秀808の平凡日誌

最終話 終局

第四拾四話 終曲


「急に呼び出して…一体なんでしょうか?ルーツ様」

「ゼグラムヨ……クロードニセルフォルス…彼等ハドウシタ?」

 名も無い崩れた塔頂上部にて紅龍を呼び出した祖龍は、怒りの表情で紅龍に問い詰める。

 対する紅龍は、何も動じることの無い態度で応じる。

「あぁ、彼等なら…先程、反応が消失したことから…死んだかと思われます」

「!…貴様……」

 祖龍の首から喉元にそって、急激に怒りで真っ赤に模様づいていくのがはっきり見える。

 セルフォルスとクロードは、紅龍にいいように使われて散っていったのだ。

 ―――ふと祖龍の頭に、ある可能性が浮上する。

「モシヤ貴様…ネビストスウォームモ…?」

「…………」

 紅龍は視線を逸らさず、まるでその通りだというような表情でこちらを見据える。

 その表情の意味を悟った祖龍が、驚愕と哀れみの表情で問う。

「…ナゼダ?アレダケ貴様ニ順々ダッタクロードヤ、セルフォルスマデナゼ、殺ス必要ガアル?」

「…邪魔だったのですよ、彼等も…私の目的の達成に…」

「計画…ダト…?」

 その言葉に危惧感を感じた矢先、紅龍と祖龍の周囲を巨大な4つの影が覆いこむ。

 それは残った最後の『GENOCIDE』だった。

 四機は機体上部のエネルギー砲を祖龍に標準を定めている。

「…ルーツ、貴様を殺して、私がこの世界の支配者となる…」

「…………………」

 祖龍は何も話さない。ただ紅龍に向け、哀れむ視線を送るだけだ。

 そして紅龍は四機の『GENOCIDE』に命令する。

「やれ」

 視界を埋め尽くすほどの光が放たれ、8本の太い熱線が祖龍を包み込む。

 だが、祖龍を包み込んだ光が突如拡散し、四散する。

 その直後雷雲が上空に立ちこみ始め、周囲を雷の音が鳴り響く。

「…バカな…」

 8本の熱線が直撃した場所には、バジバジと電気を纏わりつかせた祖龍が立っていた。

『…どうした?ゼグラム?我を殺すのではなかったのか?』

 祖龍に今までには無い強大な力が備わったのを感じる。

 ―――これは、まずい。

 とんだ誤算だった。『GENOCIDE』の兵装はその殆どが光の元素を元にしている。

 仕留めるつもりが、逆に祖龍の力を増大させてしまったらしい。

 その時、上空から紅色の雷が周囲の『GENOCIDE』に降り注ぎ、エレメンタル・リフレクターを貫通して巨大な機体を貫いた。

 雷をくらった『GENOCIDE』は次々と炎を噴き上げて炎上し、爆発していった。

「…何っ!?」

『もうネタは尽きたのか?ゼグラム』

 そう言った祖龍の体は、じょじょに人間の姿から龍の姿へと変わっていく。

 龍の状態に戻られたら今のままでは勝ち目は無い。それならば―――。

「…ふざけるな、あんなものなくとも、貴様など倒してくれる」

 紅龍も、その姿を龍へと変化させていく。

 ひとときの時間が立った時、そこには紅き巨龍と白き巨龍が対峙していた。

『では…いくぞ』

 そして2匹は上空へ飛び立ち、本能のままに戦いを始めた。






 翼を羽ばたかせて搭を飛び上がっていくランディエフの視界に、交錯しながら飛び交う2匹の龍の姿が見えた。

 片方は黒龍のように真っ黒な巨龍。そしてもう片方は―――。

「…あれは…」

 純粋すぎるほど真っ白な巨龍。あれは以前、バヘル台地にて出会った祖龍であった。

 ―――奴等、仲間割れを?

 その2匹をよく見ようと、ランディエフは更に上昇する…。

 と、その時、上空で雷音が鳴り響いたと思うと、紅い雷が接近するランディエフ目掛けて降り注いだ。

「っ!?」

 ランディエフは咄嗟の所で回避したが、代わりに雷の洗礼をうけた搭の外壁部が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 飛んできた瓦礫を盾で防ぎながら、ランディエフは上空を飛んでいた2匹がいなくなっていることに気づく。

