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01 出発は「ダメ女」

LA PRIMA PUNTATA  "ALL'INIZIO, -SPACCIATA-"

第1話 出発は「ダメ女」

ホテルウーマン と言えば聞こえはいいし、
殆どの人が「フロントにいるの?」と返してくる。
4つ星ホテルで働いてはいるが、いつだかのTBSドラマのような
豪華さはないし、フロント勤務なわけでもない。

わたしはローマのとあるホテルの予約センター
(UFFICIO PRENOTAZIONE=ウッフィチョ・プレノタツィオーネ)で働く、
予約兼接客兼電話番兼営業兼コピー取り兼…
事務員
である。

小さなホテルなので仕事内容は幅広い。
フロント(RICEVIMENTO=リチェヴィメント)の男の子が席を外したら
代わりをしなければならないし、
日本語を話すスタッフはわたしだけだから
日本企業への営業はわたしが一手に担っている。

この会社、新・大西洋の星有限会社(←直訳すると本当にこうなる)が
正社員としてわたしを雇ってくれて半年になろうとしている。
給与明細などに肩書きとして書かれているのは
「秘書(SEGRETARIA=セグレターリア)」だ。ちなみに名刺には英語で
SALES REPRESENTATIVE(営業)と書いてある。そりゃそうだ。
名刺が必要なのは営業の時くらいのもんだから。

話は逸れたが、はじめの2ヶ月は初っ端の休暇を兼ねながら、
日本でホテルの宣伝と営業をしていたから、大目に見て
「仕事を始めて4ヶ月」というところか。
しかしわたしは相変わらず仕事ができない女である。

まず第一にイタリア語ができない

これは友人の言を借りると
「日本人の割にイタリア語うまいねー」
では許されない世界で
働いているから明言することである。かと言ってわたしが
「日本人の割にイタリア語うまいねー」と言われるに値するわけではないのだが。

日本食レストランや家庭用品店で働いていた時は、それでも何とかなった。
確かに困難もあったが、
「この語学力じゃ仕事に差し支えるなあ」と思ったのは、正直、
働き始めの頃、つまりイタリアに来たばかりの頃だけだった。

焦りを感じるのは、東洋人以外の外国人と一緒にいる時である。
日本食レストランの従業員は、日本人に中国人、
フィリピン人、バングラディシュ人という顔ぶれ、
家庭用品店ではイタリア人と日本人だけだったから
それほど気付かなかったのであるが、
語学学校に通っていた頃、南米や東欧の人たちと席を並べていて、
彼らの習得力のあまりのすごさに度肝を抜かれた

そして今である。

職場柄、同僚に外国人が多い。ポーランド人2人にドイツ人、
ユーゴスラヴィア人といった具合である。

住んでいる年数も桁違いだから仕方がないのだが、
イタリア人と変わらぬ語彙力、
文法に至っては大人になってからきちんと学んだわけだから、
イタリア人のそれより美しい。

どのくらいすごいのかというと、このポーランド人女性2人、
彼女たちだけで会話する時もイタリア語、なのである。
一度2人の会話をこっそり盗み聞きしたことがあったのだが
(別に「盗み聞」く必要もないんだけど)、
やっぱり流暢なイタリア語の会話であった。
そんな中にいたら劣等感バリバリである。

第二に英語ができない

ホテル勤務にこれは致命傷である。

もちろんイタリア語ができない時点で死んでいると言えば死んでいるのだが、
曲がりなりにも日本で9年間の英語教育を受けてきた身である
(中学校・高校の6年間に加え、わたしは大学では3年間も英語の講義を履修し続けた。
それで9年間。言い訳になるが、大学時代のテキストは
シェイクスピア戯曲の評論が日本語で書かれた本と記憶している)。
電話の向こうで“Can you speak English?”と言われたらついつい
“Yes!”
と言ってしまう。9年間習ったんだから。
で、一応相手の言うことを聞いてみる。

分からない…。

決まり文句、“Wait a moment, please.”を言って誰かに回す。
みんなが「またかよー」という視線を送る。
中にはまだ何も言ってないのに、“Wait a moment, please.”を
わたしの口真似して言う奴もいる。

10回に1回の割合で、わたしで対応できる内容もあるのだが、
「レストランの内線に回して下さい」、
「FAX番号教えて下さい」といった程度のもの。
これでは仕事ができる女には程遠い。

ちなみに今わたしは、ドイツ語、スペイン語、フランス語、
ポーランド語、ロシア語を勉強したいと思っているが、
周囲の人々には「やめとけ」と言われている。さもありなん。

しかし、こんなことでメゲてはいけない。
もしかしたら進歩があるかもしれないのだ。

イタリア語も英語もしゃべれないホテルウーマンの話。
まだまだ続く(といいな)。

(2003年6月)

ALBERGOSTAFF
後方左から。
ルーシー(ポーランド)、ナターリア(ポーランド)、
わたし(日本)、イローナ(ドイツ)。
前方左から。
ロベルタ(社長の次女)、フランチェスカ(社長の長女)。
わたし一応身長158cmあるんだけどね…。

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