秀808の平凡日誌

第弐拾麓話 記憶

 白くぼやける視界に、焚き火の近くで寄り添う男女が見える。

 男の方は『スレイヤーソード』、女の方は『パルチザン』をそれぞれ身の近くに置いていることから、同じ冒険者だろうとランディエフは悟った。

 ここはどこだ?なぜ自分はこんなところにいる?

 しばしランディエフが考えていると、前の男女がなにやら話し合っている。

 ランディエフに全く気付かないのか、あたりを警戒している様子も無い。

 会話の内容は聞き取れなかったが、またあの『クロウ』という単語だけがやけに耳に妬き付いた。

 まるで自分を呼んでいるかのように聞こえるその言葉。

 クロウ?それは一体誰の事だ?

 俺はランディエフ・リビーラ。それ以外の誰でも無い。

 ちゃんと、ランディエフとして生きてきた自分の戦歴だってちゃんとあるのだから…。

 


「……うぅ……」

 名も無い崩れた塔11Fの一室で、ランディエフは目を覚ました。

「…ここは、どこだ?」

 周りを見渡すと、普段はここに生息しているモンスター『ファントム』や『ワイト』がいるような気配は全く無い。

「…気ガツイタカネ?」

 心に響くような声がドアからしたと思うと、一人の男が姿を現した。

 足首にまで届く真っ白な長髪。白い鎧に紅いラインが走ったような鎧を纏ったその男は、普通の人間なら助けがきたと思うだろう。

 だがその男の手は、バヘル台地で戦った紅龍のような鋭い爪と、甲には雪のように白い鱗を纏っていた。

 間違いなく紅龍、そして黒龍の仲間であるということだけは断定できた。

 ランディエフのその警戒的な視線に気付いたのか、その男が超えをかけた。

「ソウ警戒スルナ。オ前ノ命ヲ獲ルツモリナド全ク無イ、少シオ前ノ過去ヲ調ベサセテモラッタダケダ」

「俺の、心の中…?」

 だとすればさっきの夢は過去に起きたことなのだろうか?

「…マダワカラナイカネ?自分ガ誰カトイウコトヲ?」

 疑問に頭を巡らせるランディエフに、祖龍は更に言葉を投げかける。

「…相当強イ暗示ヲカケラレテイタヨウダナ。ソノ様子デハ…」

 ランディエフは黙って祖龍の言葉に耳を傾けている。だが、言葉を聞いている間に、どんどんと心が締め付けられるかのように痛くなっていく。

「知リタイカネ?自分ノ本当ノ名前ヲ、過去ヲ…」

「…やめろ!!」

 ランディエフは咄嗟に『ドラケネムファンガー』を『ブーメランシールド』で祖龍に投げつけた。

 いきなりのことに祖龍は驚き、放たれた『ドラケネムファンガー』をその腕で弾き飛ばした。

 だが跳ね返った盾は、10Fへと繋がれているポータルの中に吸い込まれた。おそらく放った直後に、素早く10Fへ逃げたのだろう。

「ククク…ソウクルカ…」

 逃げたければ逃げるがいい。すでに過去の記憶を封印する呪縛の糸は断ち切った。

「時ガ経テバイズレ思イ出ス…前世ノ記憶……『クロウ・レグール』トシテ生キテイタ時ノ記憶ヲナ…」

 





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