「小西行長 ~後悔しない生き方」
関ケ原合戦における西軍の主将の一人であり、敗戦後、石田三成、安国寺恵慧と共に京都六条河原で斬首されたキリシタン大名・小西行長の生涯を描いた歴史小説。当時、堺や京都の有力な商人は戦国大名のお抱えとなり、時に経済顧問的な立場に上り詰めることがあった。織田信長に仕えた今井宗久や徳川家康に仕えた茶屋四郎次郎が有名だが、羽柴秀吉の場合は小西隆佐であり、この隆佐の息子が行長であった。小西行長の初期の経緯についてはあまり知られていないと思うので、本作はかなり参考になるだろう(もっとも多少フィクションあり)。なかでも備前の戦国大名・宇喜多直家に気に入られで商人から武士に転じ、宇喜多水軍を率いるようになるいきさつは面白い。そして物語の後半の柱となるのが、同じく秀吉子飼いの武将・加藤清正とのライバル関係だ。秀吉は二人に肥後を半国づつ治めさせ、競わせるのだが、南肥後の領主となった行長は水軍の将であり、キリシタン。行きがかり上石田三成ら文治派と結んでい<。一方北肥後を治める潰正は陸軍の将であり、熱心な日蓮宗信者。ご存知石田三成に対抗する武断派に属する。そしてこの二人が朝鮮出兵で争うのだが、戦線拡大を主張する清正に対し早期和平を模索する行長や三成は清正を秀吉に讒訴し、清正は召還・謹慎とされてしまう。そしてこれが二人の対立を決定的にしていく・・・ただ二人とも領国経営は上手く、名君であったようだ。もっとも清正没後、加藤家は転封となり、南肥後ではキリシタンの多かった天草地方で行長没後37年にして島原の乱が起こる。同じキリシタン大名である高山右近なども登場するが、考え方はかなり具なっており興味深い。戦国時代の歴史小説というとほとんどが信長~秀吉~家康や信玄・謙信といった有名大名、真田幸村などの人気者(?)が主人公となることが多いが、こういう脇役を中心にした物語も面白い。お勧め。(江宮隆之著・PHP文庫)