 ―――奴等、一体どこに? そう思った矢先、搭の反対側から紅龍が姿を現した。

「…!貴様は…!」

 いきなり現れたランディエフに紅龍は驚愕した表情で見る。

 黒き巨龍が紅龍と理解した瞬間、ランディエフの心に復讐の炎が湧き上がった。

「紅龍…お前を、殺す…!」

 そしてそのまま長い首に、黒龍刀の一太刀を浴びせ掛け、切り裂いた首から血が噴き出す。

「…人間風情がこの私に、またしても傷を!」

 傷をつけられ逆上した紅龍が、その鋭い爪でランディエフを引き裂こうとする。

 間一髪でランディエフは防いだが、その衝撃で大きく後退し、搭の外壁部に叩きつけられる。

「ぐ…っ!」

 飛びそうになる意識を無理矢理に引き戻し、前を見ると紅龍がブレスを吐く動作へと移っていた。

「…吹き飛べ!愚かなる人間よ!」

 そのブレスが吐かれようとしたとき――――ランディエフとの間に祖龍が割り込み、そのブレスを代わりに受けた。

「何……?」

 その一撃を防いだ祖龍は、そのまま紅龍に向かっていく。

 身代わりとなって攻撃を受けた祖龍に向かってランディエフは叫ぶ。

「…何のつもりだ?」

『…立場は違えど、今の敵は同じ……協力しないことに損は無い』

「……成る程」

 ランディエフは呟いて再び飛び立つと、目にもとまらぬ速さで紅龍に迫った。

 これまで多少押されていた祖龍が、ランディエフが介入したことによって押し返していた。

 小回りの効くランディエフが、確実に紅龍へ一撃を加えていき、避けきれない攻撃は祖龍が防ぐ。

 ランディエフの剣が紅龍の腹部を切り裂き、紅龍が悲鳴の咆哮をあげる。

 祖龍に味方するランディエフに向かって、紅龍は叫ぶ。

「…なぜだ!なぜ邪魔をする!クロウ・レグール!?」

「…俺には、貴様を殺す理由がある」

 ランディエフの剣が紅龍の尻尾を捕らえた。切断された尾が孤を描きながら落ちていく。

 負った傷口に向かって、祖龍が追撃の雷撃を浴びせかける。

「だから、俺はお前を殺さなければならない。どんな手段を使っても」

「…お前がこの私を?…笑わせる!一度は死んだ身…あってはならない存在である貴様…そして人間などに!」

 紅龍が咆哮し、上空から雲を突き抜けて『メテオシャワー』が降り注ぐ。だが、全て当たる寸前で祖龍の雷によって粉砕され、火の粉をあたりに振りまいた。

「確かに、俺は今の世界ではいてはいけない存在…貴様が言う通り、あってはならない命だ」

 放たれる攻撃をかわしながら、ランディエフが紅龍に肉薄する。

「…だが、俺以外の人間は違う。この世界で生きていていい命だ。彼等がいるから、今の世界がある」

 ランディエフの剣が一閃し、紅龍の頭部の角の一本が叩き折られた。

「無駄な命なんて無い…命は皆意味をもって生まれるものだ…だが貴様は違う!」

 再び繰り出された斬撃は、紅龍の右目を眼帯ごと切り裂いた。

「封印された時代の世界と今を同じものだと勝手に決め付け…抵抗という抵抗すらしない大量の命を奪い去った貴様こそあってはいけない存在だ!」

『…!』

 確信を持って放ったランディエフの言葉に、祖龍もハッとする。

 祖龍も、この今の世界を封印される前と同じものと判断していたからだ。

「そんなふうに無駄に命を奪う貴様を…俺は許さない!」

 止めといわんばかりに、全力を込めてランディエフは紅龍の頭部に剣を突きさした。

「――――――ッ!?」

 紅龍は、断末魔の叫びすらあげずに力無く地上に落ちてゆく。

 不意に祖龍がランディエフに語りかける。

『………今をもって、我々はそちらに降伏しよう…無駄な犠牲は出したくは無い。』

「…………それがいい」

 …今、ひとつの大きな戦いは幕を閉じた。




【後書き】

 大変長くお待たせいたしました。

 第3作『祖なる者』これにて完結でございます。

 第1、第2作目を越す長編となりましたが、楽しめていただけましたでしょうか?

 読む人からすれば、『終わり方が微妙』とか色々感じる方もいると思います。

 管理人の画力が凄まじく乏しいので、お許しください。

 …さて、これ以上は言い訳になるのでやめておきまして。

 第4作を書くのかな?とか思ってる方もいるでしょう。

 第4作はおそらく書きません。もしかしたら、赤石と関係無い品をひっそりと書くかもしれません。

 それでは、ここまで自分の小説を読んでくれた読者の皆様、本当に有り難う御座いました。

 


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