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カテゴリ:日々考えたこと
映画好きではなくても、日本を代表する映画監督である小津安二郎の名前を聞いたことはあるだろう。「東京物語」「秋刀魚の味」など多数の有名作品を生み出した、世界の監督が絶賛する監督だ。中流家庭を舞台に、親子の関係や人生の機微を描き、独自のローアングルの手法を磨き上げ、いわゆる“小津調”を確立した。日本映画界を代表する巨匠となった人物だ。独特のカメラアングルや色調、画面構造などで後の日本の映画界に大きな影響を及ぼした人物だ。
小津監督の映画は数本見ているが、好んで見たわけではなく、誰かが借りてきたビデオを一緒に並んでみる程度のものだった。それでも、心にじんとしみてくる何かがあって、見終わった後で払っても払いきれない寂寥感と人間の暖かさが残ってしまう。夕暮れの町を歩いていて、知らないお宅から夕飯のにおいが流れてきて、思わず幼い日や両親の愛を思い出してしまい不覚にも涙する、そのときの気持ちに良く似た心情になってしまう。強くあろうとする時には特に、うかつには見れない作品だ。 私の中の小津作品では、老夫婦は、いつも同じ方向を向いて、同じ姿勢で坐っている。お互いに、寄り添いながらひとつところを見てきた二人を象徴するかのようだ。そして、夫婦は同じ言葉を繰り返す。たとえば、「今日の結婚式は良かったなあ」「ええ、良かったですね」。「息子たちはどうしているかなあ」「どうしているんでしょうね」、といったように。 コミニュケーションには、意味のある言葉を伝えるための会話もあれば、人間と人間が結びつくための、そしてそれをあらわすための会話もある。それが「言葉の反復」なのだ。もしくは、非言語メッセージとして、寄り添って同じ方向を見ることもできる。 もし私が老夫婦になったなら、小津映画の二人のように寄り添って、会話を繰り返そう。そこには二人の空間が、二人の調子が存在し、それは何にも邪魔されない。だが、今は無理だろうし、そういうあいまいで柔らかな空間を欲していない。この素晴らしい間合いは、時間と信頼と経験によって培われたものだから、そう簡単に模倣できると勘違いしてはいけないのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.01.21 23:46:22
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