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「源義経黄金伝説」 飛鳥京香・山田企画事務所           (山田企画事務所)

義経黄金伝説■第17回

■義経黄金伝説■第17回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/

第3章 西行の思い出  一一三八年(長暦2年)から
■■5一一七八年(治承二年) 京都・鞍馬

 京都・鞍馬堂宇で鬼一法眼が、西行を待っていた。
「おお、ここじゃ、西行殿」
「おお鬼一法眼殿、息災であられるか」
「西行殿も、歌名ますます上がられる。うれしい限りじゃ。それにあの遮那
王、教えがいがある。よい弟子を送り込んでくれたものじゃ」
「牛若、いや遮那王はそれほどまでに」
「そうじゃ、仏法など、とんと興味がないわ。俺が教える武法のみ。さすがは
源氏の頭領、源義朝殿が和子じゃ」
「いや、やはり清盛殿の願いどおりにはならぬか」
「それでは、やはり奥州藤原秀衡殿の手にお渡しするか」
「そうじゃのう。がその前に、武術の腕どれくらいのできあがりかを確かめて
みるかのう」
「よい考えじゃ。さすがは武名高い北面の武士であられた西行殿じゃ。して、
相手は」
「近ごろ京で評判の、あの法師はどうじゃ」
西行は手を打って、「弁慶か、よかろう」

五条を中心とした平の清盛六波羅政権は、170の大きな屋策をほこり、5200余の
家々をしたがえている。6条河原と京の葬送地鳥辺野の間を埋め尽くしている。
この北域には、山門武装の資源つまり弓矢を生産する弓矢町を抱合している。
弓矢町はつまり武器工廠である。また、300名からなる赤かむろなるスパイキッ
ズ養育所も含んでいる。
この年、太郎焼亡なる大火事がおこっていて、西の京はまだ焼け跡が
広がっている。京の人間は乱世の始まりを感じ始めていた。

その京都・五条にある松原橋たもとに のっそりと、その大男の僧兵は立ち
塞がっている。大男にしては、筋肉質で敏捷な動きをしている。
「お主が牛若殿か」
 月の光が鴨川の川面に映えている。牛若が押し入ろうとしていた平家の公達
の家屋敷あたりからは、光とさざめきが漏れている。が、庶民が住んでいる辺り
はもうすでに闇の中に沈んでいる。東山の辺りも、夜空に飲み込まれていて、遠
く比叡の山からのわずかな光が、星のひとつのように霞んでいた。
「私が牛若とすれば、どうする」
 ゆっくりと、牛若は答える。
「そうなればー」 急に大きな弁慶が、牛若の顔を隠していた布を捲る。
「ふふっ、なかなかよい顔をしている。稚児にするにちょうどよい…」
 少しばかり、沈黙が二人の間に流れ、視線が素早く交わった。
「が、しかし、命をもらわねばならぬ」
 言うが早いか、弁慶は、背中から引き抜いた薙刀を一閃していた。普通の人
間ならば、真っ二つである。が、弁慶の薙刀には、手ごたえがない。目の前にあ
るはずの、血まみれの体も残ってはいない。
「はて、面妖な」「ふふっ、ここじゃ、ここじゃ」
 弁慶の後ろから声が聞こえて来る。すばやく、背後を見返すと、橋げたのう
えにふわりと牛若が乗っている。まるで、重さがない鳥のように、それは乗って
いるのだ。
「貴様は、飛ぶ鳥か」「ふふう、そうかも知れぬぞ」不敵な笑みが、牛若の顔から漏れている。
「鞍馬山の鳥かもな」
 その声音は、完全に人を食っている。牛若は、自分の力を他人に見せるの
が、うれしく、楽しいのだ。
「お前は、平氏のまわし者か」毅然と、牛若が言う。
「何を言う。平氏など、物の数ではない」
そう答えるが早いか、弁慶は橋を蹴って、欄干のうえに薙刀を数振りする。その刀の動きは、常人の目には捕らえ
られぬ。とはいえ、明かりなどない夜中である。誰もそれには気付かぬ。た
だ、野犬が、恐るべき力の争いに驚き、鳴き声をあげている。
「どうした、弁慶。この私を捕まえることができぬか」
にやりと笑う牛若の顔に、弁慶は、憎しみを倍加させる。

