思いのままに書け！

　　　　　　　　　　…………忠告…………

　　　　　　　虫嫌いの方は、読まない方がいいです。

　　　　　　　　　　…………………………
　

　もう春がすぐそこまで来ていた。
　とはいえ、まだまだ薄着にもなれない。
　そんな時期のお話である。


　ピンポーン……


　チャイムの音に、私は重い腰を上げ玄関に向かった。
　出来ればコタツの中に、その身を預けていたかったのに。

　『はーい…』

　ドアを開けると、管理人が難しい顔をして立っていた。
　
　『これ、どうしたん？』

　管理人は玄関の床を指差した。
　
　水を撒いた訳でもないのに、玄関の床が濡れ、
　外の廊下にまで染み出ている。
　結露の所為だと、大して気にも留めていなかったのだが、
　近所からクレームが来たらしい。

　そうとなればこのままほっておく訳にもいかない。
　私と管理人は調査を開始した。

　よくよく見てみると、ドアについた水滴が
　床や廊下を濡らしているのではないのが分かった。
　玄関の脇のコンクリートの隙間から、
　少しずつ水が漏れているのだ。　

　ひとまず、その道のプロを近日中に呼ぶ事にして、
　私たちは調査を終了した。


　次の日。


　昨日とは一転して、朝っぱらから空気が暖かい。
　重いコートを脱いで、僕の腕の中においでと、
　春の陽気が私を誘う。

　よし、待ってな。

　コートの代わりに体に掛かっている布団を勢い良くめくり、
　『寒い寒い』と体を縮める配偶者を放置し、
　テレビのある部屋のドアを開けた。


　


　んなっ………！




　私は愕然とした。



　部屋の壁に、カーテンに、




　見た事もない小さな虫がいる。




　飛び交うわけでもなく、ただ張り付いている、　
　直径５ミリにも満たない数匹の虫を、
　とりあえず皆殺しにして、
　気を取り直す為に、私はタバコに火を付けた。




　小さな虫には、羽根があった。
　蛾のミニバージョンといった感じだ。



　と、いう事は…間違いなく奴らは飛ぶ。



　確かに、我が家は率先して掃除する者がいないので、
　他所様に比べたら『汚い』方だ。

　だが、巷で流行っているゴミ屋敷ではない。

　


　あの、水……。



　あれが関係しているのか？



　ゴクリと喉が鳴った。



　
　この家は長男・次男の友人の溜まり場であり、
　私と配偶者の友人の溜まり場でもある。

　しかも生まれたての赤子がいる。


　
　『あの家、虫が湧いてるんですって…。』

　『おお、嫌だ。もう行かない方がいいわね。』

　『ええ、ええ。誰が行くもんですか。』



　緊急事態だ！



　こうして、我が家と名もなき小さな虫たちとの、
　壮絶なる戦いの火蓋は切って落とされたのである。




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく