ワインと絵画がある生活

2006/04/04(火)00:27

ドンペリに勝ったと言われる ロジャー・グラート の真相

ワイン日記(635)

一部のネットショップで、いやというほど使い古されている「ドンペリ・ロゼに勝った」や「ドンペリ・ロゼと間違えた」などの宣伝文句。今回は、その対象になっているロジャー・グラートの真実を暴いてみましょう。 結論から先に言うと、ロジャー・グラートのカバはコストパフォーマンスに秀でたスパークリングですが、ドンペリニョンをはじめとするプレステージシャンパーニュにかなうものではありません。とくにロゼは、もっと厳しいと感じます。まあ値段が違うんだから当たり前なのですけどね。 注記:2006年に再テイスティングした結果は「ロゼ>白」だった。詳細はこちら(ロゼ, 白)。 で、事の真相を振り返ってみます。元ネタは2000年に放送された某番組です。最近のスペシャルなどでは独立した芸能人格付け番組として存在していますが、当時はある番組の1コーナーでした。食べ物や楽器、ワインなどについて、高級品と低価格品をブラインドで当てるというものです。 ここで忘れてはいけないのは、この番組の趣旨です。基本的には、 どちらが「高いか」を当てるゲームです。 食べ物などでは「天然のマグロ」はどっち、のような出題もありましたが、ワインの場合はすべて高い方を当てるという出題形式です。またワインや食べ物は、すべてアイマスクをした状態で行われます。 すでにこの時点で、次の2つの文章は間違いということになります。 ドンペリ・ロゼと間違えた 出題時点でドンペリニョンの名前は出ていないわけですから、間違えたという表現はおかしいです。 ドンペリ・ロゼに勝った ゲームの趣旨は、どちらが高いかを当てるものであって、ワイン自体の質を争うものではありません。高いワインはおいしいことが多いのは事実ですが、「高い」を「おいしい=勝った」と言い換えてしまうのは欺瞞です。さらなる補足は後半で。 さて、もっと掘り下げてみましょう。そのとき登場したのが次のワインです。 (A) ドン・ペリニョン ロゼ75年 (B) ロジャー・グラート ブリュットロゼ このときの参加者は次の5名でした。 ・元宝塚の女優 ・バンド系芸人 ・大物政治家 ・若い女性タレント ・中堅男性タレント 結局、高い方のワインを当てたのは元宝塚の女優と中堅男性タレントの計2名でした。過半数の3名が外したということを元に「ドンペリに勝った」などと言われはじめてしまうのでした。 興味深いのは参加者のコメントや実態です。宝塚出身の女優は当てたけど下戸でした。また外した3名のうち、バンド系芸人は 「Aは気が抜けてる、匂いはB」 とコメントし、大物政治家は 「Aはドブ川の水みたいな味がする。Aは下品でBは上品」 というコメントしています。事の真相が見えてきたのではないでしょうか。 つまり、このとき出されたドンペリニョンのロゼ(A)は、シャンパーニュの古酒にありがちな、炭酸の減少と強い熟成香があると予測されます。非常にマニアックなセレクトで、参加者をだまそうという意図を感じざるを得ません。 以上のことから、この番組の結果を一般的なワイン評価として適用する問題点をまとめてみます。 高いワインを当てるゲームであって、おいしいワインを選ぶゲームではない 理由は前述の通り。 参加者のワイン経験が著しく不均一 参加者のなかには、ワインを飲めない人やほとんど飲んだことのない人、未成年がいたこともありました(未成年の場合は香りだけ)。もちろん素人の意見も大切なのですが、ワインをほとんど飲んだことがない人の評価をあてにするってのはどうなんでしょう。 作為的なワインのセレクト 今回の例はとくにトリッキーですが、どの回も少なからず、だまそうという意図が感じられるものでした。 この番組の結果を引用しているのはワイン業界くらいなものです。ストラディバリウスのような超高級バイオリンと入門用のバイオリンを比較するときがありましたが、この結果をもって 「ストラディバリウスに勝った」 と宣伝する楽器屋はいないでしょう。まあストラディバリウスの場合、圧倒的な歴史的評価を得ているので、そんなことを言えばおつむを疑われてしまうってこともありますけどね。 そんなこともあってか2006年新年に放映されたスペシャルでは、安い方の銘柄は公表されませんでした。 ワイン専門誌の点数であおりすぎるショップも感心できませんが、このようなトリックが仕込まれたような番組まで利用するショップのスタンスには、さらなる不信感を抱かざるを得ません。 最後に補足すると、このようなショップのせいでロジャー・グラートが敬遠してしまうとしたら、それは残念です。もちろん、その逆の人もいると思いますけどね。 わたしが初めてロジャー・グラートを飲んだのは、番組放映前の1999年のことでした。当時は無名で、わたしがテリトリーとするワインショップでは「信濃屋」や「酒のやまいち」くらいでしか見かけませんでした。わたしが購入したきっかけも、単にドンペリニョンに似た怪しげな風貌に引かれ(笑)、次の2本を購入したのでした。 1994 Roger Goulart GRAND CUVEE NV Roger Goulart Brut Rose(※) ※現在ロゼはビンテージ付きのようですが、当時のメモにはNVと書いてありました。本当にNVだったのか、メモ間違いかは不明です。 ロゼにはそれほどの印象はなかったものの、GRAND CUVEEのおいしさに驚き、その後は定期的に買っていました。 だから、テレビに登場したときは驚いたし、さらにその後ネットショップが普及し、いろいろなショップがメルマガで使い出したのには本当に驚きました。 おかげでわたし自身ロジャー・グラートをほとんど飲まなくなってしまいました。あ~あ。こんなわたしが言うのもなんですが、とくにGRAND CUVEEは、先入観なしに飲めば楽しいスパークリングと思います。 <追記> 2006年に再テイスティングした結果はこっち(ロゼ, 白)。

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