Ich gehe gern ins Kino~目指せ、映画狂!「ヴァイヴレータ」(邦画:2003年)主演の寺島しのぶが2003年の邦画の女優賞を総ナメにした「ヴァイヴレータ」。 彼女の大胆なヌードが話題になったし、ラブシーンの湿度もかなり高めなんだけど、別にそれが主体の物語ではなく。 これ、今年の冬にも観たんだけど、凄く良かったのでまた観てしまった。 やっぱり、二度観てもいい。とてもいい映画だ。 原作は芥川賞候補になった同名の赤坂真理の小説。 31歳のフリーライターの主人公は、仕事と自分のバランスが取れない不全感を抱えており、 食べ吐きをくり返し、常に頭の中で囁く「声」に悩まされている(境界線にいるような感じ)。 その彼女と、偶然入ったコンビニで出会ったトラック運転手の男との行きずりの恋を描いた作品。 彼女が心身共に再生するまでの、二日間のロードムービーである。 この主人公の設定は一歩間違えれば「ヤバイだけの女」になってしまうし、行きずりが単なる 「行きずり」に見えてしまってはいけない役柄だ。三十路女のふてぶてしさと、少女のようなあどけなさ。 孤独感を抱えた複雑な内面の揺れを寺島しのぶが見事に表現しているので、誰が見ても主人公の心の乾きに共感できる。 この、演技力の見事さはやはり彼女の血筋と、舞台で鍛えたたまものなんだろうが...、 それにしてもすばらしくて賞賛の言葉しか出ない。 同世代として、こういう凄まじい才能を見ると嫉妬&尊敬しちゃうなぁ~。 ちなみに、導入シーンとラストシーンは同じ場所で同じ日に撮影したそうだが、これが同一人物かと思うほど 全然顔が違うのだ。さすが「北島マヤ実写版」と名高いだけあるよなー(北島マヤとは、 少女漫画の名作「ガラスの仮面」のヒロインの演劇少女。寺島しのぶは正に「普段は地味な一般人なのに、 演技をすると別人。役に憑依する」タイプ)。 行きずりの男とセックスするヒロインが決して下卑て見えないのは(というより「純愛」にしか見えない)、 彼女が渇望しているのは「人とつながっている感覚」とかぬくもりなんだ、と観ている人に強く納得させるから なんだろうけど。寺島しのぶ御指名の相手役の大森南朋(おおもりなお)も、微妙な色気があってとてもイイ><!! 長距離トラック野郎で中学も出たか判らない、乳首にピアスをした金髪の男(極端だなオイ!)。 しかし会話の端々から知的さが垣間見え、どこまでもさりげなく優しく彼女を包み込む。 彼を「長靴を履いた王子様」と作家の連城三紀彦が形容したのはかなり当たってると思う。 「あのね、私あなたにさわりたいんだ...」って、いきなり寺島しのぶが言っちゃうような魅力があるのである。 嘔吐に苦しんで自罰的になっている彼女を、彼がお風呂に入れて洗ってあげるクライマックスのシーンは、 厳かで静かで、まるでヒロインが母親の胎内に包まれているような錯覚を覚える。実際に包んでいるのは男性なのに、彼女は心の中で「おかあさん」って叫ぶし (この描き方も恣意的というか、まさに文学だね)。観ているこっちももらい泣きだ...(;;)...。 この映画を観ると、特別な誰かに優しくしたいし、されたいものだ、そういう存在がいなかったら欲しいな... と自然に思ってしまう。 女性が観たら、特に三十路以上は涙するだろうけど、男性にも「ふむ~、こういう男を女は望んでいるのか」と 目からウロコが落ちるかもしれないので是非観てほしい映画。 監督も脚本も男性の割に、とても女性心理が理解できてるじゃん!というのもポイントが高いのであった。 *原作者の赤坂真理と寺島しのぶの対談も見たのだが、 「映画の方が原作を超えている」と原作者自らが絶賛する映画って...余りないよなぁ。 「父と暮らせば」(邦画:2004年) 「父と暮らせば」は、井上ひさし率いる「劇団こまつ座」の舞台演目の一つ。 これを10年前に観た黒沢和雄監督が、いつか自分の戦争での体験を映画化したいと、ずっと温めてきた企画だそう。 他にも2作戦争をモチーフにした映画を作っているが、この「父と暮らせば」が3部作の最終作となる。 舞台は、広島に原爆が投下された3年後。 宮沢りえ演じる23歳のヒロインが、激しい雷におびえながら(言外に、これが原爆の心理的な 後遺症らしい事が判る)帰宅すると、死んだはずの父である原田芳雄が押し入れから出てくる。 ごく自然に父の存在を受け入れる娘。ここから物語は始まり、のべ四日間の二人の会話から映画は進行する。 この父は幽霊...なのだが、実はヒロインが生み出した幻影であることが徐々に判ってくる。 父親は、娘がうまくいきそうな恋をみすみす諦めようとすることを諭し、懸命に応援する。 ヒロインは、明るく活発な性格だったが、被爆を経験して変わってしまった。 自分だけ奇跡的に生き残ってしまったことに強い罪悪感を感じていて、目の前にやっと出現した幸せを 享受することが、どうしてもできないのだ。 愛する娘に幸せになってほしい一心で、父親はあの手この手でヒロインの心理的な負担を減らそうとする。 