司馬遼太郎の言葉
平和とは誠に儚い概念である。単に戦争の対語にすぎず、 戦争のない状態を指すだけのことで、天国や浄土のような高度な次元ではない。あくまでも 人間に属する。平和を維持するためには、人脂のべとつくような手練手管(巧妙で狡猾な策略)が要る。平和維持にはしばしば犯罪まがいのおどしや、商人が利を追うような懸命の奔走も要る。さらには複雑な方法や計算を積み重ねるために、奸悪の評判までとりかねないものである。例として、徳川家康の豊臣家処分を思えばいい。家康は三百年の太平をひらいた。が、家康は 信長や秀吉にくらべて人気が薄い。平和とは、 そういうものである。