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カテゴリ:音楽
先日シェヴェロフによるスカルラッティのソナタK.87についての論考についてご紹介しましたが、その中で特に言及されていたのが、クリストフォリにより1720年に製作されたピアノフォルテのオリジナル楽器によるこの曲の演奏を収めたビデオ「The History of the Pianoforte」です。シェヴェロフ先生、当該ビデオでクリストフォリの楽器のみならず「世界中に保存されている希少なオリジナル楽器を素晴らしい演奏者たちによる演奏で聴くことができる」ことをわざわざ行末に注記しており、亭主としても大いに興味をそそられて早速手に入れました。(元は1999年にVHSビデオとしてリリースされたようですが、現在はアマゾンでDVDを入手可能です。→こちら
The History of the Pianoforte: A Documentary in Sound) クリストフォリの手によるオリジナル楽器は、現在世界で3台残っていることが知られていますが、そのうち最も初期の1台、ニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されている楽器は、近年の修復によって演奏可能な状態になったということで、修復の完成を機に開かれた演奏会でパウル・バデユラ=スコダがこの楽器を用いてK.87を演奏する様子がビデオに収録されています。 シェヴェロフは、この楽器の特徴を開示するための作品として、あえてK.87という極めて内省的なソナタが選ばれたことを大いに評価しているようですが、いかんせんバデュラ・スコダの演奏テンポは早足で、ビデオの録音があまりよくないこともあってか、ハープシコードの演奏と際立った違いが出ているとはいい難いところが惜しいところですが、スカルラッティが聴いたかも知れない音を耳にすることができるという意味では極めて貴重な録音映像には違いありません。 いずれにしてもこのビデオ、ピアノという楽器に関心がある者にとっては必見の興味深いドキュメンタリーです。前述のクリストフォリの楽器が冒頭に詳しく取り上げられた後で、引き続く三百年あまりの楽器の歴史の中で転換点になったような変化や発明、またそれを実装した楽器のオリジナルが30台以上取り上げられ、それぞれの時代の作曲家による作品(もちろんごく一部のみ)の演奏が提示されます。 中でも亭主が驚いたのが18世紀末から19世紀の初頭、モーツァルトやベートーヴェンの用いたピアノに施された様々な音響効果の細工で、特にパーカッション・ペダル(ストップ)と呼ばれる仕掛けには度肝を抜かれました。パウル・バデユラ=スコダはこの仕掛けを備えたG. Hasskaという製作者によるピアノ(1818年頃製)の前に座り、「例えばこういう風に使う」といって、モーツァルトのソナタK.331の終楽章、トルコ行進曲を弾きながらこのペダルを踏んで「シャーン・シャーン・シャン・シャン・シャン」とやって見せています。(仕掛けは楽器内側の左端にあります。) もっとすごかったのがC. Graf製のピアノで、ベートーヴェンが晩年にバーデンで第9交響曲を仕上げる際に用いた特注のピアノには、やはりパーカッション・ペダルが付いているのですが、ビデオの中でバデユラ=スコダがこれを使いながら第9終楽章のマーチの部分を弾くと、まるでオケの演奏を聴いていると錯覚しそうで、その迫力と面白さに文字通りブッ飛びます。 …と色々な仕掛けや音を持った三十数台のピアノを眺めながら、翻って現在のピアノが大量生産による廉価と引き換えになんとも画一的でつまらない楽器になってしまったものヨ、としばし長嘆息したのでした。 こういったピアノのカスタマイズ、きっとそれなりに需要がある(ビジネスになる!)と想像するのは亭主だけでしょうか… お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 14, 2014 05:42:55 PM
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