未音亭日記

2022/05/05(木)21:45

伊豆へ

温泉(9)

既に3年目に入ったコロナ禍ですが、4月になったころから第6波がようやく下火になり始めたようです。先週金曜から始まった大型連休(黄金週間)では行楽地も久々の賑わいを見せているようで、高速道路の大渋滞も復活したらしいことがラジオの交通情報から伺えます。 さて、何を隠そう、実は亭主も週末の日曜日から2泊3日の温泉旅行に出掛けていました。目的地は伊豆半島の熱川と下田です。口実は亭主の定年退職(去る3月末)の記念ということで、思い立ったのは4月の半ばごろ。通常の年であれば、こんなタイミングでは連休中の人気の宿は予約で満杯となっているところですが、まだ「コロナ禍明け」早々で出足が鈍いらしく、何とか手配することができました。(そもそも人混みが嫌いな亭主、黄金週間中に泊りがけの旅行など普段は考えたこともなく、おそらく我が人生で初めてかも。) 伊豆方面の温泉といえば、首都圏からのアクセスもよい熱海、伊東あたりが有名で、亭主も何度か研究集会などで訪れたことがあります。が、その分人気も高く、やはり最終的には相当混み合うことになるだろう、と恐れた亭主。別荘地としても知られ、人が集まりそうな伊豆高原より向こう側なら多少はマシだろうと予想し、熱川の和風旅館と下田の老舗リゾートホテルにそれぞれ宿を一泊手配。当日は家族全員が熱海駅に集合し、数十年ぶりに訪れたMOA美術館(亭主が訪れた当時はまだ「救世熱海美術館」と呼ばれていた)で暇潰しをした後、伊豆急で現地に向かうことに。 初めて訪ねた熱川温泉は、伊豆急行の駅を中心に小じんまりとした温泉集落のように見えます。亭主一行が着いた夕刻はあいにくの雨模様でしたが、宿は駅から徒歩2-3分という至近距離にあり、ほとんど濡れることなくチェックイン。一息入れた後で、亭主は早速露天風呂に直行、掛け流しの湯を大いに満喫しました。 熱川の源泉は噴出温度が100℃と高温で、相当引き回しても加温することなく使うことができるのが強み(というか、逆に適温まで除熱するのが大変そう)。しかも温泉櫓が13本もあるということで、温泉だけに使うにはもったいない(?)ぐらいでしょうか。近所にある「バナナワニ園」という観光施設も、この温泉熱を有効活用しようと作られたものだとかで、熱帯の動植物を飼育・公開し、手持ち無沙汰の湯治客を楽しませているようです。 なお、駅前には小型の「温泉熱」発電機も設置されていましたが、こちらはデモ機といった感じ(現在は休止中とのこと)。熱源はタダでも、発電機の設置と維持管理にかかるコストに見合うだけの電力を生み出せるかが課題なのかも。 ところで、翌朝の待ち時間に駅前の案内所を覗いたところ、一角に置かれたガラスケースの中に昔日のテレビドラマ「細うで繁盛記」の関連展示があるのを発見。この1970年代初めに放映され人気ドラマ、熱心に視聴する母親につられて見ていたことを思い出しました。当時はよく知らなかったものの、ドラマの舞台はここ熱川温泉の老舗旅館「山水館」。中央に飾られている主演の新珠三千代の写真を眺めていると、彼女によるオープニングでの「銭の花の色は清らかに白い。だが蕾は血がにじんだように赤く、その香りは汗の匂いがする」というナレーションが蘇ってきます。(とはいえ、内容は典型的な「家」制度下の嫁いびり。今考えると、「嫁」が抑圧に耐えながら旅館の発展に生き甲斐を見出す、という設定が、大なり小なり似たような境遇にあった女性達の共感を呼んだものと思われます。) 熱川からさらに伊豆急で南下すると、小一時間ほどで終点の下田に到着します。投宿先に選んだ下田東急ホテル、実は亭主がまだ大学院修士2年になったばかりの1983年春に、所属する研究室の主催で開催された国際研究集会の会場となったホテルでした。裏方として会議の手伝いもしながら参加した初めての「国際会議」でもあり、いろいろと思い出深い場所ですが、当時はホテル滞在を楽しむような余裕はなし(院生は陸側のタコ部屋住まい)。その後訪れる機会がないまま、気づいてみると40年近い歳月が流れていました。定年を機に、今度は観光客という気楽な立場で、研究人生初期の思い出の地を再訪してみた、というわけです。(以下1枚目の写真は、庭に集まった国際会議の参加者をラウンジの大窓から撮った集合写真。2枚目は、39年前と同じような場所に立った亭主をほぼ同じ構図で撮ってもらったもの。背景のシュロの木?の成長が時の経過を感じさせます。)      *     *     *     *     * このホテルで何といっても印象的なのは、入り組んだ海岸の高台という立地ゆえの素晴らしいオーシャンビューです。今回は幸運にもこの眺めをフルに楽しめる海側の最上階に泊まることができ、年来の夢を叶えることができました。ホテル自体も開業(1962年)から60年も経つというのに、外観・内装ともにまったく古びた感じがなく、実に完璧にメンテナンスされています。(ちなみに、2017年には大規模な改修が行われたとのこと。) 下田は温泉地でもありますが、ホテルの大浴場にはちゃんと源泉から温泉が引かれており、温泉リゾートとしても十分機能しています。庭から海岸に降りると、入り組んだ岩場や砂浜が変化に富んだ景観を作り出しており、久々に「磯の香り」を嗅ぎながら海辺の散歩を楽しむこともできました。また、そのまま15分ぐらい歩けば伊豆急下田駅と、アクセスも特に問題なし(ただし、ホテルとの高低差はかなりあるので帰りは大変ですが)。 ところで、部屋に置いてあった茶菓に添えられた能書きに「三島由紀夫が愛したマドレーヌ」とあり、ネットで調べたところ、三島はホテル開業の年から1970年に他界するまで、毎夏家族とともにひと月ほど当ホテルに滞在したとのこと。本人は部屋で小説の執筆もしていたらしく、今風に言えばワーケーションというところでしょうか。 というわけで、(無事定年を迎えたご褒美として)申し分のない休暇を楽しませてもらいました。(今の亭主の境遇でひと月もの滞在は無理ですが、次の機会があれば連泊してみたいものです。)

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