秀808の平凡日誌

第13話 迷い(後編)

第13話 迷い(後編)

 レーシェルは、砲身を古都の兵士が宿としている小屋に向けた。

 あれに撃ち込めば、また快感が得られると考えたからだ。

 だが引き金を引こうと指をかけた瞬間。

 突然、別の方向から放たれた矢が『デヴァイス・ブレイス』の砲身に突き刺さるように飛来した。

 ミスリル合金でつくられた砲身には傷1つつかなかったが、その衝撃で砲身の方向はずれ、放たれた砲弾は小屋の近くの木々を根こそぎ粉砕するにとどまった。

「あぁん?」

 レーシェルが矢の飛んできた方向を見ると、キャロルがはなれた場所からレーシェルに手招きをしているように見えた。

 そしてまた矢を放ち、キャロルは古都から遠ざかった。

 放たれた矢をかわし、レーシェルはキャロルを追いかける。

 敵を粉砕した時の快感を思い浮かべながら。



 古都の噴水前では、ミーシャとレヴァルが戦っていた。

 ミーシャの『ドラゴンクロー』による激しい一撃を、レヴァルはしなやかな動きで手に持った『フランシスカ』で受け流す。

 その守り重視の戦い方に業を煮やしたのか、ミーシャが言い放つ。

「そんな戦い方で、僕には勝てないよ!」

 そして、更に『ドラゴンクロー』による一撃を重くしていく。

 一撃を寸前でかわしつづけながら、レヴァルも言う。

「そうか、悪かったな・・・そろそろ攻撃させてもらおう」

 そして後ろに一気に下がると、『ダブルスローイング』を放った。

「小賢しいっ!!」

 だが、全て振るった腕の『ドラゴンクロー』に払い落とされたが、その隙をつき、レヴァルは一気に懐までもぐりこんだ。

 手に『フランシスカ』はもっていない。素手だ。

 素手ということに気づいたミーシャが、馬鹿にしたように言い放つ。

「ヒャハハハ!!素手で何ができ・・・」

 だが、言い終わる前に彼は、腹部からの激しい痛みを感じ、吹っ飛んだ。

 懐にもぐりこんだレヴァルがそのまま『三連回し蹴り』を叩き込んだのだ。

 口の中からにじみでた血を腕でぬぐいながら、ミーシャは気に食わないと言った様子で言い放つ。

「・・・お前ぇー!楽に死ねると思わないことだね!!」

 冷ややかにレヴァルも言い返す。

「・・・貴様もな、覚悟しろ」




 キャロルは、レーシェルに矢を撃ちながら、逃げ回っていた。

 あれから、かなり古都から引き離すことに成功した。

 そろそろいいだろう、と逃げるのをやめ『ランドマーカー』を放つ。

 レーシェルは、自分にせまってくる矢を見ながら、『デヴァイス・ブレイス』を構え、標準もつけずに引き金を引いた。

 放たれた砲弾は『ランドマーカー』の矢を吹き飛ばしながらキャロルに向かった。

 寸前のところで、それを避けるキャロル。

 後ろから爆発の衝撃と、轟音が鳴り響く。

 今度は、数本の矢を一気に抜きながら、レーシェルに迫る。

 そして隙だらけの胴体に『ビットグライダー』を撃ち込む。

 ・・・全弾命中。

 レーシェルの体に7本の氷の矢が突き刺さる。

 レーシェルの体は、矢の刺さった部分は凍り、慣性のまま立っている。

 その目の前で、キャロルはホッと息をついたが、それは間違いだった。

 レーシェルの口元がニヤリと笑ったあと『デヴァイス・ブレイス』を持っていない腕で、キャロルの首を締め上げる。

「うぐぅ・・・!」

 その力に、キャロルはうめく。

「・・・ハハハ・・・なんかやったか?」

 レーシェルが獲物をいたぶるような目つきで言う。

「・・・弓矢ごときで、俺は死なないぜ?」

 さらに締める力を強くするレーシェル。

 そして締め上げたまま、キャロルの頭に『デヴァイス・ブレイス』の砲身を突きつける。

「・・・あばよ・・・!」

 だが、その1射が放たれることはなかった。

 聞こえてくるのは、レーシェルの苦しそうなうめき声。

