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カテゴリ:美術
亭主は今、原田マハさんの書いた標題の小説にハマっています。
この本、しばらく前に新聞書評で紹介されているのを見て興味をそそられ、手に入れていたものを最近移動時間中に読み始めたのですが、面白くて止まりません。(文芸書の新刊単行本などを手にしたのは久しぶりです。) といっても、まだ三分の一ぐらいを読んだところですが、主人公や舞台設定が奇妙なほど亭主にシンクロしていて、過去の記憶を揺すぶられるのです。 主人公の一人である「早川織絵」は1957年生まれ、亭主のそれと一年しか違わない設定で、今読んでいる小説の中心的な部分の舞台は1983年のバーゼル。スイス、フランス、ドイツが国境を接するライン川河畔の古都です。そして、小説の中心的な主題となっているのが、題名の暗示するアンリ・ルソーの「夢」と題された絵。 偶然にも亭主は、この小説の舞台となっているまさに1983年の夏、研究室の実験を手伝う大学院生としてチューリッヒから車で西に一時間ほどの片田舎にある研究所に滞在しており、生まれて初めてのヨーロッパ体験に夢中になっていたのでした。 バーゼルの街はチューリッヒから鉄道で一時間ほど。亭主が滞在していた研究所の最寄り駅であるブルックは、バーゼル方面の快速列車の二番目の停車駅で、そこから次の駅であるバーゼルへはさらに二十分程度、という至近距離にあります。 当時、亭主はC.G. ユング(精神分析学者、ユング派の創始者)にハマっていて、彼の活動の舞台だったバーゼルという街にとても興味を抱いていたので、実験の合間を見て遊びに行きました。 とはいえ、もうかれこれ三十年も昔のことで、街の印象がどうだったかなどはほとんど記憶に残っていませんが、一つ強烈なインパクトを受けたのがバーゼル美術館への訪問でした。 当時はこの美術館についてほとんど何の予備知識もなく、「街の美術館」があるから覗いてみよう、といった程度の軽い気持ちで訪ねたのですが、その充実したコレクションに驚きまた興奮したことを覚えています。もちろん、後に訪れることになるウフッツィ、ルーブルやプラドといった大美術館に比べられるようなものではありません。が、「西洋絵画」という点では日本の西洋美術館ですらバーゼルのコレクションには遠く及ばないだろうという意味で、お上りさんの亭主にはヨーロッパ文化の厚みというものを思い知らされる鮮烈な体験でした。 ちなみに、小説のもう一人の主人公であるニューヨーク近代美術館(MoMA)のアシスタント・キュレーター、ティム・ブラウンは、自身の青春時代(この舞台のさらに7年前)の思い出の舞台としてバーゼル美術館での出来事を語りますが、そこに出てくるのがこの美術館所蔵のルソー作品、「詩人に霊感を与えるミューズ」です。(下の写真:1980年代当時の美術館カタログとルソー作品のページ。) 亭主もこれともう一つのルソー作品「日没の原生林:豹に襲われる黒人」は特に印象に残っている絵で、いずれも大作(長手方向が1.5m前後)でした。 さて、小説の方はというと、標題であるルソー畢生の大作に、もう一つ別のバージョンがあった(?)という可能性を軸に、二人の主人公がナゾ解きの腕を競う展開になっています。 というわけで、しばらくは移動時間が楽しみです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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