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03 ヨーコの存在

LA TERZA PUNTATA  "LA PRESENZA DI YOKO"

第3話 ヨーコの存在

JALの直行便でも成田空港から12時間もかかる最果ての地
ローマのホテルに日本人が働いているのは、日本人観光客にとって
驚きであると同時に嬉しいことでもあるらしい。
しかし、わたしも嬉しいのを忘れないで欲しい。
遠く離れた母国から、わたしが今現在住んでいるこの街を観るために、
わたしの働いているこの小さなホテルに来て下さったのだ。

ハワイ ならともかく、外国のホテルに日本人が働いているとは
思ってもみないらしい(しかもこんなに小さいしね)。

お客様とは予約の段階で、EメールやFAXを使って何度かやり取りをしているので
(わがホテルでは日本人観光客に関しては、旅行会社を通じて、という予約が少ない)、
名前も覚えるし、お顔を拝見する前から「どんなお客様かな?」と想像したりする。
下品な言い方かもしれないが、情がわいて しまうのだ。

彼らのホテル滞在中は、機会があれば、挨拶させて頂く。
過剰なサービスが不要なお客様も時にはいるから、わたしから
「日本人スタッフでございます」と出て行くことは敢えてしていない。
それに9割方 は、お客様の方からわたしをお呼びになって下さるのだ!

さて、初顔合わせ。しかし、初めて会った気がしない。
既に連絡は取り合った仲だ。友達のような気さえする。
「その節はどうも」 とか何とか言い合って世間話 をする。
日本語でローマの案内をする。わたしのホッとする時間だ。

それからが素晴らしい。彼らは帰国後、必ず言っていいほど連絡をくれる。
「お世話になりました」、「イタリア旅行を楽しみました」などなど。
わたしはこれらを読む時感動する。 こんなの日本人だけだ。
毎日200人も300人も人を泊めているのに、
“Thank you for your assistants during my stay in your hotel.
(旅行中はお世話になりました)”とかよこすのは、月に一遍、
気の利いたアメリカ人 くらいのものだ。
ひどい奴になると、「パンツ を部屋に忘れたから送ってくれ」とくる。
わたしがかつて送ったものはパンツを筆頭に、帽子、ベルト、
赤ちゃんのよだれかけ 、ぬいぐるみ、肖像画…。
これらの郵送料はもちろん当社負担である。
それに比べてわが国民の礼儀正しさよ!

この感動をかつて味わっていたであろう人物に、ヨーコさん という人がいる。
日本人である。
面識はないのだが、2年ほど前に、4年間勤めたこのホテルを結婚退職した人物だ。
今ある日本のいくつかの旅行会社とのコネクションは、
彼女やその前にいたタツヤ氏なる人物が築いたものだという。
わたしはそれに乗っかって仕事をしているだけだけれど、
新規開拓には多大なる努力を強いられたことであろう。
彼女らには脱帽である。

ところでわたしが入社当初に、同僚たちによく言われたことがあった。
「おう、お前もここのポーター(FACCHINO=ファッキーノ)と結婚して
辞めていくのか?」。
何のことはない、このヨーコさんが、ここに勤めていたポーターと付き合っていて、
その後結婚し退職したというのである。

彼女の影を感じることは多々ある。
廊下を歩いていて「ヨーコ!」 、 電話に出ると「ヨーコ?」
呼び間違えられるのだ。
初めて会う人には「あんたヨーコの妹?」。
お遣いに行った郵便局で局員に「あの日本人の女の子、元気?」。
ポーターのファビオは「俺とHしない?」、
「No.(いいえ)」、
「ヨーコはかつてNo, grazie.(いいえ、結構です )と答えていたぞ」。

彼女のおかげで同僚たちの多くが、日本語のおかしな単語単語を知っている。
特にフロントの男の子たちは日本人客と話す機会が多いからであろう、
よく知っている。

イタリア語、英語のほかにドイツ語、フランス語をも操るお調子者のマッテオは、
「ステキナメヲシテマスネ」
幼い頃柔道を習っていたという真面目なマッシモもこんなことを言う、
「コンヤナニスルノ?」

今日も事務室で、レストランの副給仕長マルコに「チャオ、ヨーコ!」と言われても、
「あたしゃ、まみよ」 と繰り返す。
「ヨーコ!」と呼ばれなくなるまでこれは続く。

ヨーコさん、あなたは偉大だ

(2003年6月)

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