 西行と鬼一法眼は橋の影からのぞいている。
「どうじゃ、遮那王様の動き」
「よかろう。あのように成長しておられるならば、秀衡殿の手元にお送りして
も、十分役にたつじゃゃろう」。
「秀衡殿もお喜びであろう」二人笑い会う。
「西行殿、後はお任せいたす」

「何をこしゃくな」が、弁慶の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。
「弁慶、止めるのじゃ」突然異形の老人が、弁慶の前に姿を現し、争いを止めようとした。
強い、弁慶はこの男を見て毛穴がひゅつと閉じるの感じた。
「なぜじゃ、鬼一殿。この若造を殺せというたは、お主ではないのか」
弁慶はこの老人にくってかかる。
「もうよいのじゃ。お主もこの若者の力がわかったであろう」
「そうであればこそ、なおさら許せぬ。俺の力を見せねば、気が済まぬ」
「そうじゃ、鬼一。止めてくださるな。この大男に負けたと言わせるまでは、
私も気が済まぬ」欄干の上にいる牛若が、答える。
「こやつ、いわしておけば」背中より大槌を引き抜いて、弁慶は打ってかかる。ズーンと大きな
音が響き、バラバラと橋げたが川中に崩れ落ちる。
「おお、何をする。橋を壊すつもりか」
「橋が壊れるが早いか、お主が死ぬのが早いか」
 騒ぎを聞き付けた検非違使たちが六波羅の方から駆けつけてくる。
「いかぬ」弁慶はそれにきを取られる。「ぐぅ」
思わず弁慶が叫び、気を失う。牛若の高下駄が蹴りを弁慶の天頂に加えてい
た。「やれやれ」
鬼一は橋のしたに用意してあった小舟に弁慶の体を隠し、鴨川を下った。
「牛若殿、もう少しお手柔らかにのう」
「戦いの舞台を移そう」「こわっぱ、どこに逃げる。怖じけづいたか」
息を吹き返し、苦しい息の下から弁慶が叫ぶ。
「何を言う。お主がそう暴れるから、そら平家の郎党が現れたではないか」
平家の屋敷に点々と灯が灯り、その灯が五条の橋を目がけてくる。かなりの人
数のようだ。牛若が跳躍する。
「おのれ、何処へ」弁慶は上を眺め、叫んだ。
「頭の悪い坊主。この京都で晴れ舞台と言えばわかろうが…」
声は天から響いた。
「くっ、あそこか。わ、わかったぞ。約束を違えるなよ。半刻後じゃ、よい
な」遠方で見ていた、西行と鬼一法眼はお互いに顔を見合わせていた。
「いかん、あやつら、まさか…」「そうじゃ、あの寺じゃ」

二人は疾風となり、東山を目指している。四人が目指すは、坂上田村麻呂公の寺、清水寺である。牛若は、弁慶の前で、
清水寺の舞台で、ひらりひらりと舞っている。
「ふっ、弁慶、どうじゃ。おまえもこの欄干の上で、京都の町を見てゆかぬ
か。よう見えるぞ。特に平家屋敷がな。おっと、お主の体では、ちと無理かのう」
「くそっ、口のへらぬこわっぱじゃ。そのようなこと、俺にもできるわ」
「弁慶、止めておけ。お主の重さ、この清水寺の舞台を沈ませるぞ」

「牛若殿、もう止めておきなされ。このお方もお疲れじゃ。お主の武勇、充分
私も見せてもろうた」いつも間にかその場所に源空も現れている。
「争い事は、武士たちにお任せなされ」源空の頭の中には、子供のころの自らの家の惨劇が埋まっている。
 源空、後の世にいう法然は、この後、京都市中で僧坊を営み、後白河法皇、九条兼実らの知遇を得ることになる。
 後に鎌倉仏教と呼ばれることになる、新しい日本仏教は、この源平争乱という武者革命と時を同じくしつつ起こった「宗教改革」だったのである。この時の源空には、まだその片鱗もない。
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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