この、父親と娘の、互いを思う愛情(ユーモアも交えながら)がしっかり描かれているので、 最後に明らかになる哀しい事実が、ずっしりと重い。 「具体的な原爆の惨状」を描写している訳ではない。極めて暗喩的に語られるのみなのだが、 そこが却って観客の想像をかきたて、戦争の惨さ、悲惨さを心底味わせる作品となっている。 この映画は二人劇である舞台から起こしているので、主な登場人物は父と娘。 そして劇中に出てくる、ヒロインの恋人役の浅野忠信だけである。なので、この3人の力量が要になるのだが、 いずれも求心力のある演技で応えている。 特にヒロインを演じた宮沢りえ、父親を演じた原田芳雄の両者ががっぷり組んだ演技がすばらしく(本当の親子に見える)、 クライマックスのシーンではハンカチが絞れそうな程、号泣してしまい最後まで息ができなくて 口呼吸をするはめになってしまった...。←ちょっとおマヌケ いやー、宮沢りえ、これは「たそがれ清兵衛」に負けない、渾身の一作ではなかろうか。 彼女の持つ健気で、憂いを帯びた美しさがとても生かされた役柄だが、何といっても複雑な葛藤を抱えた難役を 演じ切ったのは、これまでに培われた実力に他ならない。実際の撮影時、この映画のスタッフが、 彼女の演技に全員もらい泣きしてしまったというエピソードがあるらしい(「徹子の部屋」で監督が語る)。 なんというか、宮沢りえにはいい意味での「陰影」があるんだよなぁ...(-ー)...。 若い頃はそれが痛々しい感じに見えたこともあったけど、三十路になってくると逆にプラスに転じてきて、 今や、脂が乗っているというのがぴったりだ><!! 原田芳雄演じる「おとったん」は、戦争で死んでしまった人の代表で、その願いは 「死んだ自分らの分まで精一杯、幸せに生きてほしい」ということ。 宮沢りえは生き残った人間の代表で、その心は「自分だけが幸せにはとてもなれない」というもの。 死者を想い、自責の念に駆られている。 浅野忠信は次代の未来を担う人たちの代表で、「いつまでも風化させずに、この苦しみを二度と くり返さない為に何ができるか?」と考える人。戦争に関わった人、それぞれを投影した役柄となっている。 これね、実際にお亡くなりになった方達の願いを映画にしたんだろうなぁ。 今まで「一番の戦争の被害者は死んだ人」だと思ってきたけれど、残された人達にもどれだけ被害をもたらすかと考えると、 本当に胸が痛かった...。戦争を体験した人、してない人にも観てほしい秀作。 「誰も知らない」(邦画:2004年) 物語は父親の違う4人の子供を育てているシングルマザーが子供を捨てて出ていき、その後子供達だけで、必死に生きていこうとするもの。 この子供達と周囲の描き方が、非常にクール、かつ暖かい目線になっており、設定値が絶妙。こういうところに是枝監督のセンスがよく出ている。絵面だけだとかなり悲惨で残酷な物語なのだが、笑える場面、ほのぼのする場面もさりげなく挿入されている。 カンヌ映画祭主演男優賞を受賞した柳楽優弥君の演技は、さすがにタランティーノが絶賛しただけあって、ものすごく...リアル。というか、素の柳楽君が想像できなくなってしまうくらい、自然過ぎる演技だ。ちゃんと事前に「徹子の部屋」で素を見ているのに、画面を観ているとこっちが本人そのものだと思ってしまう。観客を引き込む恐ろしい吸引力である。 私は10代の男の子の良さというものが昔から今に至るまで全然理解できない(女の子の可愛さは理解できる)が、彼の魅力は十二分に堪能できた。 柳楽君の声と顔は、思春期を迎えるのも手伝って、撮影中に急速に変化する。個人的には初期の顔の方が「あどけなさが残る美少年」そのもので 好きなのだが。後半はワイルドさに磨きがかかり、生活が荒んで負担が増えてくるのも手伝ってか、凄味のある顔立ちになってくるのである。まだ子供の時間が残っているのに、急速に「大人」にならざるを得ない柳楽少年。まあ、それはそれでやはり美しいけれど。 場内、啜り泣く声も聞こえたが、私としては泣ける箇所は一ケ所しかなく、予想よりずっと冷静に観てしまった。というのは、精神的なカタルシスみたいなものが自分にとっては余りない映画だったのだ。 結末もあえてぼかして余韻を残しているのだが、個人的には必死なあの子達のハッピーな結末を見たかったな...。 後はなんといっても、決して憎めないおきゃんな母親(YOU、一世一代の好演!!)の身勝手ぶりが同じ女として許せなくって。だって、犬やネコじゃあるまいし、産んだからには子供が成人させるまでは責任取れ~~><!!取れないならちゃんと避妊しろ~~><!!と、憤ってしまった(笑)。 でも、子供達はそういう母親の欠点を嫌という程知り抜いていながらも、とことん愛しているのである。それがまた、よく判るので切なかった。 もう、理不尽なことにも健気に対応する柳楽君を、ぎゅっと抱きしめてあげたくなるような、そんな映画だった(;;)...。 |