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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.05.04
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カテゴリ:本棚  ギレイ
 今回の儀礼の仕事の交渉は、こんな感じに始まった。

 町の権力者である男の家に、儀礼は管理局経由で呼び出され、広い応接室で会話は行われた。
「この魔剣の封印を解いて欲しい。できるだけ早くな。2、3日でできんか?」
水色の装飾美しい鞘に納まった両刃の魔剣を示しながら、小太りの、いかにも権力ありますといった服装と態度の男が言った。

 もちろん、その依頼の内容は違法である。

「それは、できません。可能、不可能ではなく、行為として禁じられています。」
儀礼は顔を引きつらせつつ、できるだけ冷静な態度で男に告げた。
「コレクターであるなら、あなたも当然ご存知ですよね。古代の物は危険を含む品が多く、ましてや魔剣と呼ばれる物ならば、必ずと言っていいほど、『魔』の物を封じています。それを解き放つと言うことは、魔物を世に放つということです。」
そう言う儀礼に対して、依頼主はいらだったような表情を見せた。

「そんなことは知っておる! だが、魔物が出たところでギルドの連中に倒させればいいだろうが。噂では神官(ホーリーマスタ)も近くに来ているらしいしな。わしは、古代の本当の力を知りたいんじゃ!」
50歳を過ぎた男が、子供のようなわがままを言う。
自分の思い通りに行かないと、すぐに当り散らすタイプだろう。
まして、権力という力を持ちすぎてしまったために、止めようとする者がいないらしい。

 普段の儀礼ならばその男の苛立ちに、身体が固まっていることだろう。
しかし、今日の儀礼は冷静に、氷のような笑みを浮かべているだけだった。
「でしたら、私が詳しく調べて報告いたしましょうか? この剣についてと、この剣に封じられている魔物について。剣の力や、封じの方法、魔物の種類や力、姿、この町に現れたとした場合の被害など。」
儀礼は微笑んでいる。

 その華やかな顔立ちと、雰囲気に、一瞬依頼主の男はのまれた。
ハッ、と我に返ると依頼主は目の前の、少年と言っていい年齢の男を見る。
色眼鏡の奥の瞳は、澄んでいるが、どこか冷たさを感じさせた。

「管理局の連中に分からんことを、封印を解かずに、お前に分かるっていうのか?」
体に走った寒気を無視して男は言った。
さすがに何十年も人の上に立ってきただけはある。
男は得体の知れない気配にも負けずと威圧感を増した。

 しかし、儀礼はより笑みを深くする。
「ええ。もちろん私でなくても、それ位はできますよ。3年かかるか5年かかるかは分かりませんがね。あなたがおっしゃるには期限は2、3日、と言うことですよね。」
儀礼は落ちてきた眼鏡を直した。
依頼主の男は、少年の些細な動作にも眼を奪われていることに気付く。

 男は一度、目をつぶり、何かを振り払うような仕草で首を振る。
「ふん。管理局の奴が言うには、お前が一番力があると言っていた。今は信用してやろう。だが、3日経ってもできなければお前は首だ! 噂の『神官グラン』殿に開封してもらうからな。」
儀礼を睨みつけるようにして依頼主は言った。
ようするに、お前なんか信用してないからな! と言ってるらしい。
どうあっても、所持する魔剣の封印を解きたいのだろうか。

(困ったおじさんだ。管理局から魔剣所持許可、取り消してもらおうかな……。)
儀礼は頭の中で、この資産家の男に『注意人物』、と書き足す。
「わかりました。成功した際の報酬は、最初の通り30でいいですね。では、明日、改めてお伺いします。その時に依頼の魔剣をあずからせていただきます。」
それらの不満、全てを胸の内にとどめて、儀礼は言葉と共に右手を差し出した。

「わかった。では、明日また来てくれ。」
交渉成立の握手を交わして、儀礼はその依頼主の家を後にしてきたのだった。

 宿の部屋で一人、重そうに机に頭を乗せて、儀礼は呟く。
「三日で魔剣の分析かぁ、研究室詰め込みだな。」
「また研究か?」
一人のはずの部屋の中、儀礼の独り言に、返す声があった。

