未音亭日記

2012/06/17(日)21:47

セイシャスのソナタを弾いてみる

音楽(656)

M.S. カストネルの校訂によるカルロス・デ・セイシャスのソナタ集楽譜を、ポルトガルのオンライン書店(http://www.bookhouse.pt/)で入手しました。「80のソナタ」全二巻と、「25のソナタ」一巻です。 特に「25のソナタ」については、亭主はこのところニコラウ・デ・フィゲイレドのCD※)にハマっていて、彼の演奏の真似をしたくてウズウズしていたので、週末はもっぱらこちらをハープシコードで弾き散らかしています。(春秋社版の楽譜は残念ながら「80のソナタ」のみからの抜粋で、「25のソナタ」を弾くにはこの楽譜をgetするしかありませんでした。)スカルラッティともソレールとも違う、独特の響きと情感を漂わせた佳作の数々です。弾いているうちに気づいたこととして、セイシャスはオクターブの分散音をよく使う、という特徴があります。これはマーキー・バス(Murky bass)と呼ばれるもので、セイシャス以外のイベリコ-イタリア系作曲家もしばしば使う音形ですが、使い方によってはしつこい感じもあるこの音形をセイシャスは実に効果的に使っています。(例えばX番ホ長調のソナタ(下写真)では、バスだけでなく旋律側とも組み合わせて躍動的な効果を出しています。) 亭主が手にした「25のソナタ」は1998年に出版された第2版(初版は1980年)ですが、嬉しいことにカストネルによる解説記事には英訳が付いていて、これがまたいろいろと興味深い情報を与えてくれます。(「80のソナタ」の解説は葡語と仏語のみ。)まず驚いたのは、以前に触れた「ソナタ+ミヌエット」の対についての記事で、実はこの組み合わせが写本ごとに異なっているケースがままある、ということです。その意味するところは、ソナタとミヌエットの組み合わせは写譜を行った人物が適当に選んで付けたものだろう(例によって、セイシャスのオリジナル手稿は残っていないので確定的なことは分からないが)とのこと。もう一つ印象に残った記述として、セイシャスが用いている二部形式が「スカルラッティによってポルトガルにもたらされた」という説を断固否定しています。カストネルに言わせると、スカルラッティがリスボンにやって来た1721年当時、既にかの地では「ソナタ」、「トカータ」、「オブラ」、あるいは「エセルシチオ」といった楽曲形式が確立して久しく、スカルラッティが新たに持ち込んだものをコピーするといった状況ではなかったとのこと。こういう記述を読んでいると、亭主はむしろ逆にスカルラッティがポルトガルでセイシャスに小さくない影響を受けたのではないかと思いたくなります。晩成型(?)のスカルラッティは、当時まだ自分のスタイルというものを明確には持っていなかったのではないか?「練習曲集」(1738-9年)以前の作品と思われる四十曲位のスカルラッティのソナタ(例えばカークパトリック番号で70番台の作品)を見る限り、その出来映えという点ではむしろセイシャスの方が勝っているようにも見えます。「二部形式」という器に多彩な音楽を盛ってみせるセイシャスにスカルラッティが大いに触発され、自ら二部形式ソナタの世界にのめり込んで行ったのではないか?亭主の空想は膨らむ一方です。今年はセイシャスの没後270年。ショパンとほぼ同じ38歳で早世した天才の命日である8月25日はもうすぐです。※)楽譜を見ながら聴いていたところ、No.11トラックが「Sonata VIII d-Moll」というCDジャケットやライナーノートの記載が誤りであることに気がつきました。正しくはSonata VI d-Moll」です。

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