 キャロルを放し、その手で頭を激しく抑えた。

「うぅ・・・ああ・・・く・・・そ・・・がぁ・・・」

 そして先ほどとは違う非常に鈍い動きで、自分の乗ってきた輸送車にむけて帰り始めるレーシェル。

 キャロルは、咳をしながらもその後姿を見、呟いた。

「・・・?一体何が・・・?」




 古都で戦っていたラベルとミーシャにも、同じ症状が起こった。

 痛みに震えるラベルを、近くのレッドアイ警備兵が肩をかけ、引き返しはじめた。

 ラムサスが疑問を隠せない顔で呟く。

「・・・なんだ?・・・そうだ、ロレッタ達は!?」

 そして『ヘイスト』を自分にかけ、王の間前広場へと向かった。

 


 ロレッタとレクルの戦いは、ほぼ互角だった。

 ロレッタは、直実に一撃を放っていき、レクルも、受けた一撃をさけては返していった。

 そしてレクルの放った『タイフーンインパルス』がロレッタの足をかすめた。

「うっ・・・!」

 その隙をつき、レクルがとどめといわんばかりに『ブロードブレード』を倒れこんでいるロレッタに打ち込もうとしていた。

 思わず悲鳴をあげるロレッタ。

「キャァァァァァァーーーー!!」

 その声に何か気づいたのか、レクルは放った自分の一撃の軌道を強引にずらし、ロレッタすれすれの地面に叩き込んだ。

 土煙と、破片が飛び散る中、レクルはさきほどと違う声で、呟いた。

「・・・ロレッ・・・・・・タ・・・・・・?」

 兜のカバーの隙間から、こっちを見る目が見える。

 瞳の色は、まるで森のように純粋な緑色だった。

「あ・・・」

 ロレッタも何かに気づいたのか、その瞳を見つめ返す。

 ・・・とそこへ、ラムサスがかけこんできた。

「・・・!ロレッタ!こいつ、離れろ!」

 ラムサスから見れば、敵の戦士がロレッタを殺そうとしているに見えたに違いない、真っ先にレクルに向かって『フレイムストーム』をはなった。

 だが、感情のままに放った攻撃は、間違いだと気づいた.

 フレイムストームの射線上には、ロレッタも含まれている。

 これで敵がよければ、ロレッタはまず助からない。

 だが、レクルは避けるそぶりも見せず、『エグゼキューショナーズソード』を盾代わりに構えた。

 フレイムストームの衝撃と熱気が伝わってくる。

 『エグゼキューショナーズソード』は赤くなっていたが、抵抗魔法でもかかって

 いるのか、溶けることはなかった。

 収まって、レクルがロレッタを心配するかのように見ているのがわかる。

 だが、それはアシャーからみれば絶好の隙だった。

 一気に真横に迫ると、『ゾーンスマッシュ』をレクルのその兜側面に打ち込んだ。

 兜が半ば粉々にふきとび、その衝撃でレクルも吹っ飛び、壁に打ち付けられる。

「大丈夫ですか!?ロレッタさん!」

 ラムサスもかけよって『アースヒール』をロレッタにかける。

 レクルはしばらくピクリとも動かなかったが、剣を持っていない手で半壊した兜を脱ぎ捨て、顔を抑えながら立ち上がった。

 その素顔に、ロレッタ等3人は驚きを隠せなかった。

「な・・・」

「まさか・・・」

 その顔は、まさに今行方不明のヴァンと同じだった。

 左の顔半分からおびただしい量の出血をして、左手で顔を抑えているが、さきほどの緑色の瞳、そして海のような深蒼の髪は、まさしく彼だった。

 レクルは痛みをこらえながら、言い放つ。

「・・・く、今日はここで退いてやる・・・あれも、時間切れだしな」

 あれ、の意味をラムサスは理解していた。あの鎌使いの少年だ。

「・・・だが、次は無いと思え!」

 そう言い終わると、腰のポーチから『帰還の魔石』をとりだし、魔石が輝いたと思うと、レクルの姿は消えていた。

 ・・・レッドアイの兵士達は、1人のこらず撤退していた・・・


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