|
カテゴリ:音楽
先週(元日)、森本恭正氏の著作「西洋音楽論」の中にある「装飾を回避するための『装飾音』」という衝撃的な記事をご紹介しましたが、その真偽をこの目で確かめるべく、早速レオポルト・モーツァルトの著作「バイオリン奏法」(塚原哲夫訳、全音楽譜出版社)を取り寄せて眺めてみました。
問題の記述は第9章「前打音とそれに属する装飾音について」、冒頭近くの§2のところに出てきます。前打音には長いものと短いものの二種類あり、前者にはさらに二種類あって、4、8,16分音符の前にある前打音は次にある音符と二等分の音価があることを譜例(下図)を示しながら説明した後、次のように書き記しています。 「確かに、全ての下降前打音は普通の音符で書き、拍に当てはめることができます。しかし、前打音で書かれているということを知らなかったり、全ての音を装飾するのに慣れてしまったバイオリニストがそのようなものに出会ったら、ハーモニーやメロディーはどうなるでしょうか。そのようなバイオリニストはきっともう1つの長い前打音を加えて、次のように弾くこと請け合いです: この直後に本文は節が改まり、記述はもう一種類の長い前打音の説明に移ってしまいますが、上記の文章が意味するところは確かに森本氏の著作にある通りに読めます。 これを読みながらすぐに想像できることとして、レオポルトが活躍していた18世紀中葉(この著作が出版されたのは1756年、著者三十七歳の頃)には、既に装飾音についての伝統が廃れつつあったのではないかという状況が挙げられます。装飾音というものはもともと即興性が強く、それを正確に譜面に書き記すという思考から最も遠いものに思われます。(例外としてよく引き合いに出されるフランスの鍵盤音楽ですら、譜面上の等拍に付点があるかのように弾く「イネガル(notes in?gales)」という装飾的な「お作法」があります。) 18世紀になって作曲家と演奏家の分業が進み始め、作曲家としてだけでなく演奏家としても時代の「よき趣味」を体現していた17世紀以前の「音楽家」の伝統が徐々に揺らぎ始めたことが、レオポルトに上記のような文章を書かせる動機の一つになったのではないでしょうか。 さて、亭主にとり俄然気になってくるのは、「装飾を回避するための『装飾音』」とスカルラッティのソナタの関係ですが、たまたまハープシコードの譜面台の上で開いていたファディーニ版K.261の譜面を眺めているうちに、ある種の確信に至りました。が、長くなるので、これについてはまた後日。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 9, 2012 02:08:04 PM
コメント(0) | コメントを書く
[音楽] カテゴリの最新記事
|