テーマ:ショートショート。(573)
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お題は、かぼちゃ、クリスタル、バラの花です。
いきなり最終回です。気合い入れて真面目に書きました。 雷鳴が轟く原野の裾を一筋の影が走り抜けていた。 まるで疾風のように、暗夜であることを無視した疾走だった。 黒い不格好な馬にまたがり、黒いマントに濃い緋色の帽子。 闇と同化するようにして、男は一陣の風となっていた。 男は急がねばならなかった。 一晩のうちに、男は丘を登り森を駆け抜け、山を三つも超えた。 そして、東の空の色が変わる頃になってようやく立ち止まった。 休憩のためではない。 行く手を阻む者の気配に気が付いたからだった。 薄い闇に潜んでいた何人かが、姿を現した。 「君たちは何の用だ。私は急いでいるのだが」 「あんたを通すわけにはいかねえな。そう命令されてるんだ」 「私をか。人違いではないのか?」 「誰だっていい。やっちまえ!」 賊が一斉に飛びかかった。 しかし、男はかわしながらサーベルを抜くと、飛び込むようにして斬りかかっていった。 そして、一瞬の間隙を縫ってそのまま通り抜けてしまった。 「悪いが、後日改めて勝負しよう。私には時間がないのでね」 宮殿では仮面舞踏会が行われた。真新しい豪奢な宮殿で、演奏家がワルツを奏でていた。 貴族に紛れて、素性の怪しそうな輩が何人もいた。 踊りを見れば教養のほどはすぐに明らかになってしまう。 だが、ここでは身分など誰も気に留めない。 仮面をした主催者に、やはり仮面をした執事が近づいて耳打ちをした。 「かの者はまだ到着せぬようでございます」 「そうか。だが、彼は必ず来る。そう思って準備しておきたまえ」 「承知しております」 この仮面の主催者こそ、ドゥゲラード卿だった。 ひげ面で強面だが、かぼちゃパンツだった。 不意に宮殿のランプが消えた。 場内は騒然となった。しかし、すぐにドゥゲラード卿が制した。 「すぐに、明かりをつけたまえ」 宮殿は少し明るさを取り戻した。 ドゥゲラード卿は思わずほほえんだ。そして、高らかに叫んでみせた。 「紳士淑女のみなさん、今夜の主賓のお出ましです。ドン・チョパニコフ、君だろう!」 声の響きが消えないうちに、男が現れた。 男は黒いマントと、緋色の帽子を脱ぎ捨てた。顔にはちゃんと仮面がしてあった。 「いかにも。貴君に依頼された品を持ってきた」 「その前に…」 ドゥゲラード卿は演出がかった手振りで合図しながら言った。 「ついでに余興に参加してもらおう」 会場の一角が派手にライトアップされると、そこにはバラの花をかじった大柄の男がいた。 花をかじってるせいで、トゲで唇を少し切っていた。 「この男と勝負してみないか」 男は大きな剣を抜いた。刃の光具合で、真剣だということが見てとれた。 「誰だ、こいつは」 「実はスターリンさんです」 「そうだ。クリスタルの力でナイトにジョブチェンジしたのだ」 チョパニは、スターリンという名前に特に覚えはなかったが、弱そうだと思った。 「では、こちらから参る!」 チョパニは、勢いよく飛び込んだ。 スターリンは素早く構えて、相手の動きに合わせて剣を振った。 一瞬のことだった。 スターリンはその場に倒れた。チョパニの動きはさらに速かったのだ。 「スターリンさーん!」 レイチェルは駆け寄ると、しゃがみ込んで体を揺さぶった。 「ウワーン」 そして、演出上の号泣をしてみせた。 「余興の報酬は高いぞ」 チョパニはサーベルを収めた。 そして、空飛ぶ子馬の像を差し出した。 「よかろう。申し分ない仕事ぶりだった。金塊を倉庫から好きなだけ持って行くがいい」 「ふん。遠慮はしないぞ」 そして、チョパニの元に仮面をした貴婦人が現れた。 「チョパニ。あなたを信じておりました」 それは、先に潜入していたミレディだった。 二人は、再会の喜びを隠さなかった。 固く抱擁すると、無言で言葉を交わしたのだった。 ドゥゲラード卿は、宮廷音楽家に祝いの曲を演奏させるように促した。 その雰囲気に感化されて、祝福の雰囲気が高まった。 つられて、不死身のスターリンも目を覚ました。 「スターリンさん!よかった」 こっちの二人も、演出上緩い抱擁をしてみせた。 その後、チョパニは人里離れた静かに街に新居を買って、ミレディと二人で暮らした。 つつましい暮らしではあったが、二人は幸せなようだった。 退屈しない友人にも恵まれ、至福の日々を過ごしたのだった。 了 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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