「おかえり、獅子帰ってきたんだ。」
扉を開けて、獅子が部屋へと入ってきたところだった。
「おう。今日は遊びみたいなもんだったんだけどな。遺跡の近くで小型の魔獣が増えてきたからって退治してきた。白も結構活躍したぜ。」
「な。」にやりと笑って言う獅子の声に、
「うん。」
と、明るい子供の声がして、獅子の後ろから12、3歳位の儀礼にそっくりな少年が姿を現した。
瞳の色が青いだけで、儀礼の兄弟と言っても、おかしくないだろう。

「そっか。すごいな、白は。」
儀礼は立ち上がり、小柄な少年の頭をなでる。
なでられた少年は、照れたように頬を赤くしている。
この少年は、十日ほど前に車のそばでうずくまっていたのを儀礼と獅子が拾ったのだった。
その時は、顔色は真っ青で、体力が限界まで落ちきっていた。
十日経ったいまでも、白の体はやせ細っている。
本当の名前はシャーロと言うらしいが……、儀礼は呼びにくい、という理由から「白(しろ)」と呼んでいた。

 獅子は、やたらと小さい少年が気になるのか、食事になると「食え、食え」となんでもかんでも押し付け、白の餌付け―― 世話を焼いている。
「僕は仕事で明日から、三日くらい研究室にこもるから、その間も白を頼むね、獅子。」
「ん。俺もまだ今のギルドでいくらか、やってみたい仕事があるからな。白、いいか?」
獅子は、白に問いかける。
「うん。」
楽しそうに頷いて答える白。
この少年。体は小さいのに、戦闘技術は儀礼よりもずっと上なのだ。

「どんな仕事なの? ギレイ君。」
白が聞く。
獅子の仕事は一緒についていくので、分かっているが、その間、儀礼が何をやっているのか、白からすると不明なのだろう。

「んー。いろいろだけど。」
考えるように儀礼は顎に手を当てた。
「今回は、依頼人の魔剣を詳細に調べることかな。『……封印を解けとか言ってたけど。』」
空を睨む鋭い視線と共に、儀礼の最後の一言は、冷たい語気を放った。

 その冷たい気配に、白は一瞬身構える。
獅子もまた、儀礼の様子に異変を感じた。
試しに、獅子は儀礼が苦手とする怒気を飛ばしてみることにした。
睨みつける獅子に対し、儀礼は――口の端を上げ、挑発するように薄く笑った。
その儀礼の背後で、黒い煙のようなものがうっすらと、たゆたうのを獅子は見た。
煙は儀礼のポケットの一つから湧き立っている様だった。

「お前、……何持ってるんだ!」
獅子は儀礼に詰め寄ると、無理やり服のポケットをあさる。
液体の入ったビン、何かのスイッチ、くるくると巻かれたワイヤー、次々と出てくる儀礼の常備品。
そして。

 ごとり。
抵抗する儀礼の手元から、白い布にくるまれた何かが落ちた。
「何だ、これ。」
獅子が拾い、布を開く。
中から現れたのは、いつか獅子が悪魔と呼ばれる高位モンスターを倒した、銀のナイフだった。
もっとも今は、『銀』とは言え、呪いのせいで黒ずんでいるのだが。

「お前、まだこんなもん持ってたのか! こんな、悪いモンに頼るな!」
獅子の怒鳴り声に儀礼は眉をひそめ、わずかにひるむ。
「返してよ、別に頼ってるわけじゃないさ。ちょっと使うだけだ。」
儀礼は獅子からそのナイフを取り返そうとする。
二人がもみ合い、ナイフは――開いていた窓から落ちた。
「「あっ。」」
二人が声を上げ、外を見る。
「何すんだよ、獅子。危ないだろ!もし下に人がいたら……。」
怒った儀礼が言いかけた時、
「フィイーハッハッハァッ!!」
明らかに異常な笑い声が、窓の下から聞こえてきた。
「……。」
無言で顔を見合わせる三人。

「キャーーーーッ!!」
窓の外からは女性の絶叫が響いてきた。

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296話この話と同じ内容です。


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最終更新日  2013.05.05 08:52:56
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