ドメニコ・スカルラッティが人生の半分以上をスペイン宮廷で過ごしたことはよく知られています。そこで、長年当時の宮廷で一体どんな音楽が鳴り響いていたのか、周辺にいた音楽家の作品も聴いてみたいものと思っていたところ、最近になってその中の一人、フランシスコ・コルセッリの作品を録音したCDがあることを知り、早速入手しました。
「
作曲家については、同じ3人の名前が繰り返し現れる。…彼らはマドリードの外ではほとんど知られていなかったが、スペイン宮廷での上演において用いられる新しい曲の大部分を供給し続けた。…その3人とは,1731年にマドリードに来たフランチェスコ・コッラディーニ、1736年に来たジョヴァァンニ・バッティスタ・メレ、およびパルマ出身のフランチェスコ・コルセッリであり、コルセッリは 1736年に定員外の宮廷楽長に任命され、1738年には第一楽長に昇進している。…コルセッリは今日ではほとんど忘れられた存在になっているが、スペイン宮廷での彼の名声はスカルラッティを遥かに凌ぐものだった。」(R. カークパトリック「ドメニコ・スカルラッティ」より亭主訳で抜粋)
ライナーノートによるとコルセッリは1705年4月19日、ピアチェンツァ(パルマ公爵領)の生まれで、スペインに来る前にはファルネーゼ公爵家の宮廷楽長(1727-1732年)として活躍していたようです。スペイン王フェリペ5世の2度目の妻がファルネーゼ家出身(イザベル)だったこともあり、どうやら野心家だったコルセッリはファルネーゼ家のつてを辿ってマドリードの宮廷で職を得るべく自らを売りこみ、まずは王室子女のハープシコードおよび音楽教師として1734年ごろにマドリードの宮廷に迎えられたようです。(...スカルラッティが既に同様の職にあったことを考えると、よくもまあ...というところですが。)
というわけで、当初は宮廷で末席にあったコルセッリですが、まもなくその如才なさ(?)で頭角を現し、いつのまにか当時の音楽生活の中心であったオペラ興行において音楽の主要な担当者となり、台本を書いたメタスタージオ、興行を監督したファリネッリとともに、スペイン・宮廷オペラを支えた立役者となりました。
ところで、CDに収録されている作品を眺めると、必ずしも前述のようなオペラの付随音楽だけでなく、教会音楽も混じっています。これは、コルセッリが1738年以降、王室礼拝堂の楽長も兼務していたからで、そこでの典礼の音楽として書かれたもののようです。フェルナンド6世が没した(1759年)後も奉職し続けたようなので、オペラ嫌いのカルロス3世の下ではもっぱらこのジャンルの作品を書いていたのかも?
さて、実際の作品はどうかというと、どちらかといえばとロココ風の「お上品な宮廷音楽」という感じです。(多分当時主流だったアレッサンドロ・スカルラッティ、ハッセ、ポルポラといった音楽家達の亜流、というとやや手厳しいかもしれませんが…)
こういう作品を聴いていると、逆にドメニコの鍵盤作品が如何に斬新で独創的だったかを改めて認識させられます。