STATUE PARLANTI
昨日のガイドツアーはしゃべる像めぐりでした。ローマには「しゃべる像」と言われる彫像が6体あります。一見ローマでよく見かける彫像となんら変わりはないのですが、どこが「しゃべる像」と呼ばれる所以なのかと言うと…。この6体には、中世以降、社会情勢や政治を皮肉る風刺文を書いた紙がベタベタ貼り付けられたのです。人々は社会問題や政治批判などをこれらの像に代わりに訴えてもらっていたのです。まずは一番有名な、ナヴォーナ広場近くのパスクイーノと名付けられた像を見に行きます。紀元前3世紀に作られたギリシア軍人もしくはギリシア神話の王メネラーオスの像と考えられており、現在は残念ながら両腕両脚が残っておらず(余裕で2000年超えていますからね…)、頭部と胴体しかありません。1501年、オルシーニ(現ブラスキ)宮殿の改装および周辺道路工事の際にこの場所で見付かり、広場の一角に置かれました。発掘場所には諸説あり、床屋だか鍛冶屋だか仕立て屋だか靴屋だか…、とにかくそこの主人がパスクイーノという名前で、彼にちなんでこの像も同じ名前になったというのです。ここから生まれた言葉が、「風刺」という意味のパスクイナータです。中世は特にローマ法王に向けられたパスクイナータがたくさん貼られました。例えば1625年、ローマ法王ウルバヌス8世がサン・ピエトロ大聖堂の天蓋を作るためにパンテオンのブロンズを剥ぎ取った際には、こんなパスクイナータが登場しました。Quod non fecerunt barbari, fecerunt Barberini(Quello che non hanno fatto i barbari, lo hanno fatto i Barberini).蛮族でさえやらなかったことをバルベリーニ(ウルバヌス8世はバルベリーニ家出身)がやってしまった、という意味です。現在もパスクイーノとパスクイナータは健在です。上の写真で分かるでしょうか。台座の部分に貼り紙がちゃんとあるんです。次の「しゃべる像」はルイージ修道院長。イタリア語ではAbate Luigi(アバーテ・ルイージ)ですが、ローマ弁ではAbbate Luiggi(アッバテ・ルイッジ)です。ローマ弁かわゆい。現在はサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会の脇ヴィドーニ広場にひっそりと立っています。この辺り、ちょっとおしっこ臭いです…。もともとは古代ローマの執政官の彫像ですが、近所にあるスダリオ教会の管理人ルイージさんに似ていたことからこのニックネームが付きました。彼の頭は頻繁に無くなるので、何度か挿げ替えられています。次はサン・マルコ広場(ヴェネツィア広場の一角)にあるマダム・ルクレツィア(Madama Lucrezia)。ローマ弁ではMadama Lugrezzia(ルグレッツィア)です。しゃべる像6体の中の紅一点です。腹部から上のみの胸像なのに3メートルもあります。古代ローマ時代、この辺りにはエジプトの神殿がありました。胸の辺りの紐の結び方の特徴から、イシデ神、あるいは巫女さんの彫像であると推測されています。それでは名前の由来は何でしょう?15世紀にナポリ王国の王であったアラゴンのアルフォンソ5世にはルクレツィアという愛人がいました。彼女は王の死後、この辺りに移り住んだそうです。それでこの像にマダム・ルクレツィアという名前が付けられました。1799年、ローマに暴動が起きてこの像が前向きに倒された時には、彼女の背中に、「見えないんですけど(Non ne posso veder pi?)」という紙が貼られたそうです。お次は唯一、お金を払わないと見られない「しゃべる像」の近くへ。昨日は夜のツアーだったのでもちろん見られませんでした。というのはカピトリーニ博物館の中庭にあるからなのです。おそらく日本人観光客が最も見ている「しゃべる像」だと思います。彼の名はマルフォーリオ。1世紀頃の大理石像で、海の神ネプチューンか、テヴェレ川の河神とか言われています。アウグストゥスのフォーロ内、軍神マルスの神殿跡で、発見されました。名前の由来は、このマルスのフォーロ(Foro di Marte)とか、海のフォーロ(Mare in Foro)とか、像が1588年まで置かれていたマメルティーノの牢周辺の地主マリオーリさんだかマルフオーリさんだかの苗字から取ったとか、諸説あります。それからコルソ通りを入ったラータ通りにあるファッキーノの像を見に行きます。男性が持っている樽に蛇口が付いているのでそこから水が出ており、古代ローマ水道のうちの一つ、ヴィルゴ水道の水が飲めます。ファッキーノは運び屋という意味で、ホテルのポーターの意味でも使われるので、わたしには実になじみの深い言葉です。鼻は折れてしまっているけど、愛嬌のある彫像です。最後のしゃべる像はバブイーノです。バブイーノ通りにある噴水に横たわっています。昨日はここまでは見に行きませんでした。これもかなり修復されて現在に至っています。丸一日、「しゃべる像(Statue Parlanti)」6体をめぐるローマ歩きをしてみるのはいかがですか?