・・。 剣を奪い取りスッと立ち上がったロゼは、立ち上がれない敵兵を見下ろしながら口を開いた。 ロゼ「・・・護身術は王族の嗜みよ。甘くみたわね。」 敵兵「・・・・・ッ・・」 ロゼ「なんならもう一本の腕も折ってあげてもいいわよ?」 ・・・やはり腕が折れた音か。。 となると、かなりの使い手である事は明白。 どうやらロゼの方の心配はなさそうである。 ラクチェはミノタウロスに集中することにした。 ラクチェ「さて・・・あっちの心配がなくなったからには、安心してアンタをぶっ倒せるってことね!!」 攻撃を再開。今度は一撃で倒せないことはわかっている。 手を休めることなく、攻撃を繰り返す。 ミノタウロスは力は強いが速さはそれほどでもない。 ラクチェは右へ左へ。後ろから上からと動きで翻弄し隙を突いて剣を振るう。 そしてミノタウロスも体力の限界が来たか、ついには片膝をついた。 ラクチェ「よぉし・・・これで仕留めるッ!!」 止めとばかりに駆け出し、高く跳躍した。 しかし突如ミノタウロスの眼が光り、戦斧をラクチェに振り下ろした! まさか、狙っていたのか・・・!? ラクチェ「・・・ッッ!!?」 ロゼ「ラクチェっ!?」 咄嗟に剣で受け止めようとする。 しかしその破壊力までは受け止めきれず、ラクチェは大きく弾き飛ばされた。 床を転がりつつ起き上がる。 どうやら大きな怪我はないようだ。 しかし・・・。 ラクチェ「・・・ッ!?剣が・・・!」 ラクチェの使っていた剣が刀身の途中からポッキリ折れてしまっていた。 あと少しで倒せるというのに・・・。 ロゼ「ラクチェ、これを使って!」 ロゼの放り投げたものを掴むと、ほのかに力が湧いてくるような気がした。 剣にしては短い。しかし短剣にしては長い。。 ちょっとした小太刀のようなものなのかも知れない。 鞘から抜くと、刀身が淡い緑の光に包まれていた。 手によく馴染む。まるで彼女の手の中に在るのが当たり前かのように。 しばらく剣に魅せられていたが、状況を思い出しミノタウロスへと向き直る。 ラクチェ「ありがと!使わせてもらうわ!」 言うが早いか振り回される戦斧を掻い潜り、一気に間合いへと踏み込む! ラクチェはこの不思議な剣を手に、一つの確信をしていた。 ラクチェ「これなら・・・いけるッ!!!」 剣を一気に振り抜く。 それは最初の一撃とまったく同じ場所。 だが結果は正反対であった・・・。 ミノタウロスの身体は二つに分かたれ、咆哮を上げながら力尽きた。 その様子を見た敵兵たちは、先を争うように逃げ去っていった。 謁見の間に通じる門の前にたどり着き、やっと一息ついて怪我の応急処置を行う。 親衛隊の3人は一命を取り留めたが、戦えるような状況ではない。 3人には悪いが、適当な部屋で救助を待っていてもらうしかないだろう。 ロゼは連れて行きたがったが、この先に何が待ち受けているのかわからない。 城内にいるはずのないミノタウロスがいたことで、何者かが暗躍していることが確信に変わった。 モンスターを使役しているとなると、いよいよグレイスの手の者と考えた方が良いだろう。 この門の先にいるのは、果たして鬼か悪魔か。。 いずれにしても負けるわけにはいかない。二度とあの悲しみは繰り返さない。 ラクチェはそう心に決めて扉を開いた。。 ジャンル別一覧
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