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poco a poco~くららんびより

短文

あのとき、酔った振りしてその手にしがみついたら
意外なくらい動揺して 私の手を握り返そうとしてた
あの時から やっと時計の針 回りだしたんだよね
もしも 私がもっと大胆にまっすぐ
あなたに向かって気持ちをぶつけていたら
きっと全然違う今があったんだろうなって思う

わかんないけど
何でか好きだった
初めて会った瞬間から

こういう一目ぼれって初めてだったから
自分でも戸惑ってしまって、どうしていいかわからなかった
だけど立場もあったから、感情を殺して自分でもよく頑張ったなって思う
それでも、プライベートではびっくりするくらい素直になった
あなたは大人だったから、きっと私の気持ち気づいてたはず
怒るときも笑うときも 私はあなたの目が大好きだった

何も始まらないうちに 終わってしまった
あなたの気持ちを本当はすごく知りたかったのに
逃げ出したのは私のほうだったんだ
怖くって苦しくって、飛び込んでいけなかった
私の本当の気持ちも言えないまま。

大好きでした

本当はすごく嬉しかった!同じ気持ちでいてくれたことが
いっしょに走りたかった
でもちょっと遅かったんだ
本当は行けばよかったのかもしれないね
そうしたらきっと、全てが大きく変わってた
ずっとずっと待ってたのに。臆病だった。
時計を止めたのは私だったんだ。

本当にバカだな。





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随分久しぶりだよね。
あれから何度、心の中で、記念日をやり過ごしてきたのかな。
何食わぬ顔で、ちょっと大人ぶって、
斜めにあなたの顔を見上げたら
思いがけずあなたの笑顔が、まぶしかった。

ちょっとふるえた、私の胸。
ぎゅっとつかまれた、私の心。
だけど知らん顔して、あごをそらせて、
平気な振りした。ばかだな、私。
ほんとは、すごくすごく、嬉しかったんだ。

すごく会いたかった、いっぱい泣いた、
そんな日々にさよならして、新しい道を歩き出してる。
そんな私を引き戻すような、しゅっと足をすくうような
そんなずるい笑顔なんだね。
全然変わってないんだね。

ちょっとふるえた、私の胸。
きゅっとつかまれた、私の心。
だけど知らん顔して、あごをそらせて、
平気な振りした。ばかだな、私。
ほんとは、すごくすごく、嬉しかったんだ。


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あの日の横顔が忘れられないんだ。
廊下から中庭のほうを見下ろしてた。
放課後。
何ってわけでもないのに。
胸がきゅっとつかまれた。
なんかすごく寂しそうだった。

何見てたんだろう。
何考えてたんだろう。
何を思い出してたんだろう。

目がそらせなかった。
ずっと見ていたかったんだ。


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京橋駅のJRと京阪のちょうど間のところで、思いがけず、彼と再会した

「あ!」と思ったとき、彼の口も「あ!」になっていた。
すれ違う瞬間もお互いに振り返って、確認して、同時に立ち止まった
「何でこんなとこにおるん?」
「何でこんなとこにおるねん?」
同時に同じ事を質問していた。
おかしくなって、思わず笑ってしまった。
「私は今から梅田行くから」
「俺は京都に出張や」
それから2人同時にまた言った
「太ったな~~!」
爆笑になった。

「元気してたんかいな。」
「おう。イヤイヤ働いてるわ。子供は?」
「あの時の子はもう4歳やで」
「ほんまにか。もうそないなるか。」
「あんたのとこは?」
「俺んとこはまだや。」
「ほんまぁ」
話題が尽きてしまった。意外と早かった。

「じゃあな。」
「うん。またね。」
手を振って、彼は行った。

行きかけて戻ってきた。彼は手を出した。
私はその手を握り返した。
温かい固い手だった。
そんな手だった。ずっと忘れていた。
「じゃあな。」
「うん。」
彼は、もう一度手を振って、行ってしまった。

私も歩き出した。


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あなたはどうしても行きたいと言って
楽しげに荷造りをしていた
私はそれをぼんやりながめていた
「身体に気をつけてね」なんて
私の唇はつぶやいていた
夏が終わったら必ず帰るからねって私の頭をなでて
あの人は履き慣れた古ぼけたシューズをつっかけて
扉を大きく開いた

「行かないで」本当は言いたかった
あなたはどうして、それを選ぶの
あなたの夏はいつ終わるの
夏の終わらない
遠い、遠い国に行ってしまった


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さんざん飲んで、お店を出たら
あんまり月がきれいだったので
2人で手をつないで、人ごみをぬって走った
クリスマス・イブ
走ると酔いが回って、地下鉄の出口で
へたりこんで笑ったね
来年も1人だったら来年もやろうぜ、なんて言ってた
今年だけでごめんだわ。最低のクリスマス!なんて言ってやった。
お互いにケーキ屋さんの前のワゴンで、
売れ残りの小さな小さなクリスマスブーツ買って
2人で交換したね。

おかしかった。今も持ってたんだね。クリスマスブーツ
私も持ってた。捨てられなかった。
こんなおもちゃみたいなのが。
ずっとお互い1人だったら、結婚しようかなんて言って、
交換したクリスマスブーツ。
今はお互いに家庭もあって
最初で最後になったね。2人きりのクリスマスパーティ。
笑って話せる、2人だけの思い出の、形見




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夜の突然の電話は彼からだった。
息が詰まりそうなくらい驚いた。
「どうしたの?」と言った私の声が
とても冷静なのが信じられなかった。

彼がもうすぐ結婚すると知った。
私ももうすぐ結婚すると告げた。
「そうだったのか」と彼は言った。
「いつまでも、私が1人でいると思ってた?」
と聞いたら、ちょっと笑って、答えなかった。
結婚式は私の方が2ヶ月早かった。
「私の勝ちだね。」と言ったら笑っていた。

電話で私たちはずっと笑っていた。
まるであの頃の私たちのように。
でも、お互いの相手の話になり、
急に、彼は言った。
「何もかもやめちまって、一緒に逃げようか」

すぐに答えられなかった。
電話の前で、揺さぶられている私がいた。
次の瞬間、私の唇が動いていた。
「だめだよ。あの時の私と同じ思いをさせたら…」

すごく静かに話していた。しかもちょっとおどけたように。
「そうだなあ。」
と彼は言った。
元通りの彼だった。

それからまた少し、思い出話をして
「じゃあ、そろそろ。」
と私は言った。
「ああ、元気でな。」
と彼は言った。
「元気でね。さよなら」
「さよなら」
そして、電話は切れてしまった。

本当のさよならだった。



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郵便受けにコトリとその絵葉書は落ちた。
開けると、そこにその絵葉書だけがあった。
さびれた小さなアパートの、古ぼけたその小さな四角い空間に
サバンナの夕焼けが燃えていた。
夕焼けの中、キリンが3頭、シルエットに浮かんでいた。
外国の切手がはがれそうにベタベタ貼られ
見覚えのある癖のある文字が並んでいた。
その夕焼けが私の中の、止まっていた胸の振り子を
再びゆっくり、大きく動かした。
「あなたは今もそこにいますか?
 その部屋に今も住んでいますか?
 ぼくは今から帰る。 
 君に逢いたい。逢いたいんだ。」

待ってたわけじゃなかった。
けれど私はそこにいた。
あの頃の壁のシミも、扉のきしみも、
つかっていたマグカップも、そのままで。
逢いたくて泣いた。独りにされてうらんだ。
それでも、私はそこにいた。
あのひとにもう1度、強く抱きしめられるためだったのか。
自分でもよく分からなかった。
6度目の夏の終わりのことだった。




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