田村明子さん インタビューQ 明子さんがピアノを始めたきっかけを教えて下さい。また、プロになろうと思ったターニングポイントがあったら教えて下さい。A ピアノは、母が趣味で弾いていたアップライトピアノが自宅にあり、3歳頃から触り始めたそうです。 童謡やオーケストラの曲が大好きで、自分でステレオのスイッチを入れてLPを聴いていた影響か、標題の付いた情感豊かな曲が好きでした。 5歳になってから習った先生から初めて渡された楽譜はバイエルではなく、トンプソン。赤くて光沢のある表紙の楽譜で、それぞれの曲に絵やお話が挿しこんであって、ピアノを弾くのが大好きになりました。 その後、何年かレッスンを重ねるうち、好きというだけではいかなくなりましたが、小学生の時に、母に京都で開かれたVl.のパールマンの演奏会に連れられ、水を打ったように静まり返ったホールで繰り広げられた、あたたかい生命力と躍動感に満ちた舞台に釘づけになり、こんな瞬間を私もどうしても舞台で味わってみたい!と思いました。 後にコンクールで受賞したことも、その後のモティベーションを引き上げてくれましたが、それよりも、このドキドキが怖いけどやめられなくて、気がついたらこの世界にどっぷり浸かっていた、という感じです。 Q 影響を受けた作曲家、または好きな作曲家はいらっしゃいますか? A 20代の頃はラフマニノフやプロコフィエフにも熱狂しましたが、今はやはりベートーヴェン、ブラームス、シューマン、そしてショパンの曲を好んで弾きます。 人生の上でも折り返し地点を過ぎたと思うこの頃は、曲の表に出る華やかさだけでは少々物足りなく感じるためか、自身の内面とより向き合える作品に惹かれます。 Q ピアニストとして一番良かった事は?そして苦しかった事はありますか? A 良かったと思える瞬間は、私の音楽がお客様のこころに届いたと感じる演奏が出来た時。そして苦しいのは、演奏会が始まる瞬間までです。特に、楽器や会場の音響は毎回違うので、自分の仕上げてきた音楽との連携がなかなか掴めないときは、本当にその場から逃げ出したくなることもあります。最後は開き直るのか、何とか折り合いをつけて舞台に立つので、不安なまま弾く、ということは、これまではほとんどないのですが・・。 Q ピアノを弾く時いつも心がけていらっしゃることがありましたら教えて下さい。 A ピアニストはほとんどが一人で弾くことが多いので、利己的になりやすい危険性を常に感じています。幸いにも、私の周りには職業は違っても、表に出る人間性と内面的な精神のバランスを絶妙に取る友人知人が多く、彼らとの交わりを通して私自身も学び、ピアニストである以前にまずは一人の人間としてふくよかであるよう努力したいと思っていす。 それから体力づくりも大切です。特別なことはしませんが、同じ姿勢で何時間も座り続けることが多いので、身体も精神もほぐすために、週に何日かは3、4kmほど歩くように心がけています。 また、クラシック音楽は、そもそも教会での典礼を発端としたものでもあり、信仰や文学、哲学に深く根付いたところで生まれた楽聖たちの作品と向き合うには、再現(演奏)する側が安易な考え方や生き方をしていては、たちまち弾き飛ばされてしまうように思うことがあります。 何事も便利になり、素速く結果が目に見える事に価値を求める現代に生きる演奏家の一人ですが、目に見えないことを毎日必死に求めていくうちにようやく少し何かを掴んだり、そしてまた模索したり、その繰り返しですが、そうすることで、彼らが書いた一つ一つの音符が初めて息づいた音となり、現代に生きる人々の心に届くのだと信じています。 Q ありがとうございました。 ジャンル別一覧
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