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ユートピアソシアリスムのゆくえ

大石清貴 × 米村こなん

米村「あなたは最近ユートピアソシアリスムの行方を考えるために、ムー大陸の問題にこだわっておられるとか。研究課題について概説願います。」

大石「先日、広瀬謙次郎の『ムー大陸の大浮上』を古本屋で購入したんだよ。該書で広瀬はムー大陸を"やまと大陸"と呼び、日本万歳!を叫ぶ新手の国粋主義なんだが、その詳細をみると、トンでも理論満載で、例えば神に限りなく近い人種がムー大陸にいて、その末裔が日本人なんだとさ。もう頁を手繰るのが楽しくて楽しくて。」

米村「ベレオ・ブラヴァツキーの議論ですね。ブラヴァツキーの神人論をみてると、なんだか北一輝の類神人を思い出しますが、それはともかく、私は英米のピューリタンに根強い千年王国論に注目しています。キリストの再臨とキリスト者による王道楽土を展望するユートピア思想ですよね。これなどは戦前の満州国に仮託された国家社会主義の理想郷を彷彿とさせます。ユートピア思想として両者は癒着しやすいのに、戦前右翼思想と千年王国論を引き寄せた議論がないのは不思議です。」

大石「君の主張からは外れるが、ナチス・ドイツは純血アーリア人からなるコミューン(共産主義社会)を夢想したよね。いわば"ドイツ版千年王国"の建設を夢みたわけだ。しかし、日本の戦前右翼が満州に千年王国建設を目論んだという話は寡聞にして聞かないな。確かに戦前右翼の一部、北一輝は天皇機関説論者の国家社会主義者だったから、共産主義の理想郷である"みんな働き、みんなで分かち合う"という社会モデルを志向していたろうし、その点ではキリストの千年王国と国家社会主義の社会モデルは似てる。清沢洌(きよし)も「国防の本義と其の強化の提言」に熱狂した軍人池田純友(すみとも)を《右翼=左翼主義的公式論》と規定している。」

米村「北一輝、大川周明、石原莞爾などの戦前右翼と左翼は国家統制経済の確立という点では差異はありません。右が天皇主義・国粋主義(純正日本主義)、左がインターナショナルという対比は可能ですが、スターリニズムにみられる一国社会主義を例に引くなら、集産主義を志向した点では戦前右翼と左翼の同質性は見逃せません。それに加えて、呉智英やその弟子筋である浅羽通明は、共産主義と千年王国は同じような思想構造のユートピア志向だと指摘しています。」

大石「しかしね、君。重要な点を見落としてるぜ。戦前のキリスト者はこぞって右翼に転向した訳じゃないよ。例えば、柏木義円や賀川豊彦なんか右翼といえないでしょ?」

米村「確かにキリスト教社会主義者やキリスト者の右翼への転向はあまりありません。福音派教会のような例もありますが、具体的に千年王国と天皇主義との接合があったかはまだ調査中でわかりません。ですが、考えてみると、内村鑑三の"2つのJ"なんか国体とキリスト教の癒着に横領されやすい危険性を孕んでいるともいえますから、まったくキリスト者と右翼が無関係だとも思えません。この点は考証を深めたいと考えています。話を戻せば、階級闘争と最後の審判が類似しているのは明らかです。感覚的にはここに石原莞爾の「世界最終戦争論」を加えてもいい。むろん、石原の思想の背景には国柱会すなわち日蓮宗のドグマがあるから、一概には包括できませんが、善玉のプロレタリアートが悪のブルジョワジーと最終戦争(アルマゲドン)し、最後に善なるプロレタリアートが勝利するという歴史観はたしかにキリスト教の終末思想に類似します。戦前右翼にも統制派を中心として国家社会主者は多かったわけで、米国との世界最終戦争に打ち勝ち、東亜に共産主義社会のようなユートピア実現を夢みたのは頷けますね。」

大石「今後の君の研究課題は、革新官僚や統制派軍人にキリスト者がどれだけいたか、どんな思想をベースにしてたかを検証するべきだろうね。」

米村「それから、戦前日本は多民族国家の"帝国"であるがゆえに国民の同質性追求に向かい、単一民族幻想を抱いたわけですが、この点は小熊英二の『単一民族神話の起源』を手懸かりに論考をふかめて、あなたのムー大陸論が炙り出す日本民族幻想に繋げたいですね。」

大石「ところで、私は基礎テクストとして大林太良(たろう)の『銀河の夜、虹の架け橋』を推したい。ムー大陸への文学的想像力が宇宙にまで飛躍する名著だ。」

米村「光瀬龍の『百億の昼、千億の夜』やオーギュスト・ブランキの『天体による永遠』を思い出しますね。いずれも有限個から無限を推定するという天文学的阿片のような含蓄に富んでいます。 」

大石「とにかく、ムー大陸にせよ千年王国にせよ、空想的社会主義の変型のようだと私の詩的直観は教えるのね。この二つの切り口からユートピアソシアリスムの文学的系譜を追うのも面白い試みだとおもう。」

米村「ムー大陸への文学的想像力も千年王国にたいする思想的熱情も、私には単一民族幻想をベースにしたコジツケの文学理論にみえます。今後も研究を進めていきたいと考えます。」

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