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カテゴリ:音楽
コロナ禍が1年以上も続く昨今、これまで世の中で通用していた常識や前提が如何に脆い土台の上に成り立っていたのかを思うにつけ、亭主もこのところ現実から一歩下がり、ものごとをもっと深いところからあれこれ考える時間が増えています。(例えば「資本主義」という経済システム。)このブログの長年の主題の一つである音楽も例外ではありません。
この四半世紀あまり、クラシック音楽の退潮が言われて久しかったところに、コロナ禍はトドメの一撃になりかねないほど深刻な影響を及ぼしているようです。この世から名演奏家のライブ演奏に接する機会が消滅するような未来は来て欲しくない、と願う亭主としては、彼らの行く末が大いに気になるところです。 職業音楽家は今後何から収入を得るべきか? コロナ禍以前のビジネスモデルは、言うまでもなくコンサートホールなど特定の会場で決まった日時に一定規模の聴衆を集め、ライブ演奏を聴かせる対価として入場料を徴収することで音楽家(と興行主)が収入を得る、というもの。近年CDなどの二次利用による著作権ビジネスが行き詰まりを見せる中、ライブ志向は大きな高まりを見せていました。 ところが、コロナ禍はこのようなライブ演奏会頼みには明るい未来がないことを白日のもとに晒すことに。(たとえワクチンや治療法が出来てCOVID-19が抑えられたとしても、いつかはまた別のウイルスが現れることは明白。) ではどうするか?デジタル・トランスフォーメーション(DX)に100%載っかることは当然として、その前提に合わせて発想を転換し、ライブ演奏活動とは別にネットビジネスからの収入源を確保する、というのが職業音楽家の新しい「生き方」ではないか? 例えば(コロナ禍のような事態でも制限を受けない小規模で行う)ライブ演奏は、ネットビジネスためのコンテンツを得るためのイベントと割り切ることができます。一方で、それを動画として有償、あるいはユーチューバーのように広告収入を得ることで全体として黒字にできればビジネスとして成立します。ライブ演奏はネットビジネスのための初期投資という位置付け(なのでそれ自体は赤字でもOK)で、これによって演奏家も聴衆も従来のような「一期一会」の感動を手にすることができるので一石二鳥。動画配信は演奏家自身のための広告になるという意味で、こちらも一石二鳥。 上記のようなやり方は、演奏会の規模が大きくなると容易ではなくなりますが、たぶん工夫次第でなんとかなるでしょう。例えば、今年のウィーン・フィルによるニューイヤーコンサートでは、会場は無観客でしたが、数千人の聴衆がインターネットで双方向につながって演奏を楽しんでいました。(ところどころで彼らからの拍手が会場に置かれたスピーカーから響いていたことは記憶に生々しく、近未来の演奏会の姿を垣間見る思いです。)ライブの配信料(衛星放送も含む)だけでコンサートの収支がどうなったかは不明ですが、あとでコンサートの動画をユーチューブのような広告付きネットメディアで配信すれば、追加の収入源となることは確実です。 ところで、上記のようなアイデアが亭主のお気楽な妄想とも言い切れないだろうと思われるのが、ユーチューブ上の音楽プロモーションビデオ(MPV)に対して大手音楽会社ユニバーサル・ミュージックが取った対応です。彼らはユーチューブにタダで公開されていたMPVが広告収入を生むことを知るや、これらを第3者が勝手に流すことを著作権で禁じた上で、自らの広告収入にするために手を回しました。ネット動画が広まる以前、もっぱら演奏の二次利用(CDなど)に対する著作権を収益源としていた音楽会社もビジネスモデルの転換を図っている、というわけです(この辺の事情、先日亭主が紹介した著作「誰が音楽をタダにした?」に詳しい)。 実は斯く言う亭主、この年末年始はどのチャンネルも似たような正月番組ばかりのテレビを見る気になれず、ふとテレビのリモコンにあるユーチューブボタンを押したところ、膨大な音楽関係の動画を即座に視聴できることを発見(いちいちアップルTVを立ち上げ、テレビの入力を切り替える手間を省けるメリットは絶大です)。検索にキーボードを使えないのが難点でしたが、久しぶりに演奏会場にいる感じで聴きたい音楽を堪能し、あっという間に正月が過ぎました。 最近の音楽動画は映像・音響いずれもテレビの音楽番組と全く遜色ないものが多く、演目のバラエティも豊富です。正月に見た動画では、例えばドビュッシーの「練習曲集」全曲がその好例です。下記リンクには米国西海岸で行われた全曲演奏会の様子が丸々収まっており、亭主はJeffery LaDeurという名手の存在を初めて知りました。 亭主は「練習曲集」をドビュッシーの最高傑作と思っていますが、これが国内の演奏会で取り上げられる機会は少なく、全曲の演奏会に至っては絶無(興行的にも客集めが難しい演目)です。LaDeurの演奏は大変素晴らしいもので、この作品の魅力を久々に再確認。 ついでにもう一つ挙げるなら、前回取り上げたラモーのオペラ「ボレアド」の組曲版を収めた動画があります。こちらはRiccard Minasi指揮のhr交響楽団のライブで、日本国内の演奏会ではまず見かけないプログラムです。(このオケは旧フランクフルト放送交響楽団が2005年に改組して出来たそうですが、英語名はまだ旧称を用いているようです。) 演奏もさることながら、映像の中ではモダンオケ(?)にもかかわらずホルンの楽器が現代のそれではなくナチュラルホルンであることや、チェンバロが堂々と鎮座していることに驚かされます。 というわけで、世の中はとっくに亭主の妄想を超えてネットビジネスモデルへの移行が既に始まっているようです。むしろ意識を変えるべきなのは亭主のような古い音楽鑑賞のスタイルしか知らない年配の音楽ファンなのかも? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 17, 2021 08:49:42 PM
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