221417 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

レインボーブリッジ

レインボーブリッジ

『公認「地震予知」を疑う』

同書は地震学者の島村英紀氏(北大教授)によって書かれ、柏書房より今年出版された。
内容は、東海地震を直前に予知できることを大前提としている「大規模地震対策特別措置法」ができた経緯、そしてその大前提自体がいかに不確実・不明瞭なものであるかを順を追って説明している。
現役地震学者という、業界を知り尽くした人の言葉は説得力がある。
役人や学者の縄張り争い、予算奪い合いの結果、ここまでゆがんだものになったとは・・・。
そして、誰もその責任を取らぬまま現在に至っていることは将来が思いやられる。
日本の地震防災はどのような道をたどるのだろうか・・・。

この本の内容は、断片的に得ていた私の知識とほとんど一致し、それを補うものになっていた。
国が出す、日本各地の地震についての長期予想の変遷が具体的に書かれていて面白い。
三陸沖に関しては99%で、他のところでは0.2~20%といった具合。しかもその後の地震が起ったパターンを見るとほとんど予想値は意味がない事も分かった。

ところで、この本の主要ではないところで、一カ所意見の相違が、そして一カ所新知見があった。

新知見は、最近その脅威がささやかれ始めた地震波の「表面波」が及ぼす被害問題である。
平成15年に起った十勝沖地震で、震源地から200kmも離れた石油タンクで火災が起った。
これは当時誰も想定していない出来事であった。
現在では、よく知られたP波やS波とは別の、長周期表面波によるものとされている。
この表面波は減衰しにくく、場合によっては地表層によって増幅されることもある。
ちなみに、今年起った南海沖地震で東京が揺れたのは、この長周期表面波の影響といわれている。
また、この影響を受けるのは固有周期が長くなる200m級の巨大な建築物といわれている。
つまり、神奈川県沖でマグニチュード8クラスの大地震が起った場合、臨海副都心エリアの高層建築物は危ない、ということになる。
また、著者によれば、ほとんど表面波の影響についてのシミュレーションは行われていないそうだ。
私が調べたところでは、苫小牧の石油タンク火災以降は土木学会等でも検討され始めたり、シミュレーションも行われるようになってきているようだ。
ただ、行政レベルの地震調査研究会(旧地震予知研究会)でこのことが検討され始めている、という話は聞いていない。

意見の相違は、些細なことであるが、次の通り。
著者は文部省は科学者の意見を取りあげて研究を行うところ、科学技術省は国策がまずありきでトップダウンに研究が行われているところ、であり、水と油であること、また、科学技術省のありかたはいかがなものか?ということであった。
ただ、私からすれば、国策で科学技術を研究する部署も必要に決っている訳で、それを悪と決めつけるのはおかしいと思った。
また水と油であろうと、一緒になったからには合理的に効率化されるべきものであり、現場の人間のわがままで上手く機能しないのは非常に問題である。

同書のサイト
http://shimpc.sci.hokudai.ac.jp/shima/choshoitiran.html

さらに同書には出ていないが最近知った問題として「液状化」がある。
一般に埋め立て地は液状化が危ない、と思いこんでいる人も多いが、阪神大震災時にポートアイランドにある高層ホテルが全く被害がなかったことからも分かるように、適切な対策をすると、まず大丈夫である、というのが現在の常識である。
ただ、最近、場合によってはそうとも限らないという発表が学会に報告され始めている。
これまでは、基盤としてかなり固い第三期層においては液状化が起らないとされていたのに、
そこでも液状化が起ることがあるとのことだ。
まだ、研究が始まったばかりで詳しいことは分からないが、これだと、別に埋め立て地でなくてもどこでも液状化は起る、ということになる。



© Rakuten Group, Inc.
X