Republic of MJ

2008/11/27(木)23:43

アメリカ発の金融危機(3)-迫る恐慌の性格・対応策

 米欧首脳は10月18日,世界的金融危機に対応する緊急サミット(首脳会議)の開催で合意しました。金融危機は,実体経済の不振と絡み合い,世界同時不況の懸念が広がっています。  IMF(国際通貨基金)の最新の世界経済見通しでは,世界経済は大恐慌以来の金融危機に直面し,「実体経済も大きな下降局面に入りつつある」。  来年の実質成長率は,アメリカが0.1%,ユーロ圏が0.2%,日本が0.5%で,軒並みゼロ成長と予測しています。しかし,IMFの見通しは,まだまだ甘い。とりわけアメリカ経済の実体は深刻です。 ◆ 産業循環上も本格的な「景気後退」局面に  アメリカ経済は,1990年代の10年にわたる景気上昇の後,2000年にITバブルが崩壊して景気後退に入りました。ところが,それは同時テロ後の超金融緩和・金持ち減税ですぐに中断し,そのままアフガン・イラク戦争による“軍拡景気”へと続きました。  しかし昨年夏に金融危機が勃発する以前から,本格的な景気後退が近いことを示す兆候が広がってきました。  景気を支える消費は,家計赤字の膨張で伸び悩み,金融危機の発端となった住宅価格の下落そのものが,実体経済の矛盾を信用膨張(各種ローンの急増)で覆い隠してきたことの限界の現れでした。  住宅産業とともにアメリカ経済を支えてきた自動車産業も,売り上げが落ち込み,GMはじめビッグスリーの経営は破たん寸前です。  アメリカ経済は,新自由主義的資本蓄積のもとでの,初めての本格的な景気後退に直面しています。  新自由主義的資本蓄積の特徴は,一方には巨額な富が多国籍企業・大金持ちに集中するのにたいし,他方には膨大なワーキングプアと貧困が累積することです。  貧困層の増大は,家計消費を押し下げ,ひとたび不況になると大型で長期化する恐れがあります。  そこへ,深刻な金融危機の影響が反作用してきます。株式など金融資産価格の暴落で,富裕層の消費支出の大幅減退も必至です。  アメリカ経済の矛盾の根源を,アメリカ国民の「過剰消費」にみる考えもあります。  「過剰消費が危機を大きくするふいごの役を果たした」「アメリカの『過剰消費』経済がどう変わるかも,今後の行方を決める重要な要素だ」(行天豊雄・元大蔵省財務官)(注1)  しかし,アメリカは「貧困大国」でもあり,衣食住医にもこと欠く多数の人びとがいます。  またアメリカの「過剰消費」は,日本,中国などの輸出が支えてきました。海外での「過少消費」(=「過剰生産」)抜きに,アメリカの「過剰消費」だけを論ずることはできません。  アメリカだけでなく,日本や中国,その他の新興国もふくめグローバルな規模で展開されてきた資本蓄積の矛盾(グローバルな「生産と消費の矛盾」)が,まずアメリカで噴き出しつつあるといえるでしょう。  その意味で,アメリカの景気後退は,世界同時不況へ直結しています。  今回のアメリカの景気後退は,金融危機が先行してはじまったことが特徴です。  マルクスは,貨幣恐慌(今でいう金融恐慌)には2つのタイプがあると述べています。  ひとつは,貨幣恐慌が「特殊な種類の恐慌」として独自に起こり,実体経済に反作用する場合,もうひとつは,「全般的生産・商業恐慌の特殊的局面」として起こる場合です。(注2)  今回の金融危機は,アメリカ型「金融モデル」の破たんによる独自の貨幣恐慌(マルクスのいう前者のタイプ)としての性格をもっています。同時に,全般的恐慌の一環としての貨幣恐慌(後者のタイプ)の性格も重なっています。  金融危機が実体経済に反作用するだけでなく,実体経済の矛盾が金融危機を長引かせ,悪循環が続く可能性があります。 ◆ アメリカ経済の再生のために,3つの要素  差し迫る恐慌に,どう対応するか。  1930年代の「ニューディール」より,さらに革新的な「21世紀型ニューディール」とでもいうべき政策体系が求められます。アメリカ経済の再生のためには,次の3つの要素を盛り込むことが必要でしょう。 第1. 国民生活密着型の緊急対策 …恐慌の犠牲を勤労者,中小業者にしわ寄せしない需要・供給の両面からの対策。とくに低所得者・失業者・自営業者を救済する政策。 第2. アメリカ型「金融モデル」の改革 …金融に対する民主的な規制の再確立。金融の投機化の規制・透明化。金融制度の民主化。戦争の中止による財政再建と経常収支赤字の計画的縮小。新興国を含むルールある通貨・金融秩序を構築するための国際協調。 第3. 新自由主義的資本蓄積の改革 …ワーキングプアを解消する労働改革(技術革新を労働条件改善に活用)。物づくりを重視,市場まかせ・金融優先でない産業政策。大企業・富裕者への公正な負担で医療・福祉制度の確立。環境重視の「成長モデル」の構築。  こうした経済政策は,アメリカだけでなく,各国で共通に求められているものです。 (注1)「朝日」2008年10月18日 (注2)『資本論』,新日本新書(1),234ページ

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